もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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第4章

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「零士さんは元気?」
 BRのメンバーがアメリカへ発って1ヵ月。柚子たちは大学生活に少し慣れてきた頃のこと。
 大学のカフェテリアに柚子はいた。一緒にいたのはもちろん、芽依だった。
「会えないの、ツラいでしょ」
「まぁ……」
「夏休みだったらねぇ」
 夏休みだったら会いに行ってたかもしれない。だけど、それはきっと湊が許さないだろう。
「そういえば、柚子。アイツは何?」
 自分たちが座ってると、窓の外にいるひとりの同年代の男の子。
 柚子に向かって手を振っていた。

「また……」
 最近よく声をかけられる同じ教室で学んでいる男の子、木澤学。どうやら柚子に気があるようで行く先々でこうして惹き付けようとしていた。
「無視していいよ」
 柚子には彼がいることをちゃんと伝えているのだけど、それでも懲りない。
「どっかの誰かみたいだね」
 芽依がポツリと言った。
 高校のクラスメートの勇一を思い出されるこの学に、柚子はうんざりしていた。


「出ようか」
 柚子と芽依はカフェテリアを出ていく。
 カフェテリアを出たところで学が、待ち構えているのだがそれを、無視して歩いていく。
「愛川!なぁ、愛川!」
 グイッと腕を掴まれた柚子はバランスを崩しそうになる。
 慣れないヒールが更にバランスを取れにくくしているのだ。
「何するの」
「俺と、付き合えよ」
 そう告げた学はニッと笑う。
「無理。彼氏いるから」
 このやり取り何度目だろう。勇一とのやり取りもこんな感じだったなと思い出す。

「ほんと、しつこい!」
 柚子は本気で怒っているのだが、学には全く意味がないのかへらへらとしている。
「なんであんたはこんなのに付きまとわれるんだろうねぇ」
 芽依が隣で可哀想と呟く。
「あんた、誰だよ」
 芽依に気付くと学は嫌そうな顔をした。
「あんたこそ、誰よ。この子に付きまとったって無理よ」
「あ!?」
 威圧的な声を上げる学に芽依は平然としている。
「柚子。行こ」
 と、ふたり歩いて行ことする。学は後ろから着いてくるのが分かる。
「柚子。湊さんに連絡出来る?あれ、ヤバいよ」
 芽依がそう言うのと同時にスマホを取り出して電話をかける。
 湊はすぐに電話に出た。
「お兄ちゃん!ちょっと来て!」
 湊の大学と柚子の大学は割りと近い。何があったのか聞かなくても飛んでくる。
 暫く構内をあちこち逃げていた柚子と芽依。その後ろからずっと付きまとう学。それを構内にいる学生たちはずっと見ていた。

「なぁ!愛川!待てって!」
 無視しながら逃げていたら、目の前に長身の人影が見えてきた。
 柚子は芽依と一緒にその人の後ろに隠れる。
「愛川!」
 学がもう一度呼ぶとその人影が「なんだ」と答える。
 学がその人影を見て「お前じゃねぇ!」と叫ぶ。
「なぁ、愛川!」
「俺も愛川だが」
「え」
「柚子、これ何?」
 隠れてる柚子に聞く人物は湊だった。
「しつこいの、そいつ」
 じっと学を見て「ふ~ん」と言った。
「なんだよ、てめぇはっ!」
 バカにされたと感じた学は湊に掴みかかる。
「柚子にちょっかい出してんじゃねぇよ」
「柚子って呼び捨てにしてんじゃねー!愛川は俺の彼女になる女だ!」
「て、言ってるけど、なんなの?」
 振り返り柚子に聞いてくる湊に「しつこく彼女になれって言ってくるの」と答える。
「ふ~ん」
 可哀想にという顔を学に向けると、「滝山みたいだ」と呟く。
「ほんと、こんなやつに付きまとわれやすいな」
「私に言われても……」
 不貞腐れる柚子の頭を撫でると学を見た。
「悪いけど、こいつ、彼氏いるんだよ」
「あんた一体何なんだよ!愛川は俺とっ!」
「お前じゃ無理だ」
「そんなの、分からねぇだろ!」
 と、喚く姿を見て「ガキだなぁ」と言う。
「そもそも誰なんだよ、お前はっ!」
「柚子の兄貴だけど。あんまり妹困らせるんじゃねぇよ」
 威圧的な湊に学は一瞬怯んだ。

「兄貴……?」
 指差して柚子を見る学は、ほんとかよという顔をした。
「私のお兄ちゃん。怒らせると怖いよ」
「柚子にちょっかい出してみろ。すぐ飛んでくるからな」
 学を見下ろし、威圧する。学は頷くしかない。
「お前ら、講義は?」
 柚子たちに振り返ると、そう聞いた。
「今日はもうないよ」
「だったらさっさと帰れ。だからこんな変なのに掴まるんだよ」
 そう言いながらふたりの背中を押す。
「ありがとう、お兄ちゃん」
 柚子は芽依と一瞬に歩いて行った。
 その姿を見送った後、もう一度学を見下そろした。
「冗談抜きで妹に手ぇ、出すな。アイツには心底惚れてる男がいる。邪魔すんな」
 これまで柚子が聞いたことのない低い声を出す。こんな声は柚子の前では出さない。こんな声を出す時は本当に怒っていて、柚子の前では出したくない時だけだ。
 今までもそうやって柚子を苛めたり困らせたりするやつにはこうしてきた。
 それが湊の役割だった。
 そうやって守ってきたのだった。

「あんたはっ!本当に愛川の兄貴……なんですか?」
 戻ろうとした湊にそう言う。学をじっと睨み「そうだ」と言った。
 
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