68 / 104
第4章
18
しおりを挟む
BRが冬にライブを開催するのは珍しかった。それも年末。
年越しをしよう!とSHINが言い出したらしく、それの準備を長い間行っていた。
その為に柚子と零士はそんなに頻繁に会えなくなっていたのだ。それでもこの前は芽依の為に時間を作ってくれて、感謝しかない。
あの日、芽依は緊張はしていたものの、楽しんでいたみたいで柚子はほっとした。
『結局、チケットどうしたの?』
電話の向こうで声がする。
今回のライブのチケットは芽依が取れたらしく、煌太も誘って3人で行くことが決まっていた。
『そっか。取れたのか』
「うん」
『ライブ終わったら、マンション来る?』
「打ち上げは?」
『あるけど……』
と、そこまで言って零士は思い出した。マンションに行く途中で柚子が襲われたことを。
『やっぱ、いいや。遅いから』
「零士さん?」
『また今度にするわ。それに正月は実家帰るんだろ』
「うん」
『うちに来たら帰したくなくなる』
その言葉の意味がどんなことなのか、分かってしまった柚子は恥ずかしくなった。
零士だって、いつも柚子と一緒にいたい。それは仕事をしていても考える。
(本当は会いたい)
零士はそう思っていた。
ライブ前日の昼。零士はリハーサルでマンションを留守にした。
その間に柚子はマンションへと向かっていた。
柚子も会いたいと思っていたのだ。昼間はいないことを知っている。だけど、マンションに行きたかったのだ。
ガチャッと、玄関のドアを開けて中へと入る。忙しいからなのか、部屋の中が散らかっていた。
(これをいつも優樹菜さんが片付けているって言ってたっけ)
部屋の惨状を見てため息を吐く。しかもメンバー全員分やるというのだから恐ろしい。
優樹菜もメンバーに着いて回っていたりもするから忙しいだろうにと会ったこともない優樹菜に同情する。
(せめて零士さんの部屋はやっておいてあげないと優樹菜さんの負担になるわね)
せっせと部屋の片付けを始めた。
床には缶ビールの空き缶が転がっていて、シンクにはカップ麺の空。ゴミ箱もいっぱいになっていた。
「最後のごみの日に出さなかったのかな」
呆れてとりあえず分別して一纏めにした。
部屋の中には置いて置きたくないと、ベランダにごみ袋を出した。
掃除が終わると、バスルームへと向かう。そこには洗濯物もいっぱいになっていた。
「こんなに洗濯物……。着るものなくなるよ」
洗濯機に洗濯物を入れる。零士の下着があってもそれは恥ずかしいとは思わない柚子。湊のものといつも一緒に洗うからそれ程気にはしないから、その感覚で洗濯を回した。
「あ、乾燥機付きだ」
柚子はそのまま乾燥までかけられることにいいなぁと思っていた。
◇◇◇◇◇
夜も21時を回った頃、ガチャと玄関のドアが開いた。
「あれ?柚子?」
柚子の靴に気付いた零士が玄関から声をかける。
「おかえりなさい」
リビングでテレビを見ていた柚子が玄関の方を見て言った。
「なんだ。どうした?」
「会いたくなっちゃった」
その言葉にふっと笑い、柚子にキスをした。
そして部屋を見渡して「悪ぃ」とひとこと言った。
「メチャクチャだったろ?」
「うん。それでよくライブの後に来る?って言えたよね」
「ごめんごめん」
そう言って荷物を下ろすと、冷蔵庫から缶ビールを出した。
「あれ。なんか増えてる」
「何もないんだもん」
「ビール、よく買えたね」
「バイト先で買ったから。店長にお兄ちゃんのって言って買った」
まだ未成年の柚子はアルコールは買えない。バイト先のコンビニで店長にお願いしたらしかった。
「メシ、食った?俺、みんなで食って来たんだけど」
「うん。だと思った」
「そっか」
ビールを一口飲んで柚子の隣に座る。
「で、柚子ちゃんは今日帰るのかな?」
「帰らない」
柚子は零士に抱きついた。
(このぬくもりをずっと感じていたい)
優しく力強い零士の腕の中はとても安心する。
◇◇◇◇◇
「柚子……」
ベッドの中で優しく抱きしめられる。耳を甘く噛まれ「……ん」と反応する。
「柚子」
腕の中に柚子をすっぽりと入れた零士はそのぬくもりを噛みしめる。ただこうしてるだけでも幸せを感じてしまう。
「キスしていい?」
柚子の頬に触れ返事を待たずに短いキスをする。それでも幸せな時間だった。
「零士さん……」
零士の胸に顔を埋める柚子が可愛くて抱きしめる腕に力を入れてしまう。
いつもこうされるとギュッとしてしまう。何度も抱きしめても足りないのだ。
「明日……、ライブでしょ。もう寝よ?」
柚子はそう言って零士の顔を見た。その顔を見た零士は自分でも信じられないくらい、顔が赤くなるのを感じていた。
