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第5章
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新学期。
親元を離れて2年目になった。
「柚子」
振り返るとゆりえがそこにいた。
「ねぇ。ちょっと噂になってることがあるんだけど……」
ゆりえがどう言おうか迷いながら口を開いた。
「BRのREIJIに彼女がいるって話がネット上で噂になってるんだよね」
それは柚子も知ってる。どんな子かまでは出てないから知らないふりをしてそういう記事を見かける度にネットを閉じていたのだ。
「彼女かぁ。いないわけないと思うけど、ズルいよね。あんなかっこいい人を一人占め出来るなんて」
ゆりえはREIJIのファンらしく、悔しそうに言う。
「SHINだって彼女いるじゃん」
真司は不特定多数の彼女がいる。そのことはファンの間でも有名で、熱心なファンでもそこは仕方ないと見てる。だが、REIJIのファンは違うのだ。
陽葵のようにその【彼女】に対して攻撃的になったりもする。
「どんな女なんだろう。許せないよね」
柚子に同意を求めるゆりえに微かに笑うしかなかった。
(いくらなんでもゆりえには言えない……)
それでなくても秘密の恋をしていて、それがストレスにもなる。
だからといって、零士とのことをやめたいとは思わない。零士がいなくなったらどうなるか、自分でも分からないから。
「柚子!」
昼に芽依と待ち合わせて、ランチを取ってると聞こえてくる噂。
女の子たちはネットで流れていたREIJIの彼女のことが知りたいらしい。
「ほんと、噂話好きだよねぇ」
オムライスをつつきながら芽依は言う。
「誰が誰と付き合ってたっていいじゃないの」
そう思うが、やっぱり噂してしまうのは仕方ないことだ。
「柚子」
小声になった芽依は柚子とオムライスを食べながら言った。
「気を付けなよ」
黙って頷く柚子に芽依は笑った。
◇◇◇◇◇
『ネットニュース?』
電話の向こうから聞こえてくる声は少し疲れているようだった。
『そんなの気にしてたらキリがないよ』
さすがは芸能人。そんなのいちいち気にしていないらしい。
『あー……、でも』
「ん?」
『お前のことがバレたらヤバいな。俺だけならまだいいけど』
零士はそう言うと黙り込んだ。
『少し……、会うの控えるか?』
「え」
零士の言葉が突き刺さる。
(毎日会ってる訳じゃない。それなのに会えなくなるの……?)
そんなのは嫌っと柚子は苦しくなる。それでもバレることも嫌。ふたりの恋はリスクが大き過ぎるのだ。
それを分かってるから、我が儘を言えない。それを寂しくも思う零士はふたりでいる時には、柚子を甘えさせるように抱きしめるのだ。
『俺は柚子が傷つくのは見たくはないから』
そう言うと柚子からの返事を待った。それを分かっている柚子は、零士に「分かった」と言うしかなかった。
「おはよう!」
と、朝起きると零士に電話をかける。会えないからこうして電話をする。
そうしないと忙しい零士と話をする機会もなくなる。
(零士さんが……足りない……)
もっと零士と一緒にいたい。話したい。触れ合っていたい。
そう思うが、今の状況だと難しい。
(好きを何回言っても足りない)
(あれ……?)
(私って、零士さんに好きって言ったことあったかな……?)
付き合う時に言って、それから数回しか言ってないことに気付く。
(零士さんはたくさん言ってくれるのに、私は……)
零士は柚子に何度も何度も言ってくる。それに対して柚子は照れくささから何も言えないでいる。
(もし……、逆の立場だったら……?)
