もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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第5章

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 あの日。柚子が暴行を受けた日から、暫く会うのを控えた。会いたい思いは常にあるが、柚子の身体の方が大事だった。
 今回のことで、零士は何かを発信することはなかった。それは柚子が嫌がったからだった。
(俺はいいんだけど、どうにでもなる。けど……)
 だからといってどうにかしたかった。柚子のことが何よりも気がかりだった。柚子が巻き込まれるのは許せない。どこからか嗅ぎ付けたマスコミに追われるかもしれない。

「はぁ……」
 大きなため息を吐く。
「なんだよ、零士」
 スタジオで椅子に座ってる零士を見下ろしていたのは真司だった。項垂れて、ため息を吐いた零士に怪訝な顔をする。
「お前は本当タフだよな。色んなイミで」
「はぁ?」
 零士の言った意味が分からなくてそう返した真司は、零士の隣に座った。
「何があったんだよ」
「いや。なんでも」
 いくらなんでも真司に話せることじゃない。話したところで頓珍漢な答えが返ってくるのが分かる。
 真司も柚子との交際を知ってるが、それを言っても鼻で笑われるだけだろう。くだらないことで悩んでると。ひとりの女にのめり込んでるからだと。


「大槻くん、いる?」
 珍しくスタジオに顔を出した優樹菜。バンドのマネージャーとして動き回る優樹菜は、こう見えて忙しい。彼氏を作る暇もない。
「スマホ、電源切ってる?」
「え」
「ずっとかけてるのに出ないから」
 そう言われてスマホを見ると電源が落ちてる。
「ありゃ」
 充電を忘れたらしい零士はスタジオにある予備の充電器にスマホを差した。

「で、なんかあったのか」
 と、優樹菜に向くと優樹菜は真剣な表情をしていた。その表情が何を意味するのか理解するのに時間がかかった。
「事務所に悪いしらせ」
 その場にいた零士、真司、崇弘、輝が優樹菜の方を見ていた。



「大槻くんと柚子ちゃんの写真が出回ってる。週刊誌にも載るわ」




(え……)
 週刊誌に載る。写真が出回ってる。
 その事実が頭の中をグルグルと回る。
 一番恐れていたことだった。
 柚子の写真が出回ってるのが信じられなかった。自分のことはいい。だけど柚子は──……。


「大槻くん。私、言いにくいことを今から言うわね」
 優樹菜の言おうとしていることは、何となく想像ついた。それは零士にとっても柚子にとっても辛く重いことだった。

 すーっと大きく息を吸った優樹菜は零士の顔を見る。
 そして重い口を開いた。



「柚子ちゃんと……、彼女と、別れなさい。これは事務所の命令よ」
 優樹菜の言葉に零士は頭を抱える。離れられないことは証明済みだ。離れてもまた磁石のようにくっついてしまう。
 
 事務所がなぜ別れろと言ったのか、それは零士が真司とは違って相手がまだ女子大生だからだ。


(別れる……?柚子と……?)
 別れなければ、柚子が傷付く。それは分かってる。
 けど、その先は?
 別れた後、柚子はどうなる?
 ちゃんと生きていける?

 柚子を見てると、零士がいなくなったら生きていけないような気がする。いつも零士を想って零士の為に行動を起こして、零士の為に笑う。
 そんな柚子が零士と離れられるのか……?

 答えはNOだ。
 それは勿論、零士も同じことだ。

 ふたりが離れてしまったらきっと、生きてはいけない──……。
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