年越しをしよう!とSHINが言い出したらしく、それの準備を長い間行っていた。
その為に柚子と零士はそんなに頻繁に会えなくなっていたのだ。それでもこの前は芽依の為に時間を作ってくれて、感謝しかない。
あの日、芽依は緊張はしていたものの、楽しんでいたみたいで柚子はほっとした。
『結局、チケットどうしたの?』
電話の向こうで声がする。
今回のライブのチケットは芽依が取れたらしく、煌太も誘って3人で行くことが決まっていた。
『そっか。取れたのか』
「うん」
『ライブ終わったら、マンション来る?』
「打ち上げは?」
『あるけど……』
と、そこまで言って零士は思い出した。マンションに行く途中で柚子が襲われたことを。
『やっぱ、いいや。遅いから』
「零士さん?」
『また今度にするわ。それに正月は実家帰るんだろ』
「うん」
『うちに来たら帰したくなくなる』
その言葉の意味がどんなことなのか、分かってしまった柚子は恥ずかしくなった。
零士だって、いつも柚子と一緒にいたい。それは仕事をしていても考える。
(本当は会いたい)
零士はそう思っていた。
ライブ前日の昼。零士はリハーサルでマンションを留守にした。
その間に柚子はマンションへと向かっていた。
柚子も会いたいと思っていたのだ。昼間はいないことを知っている。だけど、マンションに行きたかったのだ。
ガチャッと、玄関のドアを開けて中へと入る。忙しいからなのか、部屋の中が散らかっていた。
(これをいつも優樹菜さんが片付けているって言ってたっけ)
部屋の惨状を見てため息を吐く。しかもメンバー全員分やるというのだから恐ろしい。
優樹菜もメンバーに着いて回っていたりもするから忙しいだろうにと会ったこともない優樹菜に同情する。
(せめて零士さんの部屋はやっておいてあげないと優樹菜さんの負担になるわね)
せっせと部屋の片付けを始めた。
床には缶ビールの空き缶が転がっていて、シンクにはカップ麺の空。ゴミ箱もいっぱいになっていた。
「最後のごみの日に出さなかったのかな」
呆れてとりあえず分別して一纏めにした。
部屋の中には置いて置きたくないと、ベランダにごみ袋を出した。
掃除が終わると、バスルームへと向かう。そこには洗濯物もいっぱいになっていた。
「こんなに洗濯物……。着るものなくなるよ」
洗濯機に洗濯物を入れる。零士の下着があってもそれは恥ずかしいとは思わない柚子。湊のものといつも一緒に洗うからそれ程気にはしないから、その感覚で洗濯を回した。
「あ、乾燥機付きだ」
柚子はそのまま乾燥までかけられることにいいなぁと思っていた。
◇◇◇◇◇
夜も21時を回った頃、ガチャと玄関のドアが開いた。
「あれ?柚子?」
柚子の靴に気付いた零士が玄関から声をかける。
「おかえりなさい」
リビングでテレビを見ていた柚子が玄関の方を見て言った。
「なんだ。どうした?」
「会いたくなっちゃった」
その言葉にふっと笑い、柚子にキスをした。
そして部屋を見渡して「悪ぃ」とひとこと言った。
「メチャクチャだったろ?」
「うん。それでよくライブの後に来る?って言えたよね」
「ごめんごめん」
そう言って荷物を下ろすと、冷蔵庫から缶ビールを出した。
「あれ。なんか増えてる」
「何もないんだもん」
「ビール、よく買えたね」
「バイト先で買ったから。店長にお兄ちゃんのって言って買った」
まだ未成年の柚子はアルコールは買えない。バイト先のコンビニで店長にお願いしたらしかった。
「メシ、食った?俺、みんなで食って来たんだけど」
「うん。だと思った」
「そっか」
ビールを一口飲んで柚子の隣に座る。
「で、柚子ちゃんは今日帰るのかな?」
「帰らない」
柚子は零士に抱きついた。
(このぬくもりをずっと感じていたい)
優しく力強い零士の腕の中はとても安心する。
◇◇◇◇◇
「柚子……」
ベッドの中で優しく抱きしめられる。耳を甘く噛まれ「……ん」と反応する。
「柚子」
腕の中に柚子をすっぽりと入れた零士はそのぬくもりを噛みしめる。ただこうしてるだけでも幸せを感じてしまう。
「キスしていい?」
柚子の頬に触れ返事を待たずに短いキスをする。それでも幸せな時間だった。
「零士さん……」
零士の胸に顔を埋める柚子が可愛くて抱きしめる腕に力を入れてしまう。
いつもこうされるとギュッとしてしまう。何度も抱きしめても足りないのだ。
「明日……、ライブでしょ。もう寝よ?」
柚子はそう言って零士の顔を見た。その顔を見た零士は自分でも信じられないくらい、顔が赤くなるのを感じていた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる