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第5章
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誰かが見てる感覚が、この前からある。振り返っても誰もいない。気のせいかと、柚子は普段通りに過ごしていた。
大学構内で、陽葵と会うのは初めてだった。
「柚子」
芽依と一緒に図書館へと向かう途中だった。もうすぐテストがあるこの時期。アパートに帰ってもなかなか勉強が捗らないと、芽依と一緒に図書館へと向かっていたのだ。その途中で、陽葵が声をかけてきた。
陽葵が声をかけてきたことで、自分を見てる視線が陽葵かと思った。
「初めてね。大学で会うのは」
「陽葵さん」
芽依も柚子も驚きの顔を見せた。
「本当に同じ大学だったんですね」
柚子はそう言うと陽葵は笑っていた。
「陽葵さんがいることは知ってたけど、ほんとにいたんだ!」
芽依は目を輝かせて言う。
「大袈裟ね」
うふふっと笑う陽葵は笑顔の素敵な人だった。
こっちが陽葵の本当の姿なのかもしれない。
「あ、私、大学ではBRのファンなんて言ってないの。しかもファンチームにいるなんてね」
だから内緒よと、茶目っ気ある目で言った。そんな陽葵はふたりに「またね」と言って、友人の待つ場所へと走って行った。
「イメージが全然違う」
陽葵の後ろ姿を見て芽依は呟くように言った。
夕方。バイトがある芽依と別れて、柚子は大学を出る。帰りにコンビニ寄って帰ろうと考えてコンビニに向かった。
その道中、柚子に近付く一台の車。柚子の真横に着けるとドアが開き、柚子の腕を掴み車の中へ連れ込まれた。
「きゃ……っ!」
柚子のそんな叫び声も口を塞がれて誰も気付かない。
車はすぐに発進し、大学から遠ざかっていく。
(な、なに……?誰……?)
訳も分からず、キョロキョロと目だけを動かしていた。
車を運転してるのは男の人。助手席には女の人が座ってる。柚子を捕まえてるのは男の人。口を塞いだのも男の人。
男の人に捕まえられてるから、身動きが取れない。
「可愛い顔してんねぇ」
捕まえる男の人がそう言う。
「まだ何もしちゃダメよ」
助手席にいた女の人がこっちを振り向いて言った。
その顔は見覚えのある顔。それもその筈。高校の時の同級生、伊原紫だった。
「……っ!」
紫は柚子を見てふふっと笑うとスマホで写真を撮った。
「久しぶり」
「…………ッ!」
何かを言おうとしても言えない。口にタオルを入れられて話すことが出来ない。
「なんでって顔、してるね」
不適な笑顔を向けた紫は、スマホ画面を見せた。
「わたし、REIJI推しなの。なのに、REIJIの隣にはあんたがいるんだもん」
スマホ画面には零士と一緒に歩いてる柚子が写ってる。
「ねぇ……。どこで知り合ったの?」
「ん……っ………!」
「しゃべらないでよ、ムカつくから」
紫は隣の運転手に「もう着く?」と聞いていた。
「もうすぐ着くから」
柚子を捕まえる男たちにそう言うと、柚子のブラウスの前を引き千切った。
それを見た男たちはニヤリと笑った。
◇◇◇◇◇
柚子が捕まったという話が優奈のところへ入ったのは、そんなに時間はかからなかった。
大学を出たあたりで車に引っ張られて行ったのを、目撃した人がかなりいた。そのうちの数人は優奈のファンチームにいた人たち。柚子のことはPRは知っていた。
今回の噂のせいで、チームメンバーには言わないと不味いと判断したのか、優奈はチームに全てを話した。
それによって、柚子を守るように伝えたのだ。
そんなチームメンバーが目撃したのだから、すぐに優奈に連絡が入ったのだ。もちろん、陽葵もそれを見ていた。見ていたが、何も出来ず悔しい思いをしていた。
「優奈さん!」
優奈に電話を入れた陽葵が泣きそうな声で優奈の名前を呼んでいた。
たくさんのPRのメンバーが優奈に連絡を入れるものだから、優奈のスマホは鳴りっぱなしだった。
そんな優奈は、大学にいてすぐに湊のところへ駆けつけていた。
「愛川くん!」
優奈の慌てように湊は何事かと見ていた。話を聞いた湊は顔が怒りで赤くなっていくのを、優奈は初めて見た。いつも優しい湊しか見たことのない優奈は、湊のそんな姿に驚いていた。
授業を放置して湊は走り出して行く。その後を優奈も追いかけて走り出した。
どこにいるのか分からないのに、走り出す湊を追いかけて行く。
♪~♪~♪~!
優奈のスマホに着信が入る。チームの子が車のナンバーを覚えていて、そのナンバーの車を見つけたと。
「どこ!?」
叫んだ優奈に気付き、湊は優奈に近付く。
「うん、……そう。分かった。あなた達は帰りなさい。私がそっちに行く」
そう言うと湊に場所を告げた。
柚子が連れてこられたのは大学から離れたマンションの一室。それを突き止めたチームの子達。その場所へと向かう湊と優奈。
(急がなきゃ……っ)
悪い予感しない優奈は気持ちが焦っていた。
(どうか、無事でいて……っ!)
大学構内で、陽葵と会うのは初めてだった。
「柚子」
芽依と一緒に図書館へと向かう途中だった。もうすぐテストがあるこの時期。アパートに帰ってもなかなか勉強が捗らないと、芽依と一緒に図書館へと向かっていたのだ。その途中で、陽葵が声をかけてきた。
陽葵が声をかけてきたことで、自分を見てる視線が陽葵かと思った。
「初めてね。大学で会うのは」
「陽葵さん」
芽依も柚子も驚きの顔を見せた。
「本当に同じ大学だったんですね」
柚子はそう言うと陽葵は笑っていた。
「陽葵さんがいることは知ってたけど、ほんとにいたんだ!」
芽依は目を輝かせて言う。
「大袈裟ね」
うふふっと笑う陽葵は笑顔の素敵な人だった。
こっちが陽葵の本当の姿なのかもしれない。
「あ、私、大学ではBRのファンなんて言ってないの。しかもファンチームにいるなんてね」
だから内緒よと、茶目っ気ある目で言った。そんな陽葵はふたりに「またね」と言って、友人の待つ場所へと走って行った。
「イメージが全然違う」
陽葵の後ろ姿を見て芽依は呟くように言った。
夕方。バイトがある芽依と別れて、柚子は大学を出る。帰りにコンビニ寄って帰ろうと考えてコンビニに向かった。
その道中、柚子に近付く一台の車。柚子の真横に着けるとドアが開き、柚子の腕を掴み車の中へ連れ込まれた。
「きゃ……っ!」
柚子のそんな叫び声も口を塞がれて誰も気付かない。
車はすぐに発進し、大学から遠ざかっていく。
(な、なに……?誰……?)
訳も分からず、キョロキョロと目だけを動かしていた。
車を運転してるのは男の人。助手席には女の人が座ってる。柚子を捕まえてるのは男の人。口を塞いだのも男の人。
男の人に捕まえられてるから、身動きが取れない。
「可愛い顔してんねぇ」
捕まえる男の人がそう言う。
「まだ何もしちゃダメよ」
助手席にいた女の人がこっちを振り向いて言った。
その顔は見覚えのある顔。それもその筈。高校の時の同級生、伊原紫だった。
「……っ!」
紫は柚子を見てふふっと笑うとスマホで写真を撮った。
「久しぶり」
「…………ッ!」
何かを言おうとしても言えない。口にタオルを入れられて話すことが出来ない。
「なんでって顔、してるね」
不適な笑顔を向けた紫は、スマホ画面を見せた。
「わたし、REIJI推しなの。なのに、REIJIの隣にはあんたがいるんだもん」
スマホ画面には零士と一緒に歩いてる柚子が写ってる。
「ねぇ……。どこで知り合ったの?」
「ん……っ………!」
「しゃべらないでよ、ムカつくから」
紫は隣の運転手に「もう着く?」と聞いていた。
「もうすぐ着くから」
柚子を捕まえる男たちにそう言うと、柚子のブラウスの前を引き千切った。
それを見た男たちはニヤリと笑った。
◇◇◇◇◇
柚子が捕まったという話が優奈のところへ入ったのは、そんなに時間はかからなかった。
大学を出たあたりで車に引っ張られて行ったのを、目撃した人がかなりいた。そのうちの数人は優奈のファンチームにいた人たち。柚子のことはPRは知っていた。
今回の噂のせいで、チームメンバーには言わないと不味いと判断したのか、優奈はチームに全てを話した。
それによって、柚子を守るように伝えたのだ。
そんなチームメンバーが目撃したのだから、すぐに優奈に連絡が入ったのだ。もちろん、陽葵もそれを見ていた。見ていたが、何も出来ず悔しい思いをしていた。
「優奈さん!」
優奈に電話を入れた陽葵が泣きそうな声で優奈の名前を呼んでいた。
たくさんのPRのメンバーが優奈に連絡を入れるものだから、優奈のスマホは鳴りっぱなしだった。
そんな優奈は、大学にいてすぐに湊のところへ駆けつけていた。
「愛川くん!」
優奈の慌てように湊は何事かと見ていた。話を聞いた湊は顔が怒りで赤くなっていくのを、優奈は初めて見た。いつも優しい湊しか見たことのない優奈は、湊のそんな姿に驚いていた。
授業を放置して湊は走り出して行く。その後を優奈も追いかけて走り出した。
どこにいるのか分からないのに、走り出す湊を追いかけて行く。
♪~♪~♪~!
優奈のスマホに着信が入る。チームの子が車のナンバーを覚えていて、そのナンバーの車を見つけたと。
「どこ!?」
叫んだ優奈に気付き、湊は優奈に近付く。
「うん、……そう。分かった。あなた達は帰りなさい。私がそっちに行く」
そう言うと湊に場所を告げた。
柚子が連れてこられたのは大学から離れたマンションの一室。それを突き止めたチームの子達。その場所へと向かう湊と優奈。
(急がなきゃ……っ)
悪い予感しない優奈は気持ちが焦っていた。
(どうか、無事でいて……っ!)
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