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第5章
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優奈たちのファンチーム、PINK ROSE。そのチームと敵対しているチームがある。Dream ROSE。ここのリーダーをしている人が優奈とは犬猿の仲。あの優奈がそこまで人を嫌うのは意外だった。
久しぶりに優奈のマンションに呼ばれた柚子は、目の前にいる優奈と陽葵にドキドキしていた。
優奈は何度か会っている。だけど、陽葵はあのバレた時に突っかかってきたことがあるから、苦手だった。
「柚子」
陽葵が柚子に声をかけると、緊張で身体が強張る。
あの日の顔が忘れられない。
そんな柚子に気付いたのか、陽葵は柚子に頭を下げていた。
「ごめん。前、怖い思いさせたよね」
本当に申し訳なさそうな顔をした陽葵は柚子の顔をじっと見ていた。
柚子は首を横に振り「大丈夫です」と答えるしかなかった。
「柚子ちゃん」
優奈がアイスティーを出してくれた。その仕草を眺めるように見ていた。
「芽依から話は聞いてると思うけど、気を付けて」
「DRは危険な集団なんだ」
陽葵も一緒になって話をする。
「きっと柚子のことも調べあげてる」
「零士さんのマンションも知ってたりする?」
ふたりにそう聞いた。その言葉にふたりは顔を見合せる。そして柚子に向き直り、ふたりは「知ってる」と答える。
「知ってるファンは多いと思う」
「あのマンション、オートロックじゃないでしょ。なんであんな所に住んでるのか不思議で」
「あの場所から見える街が好きなんだって」
ベランダから見える夜の街は確かにキレイだ。この中にどれだけの人がどんな生き方をしてるのかと、それを思うだけで自分もちゃんと生きていかなきゃと思う。
「柚子はマンション行ったりしてるんだよね」
「はい。うちのアパートからも近いんで……」
「近いの?」
「お兄ちゃんが見つけたらしくて」
「愛川くんが?」
「私が大学入る時にお兄ちゃん、アパート探して今、お兄ちゃんと暮らしてる」
それでもアパートに帰るの少ない。今はほぼ、零士のところにいる。
「危険……かもよ」
優奈はそう呟くように言った。陽葵も柚子を見て頷く。
「一度、離れていた方が……」
そう言われて悲しい気持ちになった。実際、悲しい表情もしていたらしく、優奈と陽葵に酷く心配された。
「実は……」
2年生になって一度離れていたことを言った。でも耐えられなくてまた会い出してしまったこと、今は殆ど零士のマンションにいることを話した。
離れることが出来ない。
それはもうどんなことがあっても。
「……離れ……られなくて」
せつない声が部屋の中に充満する。柚子にとっても零士にとっても離れられない。
◇◇◇◇◇
「それじゃ、本当に気を付けるのよ」
あれからDRはどんなに危険な集団なのか、説明されていた。
独り歩きは危険だと言われたり、夜も出歩くなと言われたり。
ふたりは一度零士に会ってるからなのか、こんなにもREIJIの彼女を心配してくれる。
「陽葵。送ってあげて」
「分かった」
陽葵も一緒に優奈のマンションを出る。
歩いてアパートに向かう道中、陽葵は自分のスマホを出した。
「私の連絡先教える。何かあったら連絡して。駆けつけるから」
「でも……」
「私、あなたの大学の先輩よ」
「え」
「今、4年」
その事実に驚いた柚子は自分のスマホを取り出した。
「はい。登録出来た」
「私もです」
柚子よりちょっとだけ背の低い陽葵は、最初の印象よりちょっと違ってみえた。
「そういや、彼氏と出会ったのっていつ?デビュー前?」
「私は知らなかったんです。よくうちに来てたらしいんですが、部活と生徒会と塾で帰るのが遅かったから」
柚子は歩きながら出会ってから今までのことを思い返していた。
全く興味なかったBLUE ROSE。そのライブに芽依と行った帰りに零士と出会い、その後に湊に呼ばれて湊のアパートで再会した。いつの間にか湊のスマホから柚子の連絡先を抜き取った零士からのメッセージ。初めてデートした日。初めてキスした日。そのすべてを思い出していた。
そのどれを取っても大切な思い出。
(やっぱり離れることなんて出来ない……)
思い出しながら歩く柚子はいつもどんな時でも、零士しか見えてなかった……。
久しぶりに優奈のマンションに呼ばれた柚子は、目の前にいる優奈と陽葵にドキドキしていた。
優奈は何度か会っている。だけど、陽葵はあのバレた時に突っかかってきたことがあるから、苦手だった。
「柚子」
陽葵が柚子に声をかけると、緊張で身体が強張る。
あの日の顔が忘れられない。
そんな柚子に気付いたのか、陽葵は柚子に頭を下げていた。
「ごめん。前、怖い思いさせたよね」
本当に申し訳なさそうな顔をした陽葵は柚子の顔をじっと見ていた。
柚子は首を横に振り「大丈夫です」と答えるしかなかった。
「柚子ちゃん」
優奈がアイスティーを出してくれた。その仕草を眺めるように見ていた。
「芽依から話は聞いてると思うけど、気を付けて」
「DRは危険な集団なんだ」
陽葵も一緒になって話をする。
「きっと柚子のことも調べあげてる」
「零士さんのマンションも知ってたりする?」
ふたりにそう聞いた。その言葉にふたりは顔を見合せる。そして柚子に向き直り、ふたりは「知ってる」と答える。
「知ってるファンは多いと思う」
「あのマンション、オートロックじゃないでしょ。なんであんな所に住んでるのか不思議で」
「あの場所から見える街が好きなんだって」
ベランダから見える夜の街は確かにキレイだ。この中にどれだけの人がどんな生き方をしてるのかと、それを思うだけで自分もちゃんと生きていかなきゃと思う。
「柚子はマンション行ったりしてるんだよね」
「はい。うちのアパートからも近いんで……」
「近いの?」
「お兄ちゃんが見つけたらしくて」
「愛川くんが?」
「私が大学入る時にお兄ちゃん、アパート探して今、お兄ちゃんと暮らしてる」
それでもアパートに帰るの少ない。今はほぼ、零士のところにいる。
「危険……かもよ」
優奈はそう呟くように言った。陽葵も柚子を見て頷く。
「一度、離れていた方が……」
そう言われて悲しい気持ちになった。実際、悲しい表情もしていたらしく、優奈と陽葵に酷く心配された。
「実は……」
2年生になって一度離れていたことを言った。でも耐えられなくてまた会い出してしまったこと、今は殆ど零士のマンションにいることを話した。
離れることが出来ない。
それはもうどんなことがあっても。
「……離れ……られなくて」
せつない声が部屋の中に充満する。柚子にとっても零士にとっても離れられない。
◇◇◇◇◇
「それじゃ、本当に気を付けるのよ」
あれからDRはどんなに危険な集団なのか、説明されていた。
独り歩きは危険だと言われたり、夜も出歩くなと言われたり。
ふたりは一度零士に会ってるからなのか、こんなにもREIJIの彼女を心配してくれる。
「陽葵。送ってあげて」
「分かった」
陽葵も一緒に優奈のマンションを出る。
歩いてアパートに向かう道中、陽葵は自分のスマホを出した。
「私の連絡先教える。何かあったら連絡して。駆けつけるから」
「でも……」
「私、あなたの大学の先輩よ」
「え」
「今、4年」
その事実に驚いた柚子は自分のスマホを取り出した。
「はい。登録出来た」
「私もです」
柚子よりちょっとだけ背の低い陽葵は、最初の印象よりちょっと違ってみえた。
「そういや、彼氏と出会ったのっていつ?デビュー前?」
「私は知らなかったんです。よくうちに来てたらしいんですが、部活と生徒会と塾で帰るのが遅かったから」
柚子は歩きながら出会ってから今までのことを思い返していた。
全く興味なかったBLUE ROSE。そのライブに芽依と行った帰りに零士と出会い、その後に湊に呼ばれて湊のアパートで再会した。いつの間にか湊のスマホから柚子の連絡先を抜き取った零士からのメッセージ。初めてデートした日。初めてキスした日。そのすべてを思い出していた。
そのどれを取っても大切な思い出。
(やっぱり離れることなんて出来ない……)
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