もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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第4章

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 BRが冬にライブを開催するのは珍しかった。それも年末。
 年越しをしよう!とSHINが言い出したらしく、それの準備を長い間行っていた。
 その為に柚子と零士はそんなに頻繁に会えなくなっていたのだ。それでもこの前は芽依の為に時間を作ってくれて、感謝しかない。
 あの日、芽依は緊張はしていたものの、楽しんでいたみたいで柚子はほっとした。



『結局、チケットどうしたの?』
 電話の向こうで声がする。
 今回のライブのチケットは芽依が取れたらしく、煌太も誘って3人で行くことが決まっていた。
『そっか。取れたのか』
「うん」
『ライブ終わったら、マンション来る?』
「打ち上げは?」
『あるけど……』
 と、そこまで言って零士は思い出した。マンションに行く途中で柚子が襲われたことを。
『やっぱ、いいや。遅いから』
「零士さん?」
『また今度にするわ。それに正月は実家帰るんだろ』
「うん」
『うちに来たら帰したくなくなる』
 その言葉の意味がどんなことなのか、分かってしまった柚子は恥ずかしくなった。
 零士だって、いつも柚子と一緒にいたい。それは仕事をしていても考える。
(本当は会いたい)
 零士はそう思っていた。


 ライブ前日の昼。零士はリハーサルでマンションを留守にした。
 その間に柚子はマンションへと向かっていた。
 柚子も会いたいと思っていたのだ。昼間はいないことを知っている。だけど、マンションに行きたかったのだ。

 ガチャッと、玄関のドアを開けて中へと入る。忙しいからなのか、部屋の中が散らかっていた。
(これをいつも優樹菜さんが片付けているって言ってたっけ)
 部屋の惨状を見てため息を吐く。しかもメンバー全員分やるというのだから恐ろしい。
 優樹菜もメンバーに着いて回っていたりもするから忙しいだろうにと会ったこともない優樹菜に同情する。
(せめて零士さんの部屋はやっておいてあげないと優樹菜さんの負担になるわね)
 せっせと部屋の片付けを始めた。
 床には缶ビールの空き缶が転がっていて、シンクにはカップ麺の空。ゴミ箱もいっぱいになっていた。
「最後のごみの日に出さなかったのかな」
 呆れてとりあえず分別して一纏めにした。
 部屋の中には置いて置きたくないと、ベランダにごみ袋を出した。
 掃除が終わると、バスルームへと向かう。そこには洗濯物もいっぱいになっていた。
「こんなに洗濯物……。着るものなくなるよ」
 洗濯機に洗濯物を入れる。零士の下着があってもそれは恥ずかしいとは思わない柚子。湊のものといつも一緒に洗うからそれ程気にはしないから、その感覚で洗濯を回した。
「あ、乾燥機付きだ」
 柚子はそのまま乾燥までかけられることにいいなぁと思っていた。



    ◇◇◇◇◇



 夜も21時を回った頃、ガチャと玄関のドアが開いた。
「あれ?柚子?」
 柚子の靴に気付いた零士が玄関から声をかける。
「おかえりなさい」
 リビングでテレビを見ていた柚子が玄関の方を見て言った。
「なんだ。どうした?」
「会いたくなっちゃった」
 その言葉にふっと笑い、柚子にキスをした。
 そして部屋を見渡して「悪ぃ」とひとこと言った。
「メチャクチャだったろ?」
「うん。それでよくライブの後に来る?って言えたよね」
「ごめんごめん」
 そう言って荷物を下ろすと、冷蔵庫から缶ビールを出した。
「あれ。なんか増えてる」
「何もないんだもん」
「ビール、よく買えたね」
「バイト先で買ったから。店長にお兄ちゃんのって言って買った」
 まだ未成年の柚子はアルコールは買えない。バイト先のコンビニで店長にお願いしたらしかった。

「メシ、食った?俺、みんなで食って来たんだけど」
「うん。だと思った」
「そっか」
 ビールを一口飲んで柚子の隣に座る。
「で、柚子ちゃんは今日帰るのかな?」
「帰らない」
 柚子は零士に抱きついた。
(このぬくもりをずっと感じていたい)
 優しく力強い零士の腕の中はとても安心する。



     ◇◇◇◇◇



「柚子……」
 ベッドの中で優しく抱きしめられる。耳を甘く噛まれ「……ん」と反応する。
「柚子」
 腕の中に柚子をすっぽりと入れた零士はそのぬくもりを噛みしめる。ただこうしてるだけでも幸せを感じてしまう。

「キスしていい?」
 柚子の頬に触れ返事を待たずに短いキスをする。それでも幸せな時間だった。
「零士さん……」
 零士の胸に顔を埋める柚子が可愛くて抱きしめる腕に力を入れてしまう。
 いつもこうされるとギュッとしてしまう。何度も抱きしめても足りないのだ。

「明日……、ライブでしょ。もう寝よ?」
 柚子はそう言って零士の顔を見た。その顔を見た零士は自分でも信じられないくらい、顔が赤くなるのを感じていた。
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