不安になることが想像出来た。今、会うことを控えてるからこそ、言葉が欲しい。
好きでいてくれてると実感が欲しい。それは零士も同じではないかと。
(そうだよね……。不安だよ……。言葉で言って欲しいよ)
自分がそうなんだからとスマホを握りしめる。
「零士さん……」
『ん?』
まだ眠そうな零士の声がする。
「……好き」
『柚子?』
普段言わない子が好きと言ったからかなり驚いている。驚いて眠気が飛んだくらい。
『どうした?』
「……ずっと、言って……ないなって……」
それ以上は何も言えなかった。
ふっと笑いが聞こえた。
『言わなくても分かるから』
「うん……」
『でも……、嬉しいよ』
電話の向こうではきっと照れているんだろう。それを柚子に悟られないように必死になってる。
『もう少し……、もう少し、待ってて』
零士は何かを決意しているかのように柚子にそう告げた。
その理由はなんなのか、柚子には分からなかった。
親元を離れて2年目になった。
「柚子」
振り返るとゆりえがそこにいた。
「ねぇ。ちょっと噂になってることがあるんだけど……」
ゆりえがどう言おうか迷いながら口を開いた。
「BRのREIJIに彼女がいるって話がネット上で噂になってるんだよね」
それは柚子も知ってる。どんな子かまでは出てないから知らないふりをしてそういう記事を見かける度にネットを閉じていたのだ。
「彼女かぁ。いないわけないと思うけど、ズルいよね。あんなかっこいい人を一人占め出来るなんて」
ゆりえはREIJIのファンらしく、悔しそうに言う。
「SHINだって彼女いるじゃん」
真司は不特定多数の彼女がいる。そのことはファンの間でも有名で、熱心なファンでもそこは仕方ないと見てる。だが、REIJIのファンは違うのだ。
陽葵のようにその【彼女】に対して攻撃的になったりもする。
「どんな女なんだろう。許せないよね」
柚子に同意を求めるゆりえに微かに笑うしかなかった。
(いくらなんでもゆりえには言えない……)
それでなくても秘密の恋をしていて、それがストレスにもなる。
だからといって、零士とのことをやめたいとは思わない。零士がいなくなったらどうなるか、自分でも分からないから。
「柚子!」
昼に芽依と待ち合わせて、ランチを取ってると聞こえてくる噂。
女の子たちはネットで流れていたREIJIの彼女のことが知りたいらしい。
「ほんと、噂話好きだよねぇ」
オムライスをつつきながら芽依は言う。
「誰が誰と付き合ってたっていいじゃないの」
そう思うが、やっぱり噂してしまうのは仕方ないことだ。
「柚子」
小声になった芽依は柚子とオムライスを食べながら言った。
「気を付けなよ」
黙って頷く柚子に芽依は笑った。
◇◇◇◇◇
『ネットニュース?』
電話の向こうから聞こえてくる声は少し疲れているようだった。
『そんなの気にしてたらキリがないよ』
さすがは芸能人。そんなのいちいち気にしていないらしい。
『あー……、でも』
「ん?」
『お前のことがバレたらヤバいな。俺だけならまだいいけど』
零士はそう言うと黙り込んだ。
『少し……、会うの控えるか?』
「え」
零士の言葉が突き刺さる。
(毎日会ってる訳じゃない。それなのに会えなくなるの……?)
そんなのは嫌っと柚子は苦しくなる。それでもバレることも嫌。ふたりの恋はリスクが大き過ぎるのだ。
それを分かってるから、我が儘を言えない。それを寂しくも思う零士はふたりでいる時には、柚子を甘えさせるように抱きしめるのだ。
『俺は柚子が傷つくのは見たくはないから』
そう言うと柚子からの返事を待った。それを分かっている柚子は、零士に「分かった」と言うしかなかった。
「おはよう!」
と、朝起きると零士に電話をかける。会えないからこうして電話をする。
そうしないと忙しい零士と話をする機会もなくなる。
(零士さんが……足りない……)
もっと零士と一緒にいたい。話したい。触れ合っていたい。
そう思うが、今の状況だと難しい。
(好きを何回言っても足りない)
(あれ……?)
(私って、零士さんに好きって言ったことあったかな……?)
付き合う時に言って、それから数回しか言ってないことに気付く。
(零士さんはたくさん言ってくれるのに、私は……)
零士は柚子に何度も何度も言ってくる。それに対して柚子は照れくささから何も言えないでいる。
(もし……、逆の立場だったら……?)
不安になることが想像出来た。今、会うことを控えてるからこそ、言葉が欲しい。
好きでいてくれてると実感が欲しい。それは零士も同じではないかと。
(そうだよね……。不安だよ……。言葉で言って欲しいよ)
自分がそうなんだからとスマホを握りしめる。
「零士さん……」
『ん?』
まだ眠そうな零士の声がする。
「……好き」
『柚子?』
普段言わない子が好きと言ったからかなり驚いている。驚いて眠気が飛んだくらい。
『どうした?』
「……ずっと、言って……ないなって……」
それ以上は何も言えなかった。
ふっと笑いが聞こえた。
『言わなくても分かるから』
「うん……」
『でも……、嬉しいよ』
電話の向こうではきっと照れているんだろう。それを柚子に悟られないように必死になってる。
『もう少し……、もう少し、待ってて』
零士は何かを決意しているかのように柚子にそう告げた。
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