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第5章
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「平川」
ぎゅっと抱きしめた柚子を優奈に託す。
「お前、誰かに服持って来させろ。そのままじゃ柚子、帰れねぇ……」
ゆっくり立ち上がった湊は、壁に拳を振り上げた。
ガッ!
鈍い音が響き、壁に穴を開けた。その音に優奈たちはビクッと身体を震わせた。
(芽依から聞いていたけど、柚子ちゃんのことになると容赦ないのね)
優奈は湊を見て本当にびっくりしていた。
「俺の妹を……、ここまでしたからには覚悟あんだろうなぁ……」
女に手は挙げたことのない湊だったが、柚子がこんな目に合わされたんじゃ理性を抑えられなくなっている。
湊の目が怖い。
どうにかしなきゃ……。
そう思う優奈だが、どうしたらいいのか分からない。
「………ちゃ……」
優奈の腕の中で柚子が声をあげた。
「……めて」
その微かな声に気付いた湊は、柚子に振り返る。
「柚子!」
柚子に近寄ると頭を撫でる。
「……平気か?」
どう見ても平気ではない。だがそう言うしかなかった。
「……い……はら……さん、こう……こうの、クラス……メートな……の」
やめてと必死で訴える柚子に湊は苦しかった。こんなことされてるのに、やめて欲しいと願う柚子は、どこまでもお人好しなんだろうと。
「いいから黙れ」
柚子に優しく言うと、紫の方を見る。その目は柚子に向けられたものとは違って冷たい。その目を向けられた紫と華は背筋が凍るようだった。
「柚子の前ではお前らをどうにかしようとは思わねぇ……。けど次になんかしたら容赦ねぇからな」
低い声でふたりを見下ろす。ふたりは何か言おうとしていたが、何も言えなかった。
「華!紫!」
他の部屋に待機していた男たちがリビングに入って来る。
その男たちを湊は睨んでいた。その男たちに近寄り、首根っこを捕まえて壁に叩きつけるように抑えた。
「妹に……、何をした」
ますます低い声を出す湊に、何も出来なかった。
湊の力が強く動けなかった。
「あんたは一体、誰!?」
華が叫ぶ。それに振り返りキッと睨んだ。
「兄貴だよ。柚子の」
そう言った所で、玄関の方が騒がしくなった。
優奈が呼んだ子たちが続々と入って来たのだ。
「優奈さん!」
陽葵が優奈が抱えてる柚子に持ってきたタオルケットをかけた。
「柚子。大丈夫?」
声をかけても返事はない。
「車は?」
「外につけてある」
「愛川くん。もうそいつら放っておいて、行きましょう。柚子ちゃん、病院に連れていかなきゃ」
湊は紫たちを睨んだままだった。
「愛川くん!」
「……分かってる」
柚子を抱きかかえた湊はリビングを出ていく。リビングには柚子の荷物が散らばっていた。それを優奈は拾った。
「華。警察に突き出されないだけマシと思って」
立ち去ろうとした時、紫が聞いた。
「あんた達は、愛川さんがREIJIと付き合ってるって知って……」
「知ってるわ。だから何?」
冷たく紫に視線を向ける。
「平気……なのか」
「嫌な気持ちはしない。だって、REIJIがあの子をどれだけ想ってるか、見ちゃってるしね」
優奈はそのままマンションを出ていく。
◇◇◇◇◇
ベッドに横たわる柚子を見て、悔しく思う。こんなことになる前に何か行動を起こすべきだったと、優奈は悔しかった。
華たちが何かしようとしてることを知っていた。それを止められなかった。
「ごめん……」
眠る柚子にそう言う。
スーッ……。
後ろで引き戸が開き、湊が病室に入って来た。
「愛川くん」
「柚子は?」
「まだ眠ってる」
あちこち傷だらけになっている柚子を苦しい顔を見ていた。そんな湊を見るのがツラい。
「結局は警察に連絡いくだろうなぁ」
優奈が華たちに言ったことに対しての言葉だった。
「そうね……。でもそれだけのことをしたんだもの」
湊の方を向くことなく話す優奈の肩をポンと叩いた。
「お前が気に病むことねぇよ」
「でも……」
「どのみち、あいつらは柚子を狙っただろうしな。俺も少し気を付けてればよかったんだ」
「愛川くん……」
「もういいから、帰りな。柚子は俺が見てる」
「うん………」
それ以上、何かを言うことは出来ずに優奈は病室を出ていった。
ぎゅっと抱きしめた柚子を優奈に託す。
「お前、誰かに服持って来させろ。そのままじゃ柚子、帰れねぇ……」
ゆっくり立ち上がった湊は、壁に拳を振り上げた。
ガッ!
鈍い音が響き、壁に穴を開けた。その音に優奈たちはビクッと身体を震わせた。
(芽依から聞いていたけど、柚子ちゃんのことになると容赦ないのね)
優奈は湊を見て本当にびっくりしていた。
「俺の妹を……、ここまでしたからには覚悟あんだろうなぁ……」
女に手は挙げたことのない湊だったが、柚子がこんな目に合わされたんじゃ理性を抑えられなくなっている。
湊の目が怖い。
どうにかしなきゃ……。
そう思う優奈だが、どうしたらいいのか分からない。
「………ちゃ……」
優奈の腕の中で柚子が声をあげた。
「……めて」
その微かな声に気付いた湊は、柚子に振り返る。
「柚子!」
柚子に近寄ると頭を撫でる。
「……平気か?」
どう見ても平気ではない。だがそう言うしかなかった。
「……い……はら……さん、こう……こうの、クラス……メートな……の」
やめてと必死で訴える柚子に湊は苦しかった。こんなことされてるのに、やめて欲しいと願う柚子は、どこまでもお人好しなんだろうと。
「いいから黙れ」
柚子に優しく言うと、紫の方を見る。その目は柚子に向けられたものとは違って冷たい。その目を向けられた紫と華は背筋が凍るようだった。
「柚子の前ではお前らをどうにかしようとは思わねぇ……。けど次になんかしたら容赦ねぇからな」
低い声でふたりを見下ろす。ふたりは何か言おうとしていたが、何も言えなかった。
「華!紫!」
他の部屋に待機していた男たちがリビングに入って来る。
その男たちを湊は睨んでいた。その男たちに近寄り、首根っこを捕まえて壁に叩きつけるように抑えた。
「妹に……、何をした」
ますます低い声を出す湊に、何も出来なかった。
湊の力が強く動けなかった。
「あんたは一体、誰!?」
華が叫ぶ。それに振り返りキッと睨んだ。
「兄貴だよ。柚子の」
そう言った所で、玄関の方が騒がしくなった。
優奈が呼んだ子たちが続々と入って来たのだ。
「優奈さん!」
陽葵が優奈が抱えてる柚子に持ってきたタオルケットをかけた。
「柚子。大丈夫?」
声をかけても返事はない。
「車は?」
「外につけてある」
「愛川くん。もうそいつら放っておいて、行きましょう。柚子ちゃん、病院に連れていかなきゃ」
湊は紫たちを睨んだままだった。
「愛川くん!」
「……分かってる」
柚子を抱きかかえた湊はリビングを出ていく。リビングには柚子の荷物が散らばっていた。それを優奈は拾った。
「華。警察に突き出されないだけマシと思って」
立ち去ろうとした時、紫が聞いた。
「あんた達は、愛川さんがREIJIと付き合ってるって知って……」
「知ってるわ。だから何?」
冷たく紫に視線を向ける。
「平気……なのか」
「嫌な気持ちはしない。だって、REIJIがあの子をどれだけ想ってるか、見ちゃってるしね」
優奈はそのままマンションを出ていく。
◇◇◇◇◇
ベッドに横たわる柚子を見て、悔しく思う。こんなことになる前に何か行動を起こすべきだったと、優奈は悔しかった。
華たちが何かしようとしてることを知っていた。それを止められなかった。
「ごめん……」
眠る柚子にそう言う。
スーッ……。
後ろで引き戸が開き、湊が病室に入って来た。
「愛川くん」
「柚子は?」
「まだ眠ってる」
あちこち傷だらけになっている柚子を苦しい顔を見ていた。そんな湊を見るのがツラい。
「結局は警察に連絡いくだろうなぁ」
優奈が華たちに言ったことに対しての言葉だった。
「そうね……。でもそれだけのことをしたんだもの」
湊の方を向くことなく話す優奈の肩をポンと叩いた。
「お前が気に病むことねぇよ」
「でも……」
「どのみち、あいつらは柚子を狙っただろうしな。俺も少し気を付けてればよかったんだ」
「愛川くん……」
「もういいから、帰りな。柚子は俺が見てる」
「うん………」
それ以上、何かを言うことは出来ずに優奈は病室を出ていった。
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