もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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番外編

複雑な思い

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 零士が柚子に惚れてるのに気付いたのは高校3年の秋だった。
 会ったこともない筈のふたり。いつどこで知り合ったのか聞き出せずにいた。
 その日、零士がうちに来てまたBRを辞めることを止めに来ていた。
 バンドは楽しい。高校3年間、バンドやってて凄ぇ楽しくていい仲間にも出会えて充実していた。
 だけど、俺は子供の頃から医者になると言っていて、それを実現させるために医学部に行く。
 そもそもバンドをやってると言ったらオヤジにぶん殴られるだろう。


「なぁなぁ、湊!」
 俺ん家に来て説得しようとしてる零士が、本棚に飾ってあった家族写真を見つけた。
「これ誰?」
 そこに写ってる柚子を指した。
「妹の柚子。今、中3だよ」
 柚子はついこの前まで陸上やってて、生徒会もやってた。だから帰ってくるのも遅く、零士と会うことはなかった。

「いつもいないよね?」
「あー……、学校帰りに塾だからなぁ」
 受験生だから塾通いをしている。

 あとで分かったことだが、このやり取りは柚子の名前を知りたかったらしい。
 なんかムカつく。


 その日、零士が帰って行った後の姿を自分の部屋の窓から見ていた。
 たまたまその日は柚子の帰りも早かったのか、柚子の姿が見えた。
 すれ違い、零士が柚子に振り返っていた。何も言わずに柚子の後ろ姿を見ていた。
(アイツ……)
 その姿を見て俺は直感した。
 零士はいつもこうして柚子を見ていたのだ。柚子に惚れているとその時に知った。

 だけど柚子は、零士のことを知らない。
「ただいまー」
 一階で柚子の声が聞こえる。
 零士はまだ振り返ったまま動けないでいた。
 そんな姿を見た俺はどうすりゃいいのかと、悩むことになるなんて。
 まさか、このふたりが付き合うことになるなんて、その時の俺は思わなかった。
 
 
 柚子が笑っていられるのなら、俺はなんだってしてやる。
 柚子を悲しませないでくれ。
 心から祈る。
 

 俺の大事な親友と妹。
 ふたりには幸せになって欲しいと強く強く──……。



【複雑な思い】     END
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