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第4章
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荷物は洋服や手元に置いておきたい本やCD。アクセサリーやメイク用品。アルバムなどはここに置いていく。
持っていくものと置いておくものと別けていく。
そこまで荷物が多いわけじゃないのに、選別するのが大変だった。
クローゼットの中を開くとこの前まで着ていた高校の制服がかかっている。3年間着たその制服をもう着ることはないんだと寂しく思う。
通学の為に使っていたリュックはそのまま持って行くことにした。
コン!
窓ガラスに小石が当たる。煌太が柚子を呼んでいた。
窓を開けるとニカッといつもの笑顔で柚子を見ていた。
「よっ。準備終わったか?」
「あとちょっと」
「明日だもんな」
「そっちは結局、寮に入るんだっけ?」
「おう」
「みんなバラバラになるね」
「お前は芽依と一緒だろ」
「まあね」
そう言うとまた寂しさが込み上げる。
「ま、みんな同じ都内だし会おうと思えば会えるよ」
その言葉に「うん」と、頷いた。
◇◇◇◇◇
「じゃ湊、柚子をお願いね」
母親が湊に何度目かのお願いをする。もうずっと「柚子。お願い」と言ってる。
父親は何も言わないがそれでも心配しているのが分かる。
「何度も何度も言わなくていいよ」
傍で聞いていた柚子が呆れてしまうくらいに言ってる。
「何かあったら帰ってくるのよ」
柚子にもずっとそう言い続けてる母親にため息を吐き、柚子をさっさと車に押し込める。
「母さん、あんまり心配し過ぎてると老けるよ」
「湊っ!」
「少しは子供信用してよ」
そう言うと車に乗り込む。
窓から両親を見て「行ってきます」と柚子は言った。
車が走り出しても両親はその場から動けなくなっていた。
「行っちゃったわ」
「ああ」
「寂しくなるわね」
「ああ」
父親はこれ以上何も言わず、家の中に入って行く。母親もそれに倣うように家へ入って行く。
家の中がガランとしてるようだった。
「こんなに広かったかしらね……」
ポツリと呟いてから、家事をする為にリビングへと入って行った──……。
◇◇◇◇◇
車は都内へ入り、いつも通る道とは違う道を走っていく。
「今度は前のところより零士のマンションに近くなった」
と言うように、ビルやマンションが立ち並ぶエリアから路地に入って行ったところにアパートがある。零士のマンションには歩いては行けなくはない。
「前のアパートよりは外観がキレイ」
「前は安アパートだからな」
「ここは?」
「ちょっと高い」
「お前が一緒だからな。本当はオートロックのマンションって言ってたんだけど、さすがに負担デカイだろ。父さんたちが」
家賃等は実家で出すことになってる。ただ食費とスマホ代などは自分たちでと言われていた。
「大学の金だって相当なもんなのに」
一番お金を使わせてるのは自分だから申し訳ないという顔をした。
「お前は無理にバイトなんてするんじゃないよ」
柚子にお金は出させたくないという兄心なのか、そう言った。
「そんなわけにはいかないでしょ」
高校の時はコンビニでバイトをしたりしたけど、そんなに長くはやってきていない。それを知ってるから湊は心配なのかもしれない。
「とにかく勉強頑張れ」
そう言うと車を停めた。
「家具とかはもう適当に設置してるから文句言うなよ」
車から荷物を運び出して2階の奥の部屋へと入って行く。柚子もその後を追うようにして入った。
外観がキレイだから、中もキレイなんだろうなと思ったらやっぱりキレイだった。
このアパートは湊と父親が決めた。
仕事帰り、湊と待ち合わせては探してくれていた。
「柚子の部屋はこっちな」
玄関入って右側の部屋が柚子の部屋として、ベッドやらテレビ、チェストが運び込まれていた。
「家具も親父が決めたから好みじゃないかもしれないけどな」
「うん。平気」
荷物を部屋に置いた湊は「残り取ってくるから片付けてろ」と言った。
その言葉通りに片付け始める。
(テレビも買ってくれたんだ)
安いものじゃないのに、こうしてお金を出しくれる父親に感謝しかない。
クローゼットにはまだ着るには早い服をそのまま入れて、用意されたチェストには今使う服を入れた。
柚子はワンピースを着ることが多いからクローゼットにはハンガーにかけたワンピースも何着か入れる。
今まで兄にもらった服、バッグなどもクローゼットにしまった。
化粧品などはチェストの上に置いた。ベッドの上には実家から連れてきたクマとウサギのぬいぐるみ。なぜか置いてくることが出来なかった。
「これで最後か」
と紐で結ばれた本の束を湊は置いた。
こうしてみると服が多い。それも湊に買ってもらった服。
「靴はこっちに入れておけよ」
玄関にはシューズラックがあった。それなり大きめのシューズラック。湊はこれが決め手のひとつなんだろう。
シューズラックを開けると湊の趣味のひとつであるスニーカーがギッシリ入っていた。
「お兄ちゃん、またスニーカー増えた?」
「限定が抽選で買えたんだよ」
「好きだね」
湊はスニーカーが好きなのでスニーカーがたくさん入るシューズラックが一番大事なのかも知れない。
柚子は持ってきた靴をその隙間に入れてまた自分の部屋を片付け始めた。
持っていくものと置いておくものと別けていく。
そこまで荷物が多いわけじゃないのに、選別するのが大変だった。
クローゼットの中を開くとこの前まで着ていた高校の制服がかかっている。3年間着たその制服をもう着ることはないんだと寂しく思う。
通学の為に使っていたリュックはそのまま持って行くことにした。
コン!
窓ガラスに小石が当たる。煌太が柚子を呼んでいた。
窓を開けるとニカッといつもの笑顔で柚子を見ていた。
「よっ。準備終わったか?」
「あとちょっと」
「明日だもんな」
「そっちは結局、寮に入るんだっけ?」
「おう」
「みんなバラバラになるね」
「お前は芽依と一緒だろ」
「まあね」
そう言うとまた寂しさが込み上げる。
「ま、みんな同じ都内だし会おうと思えば会えるよ」
その言葉に「うん」と、頷いた。
◇◇◇◇◇
「じゃ湊、柚子をお願いね」
母親が湊に何度目かのお願いをする。もうずっと「柚子。お願い」と言ってる。
父親は何も言わないがそれでも心配しているのが分かる。
「何度も何度も言わなくていいよ」
傍で聞いていた柚子が呆れてしまうくらいに言ってる。
「何かあったら帰ってくるのよ」
柚子にもずっとそう言い続けてる母親にため息を吐き、柚子をさっさと車に押し込める。
「母さん、あんまり心配し過ぎてると老けるよ」
「湊っ!」
「少しは子供信用してよ」
そう言うと車に乗り込む。
窓から両親を見て「行ってきます」と柚子は言った。
車が走り出しても両親はその場から動けなくなっていた。
「行っちゃったわ」
「ああ」
「寂しくなるわね」
「ああ」
父親はこれ以上何も言わず、家の中に入って行く。母親もそれに倣うように家へ入って行く。
家の中がガランとしてるようだった。
「こんなに広かったかしらね……」
ポツリと呟いてから、家事をする為にリビングへと入って行った──……。
◇◇◇◇◇
車は都内へ入り、いつも通る道とは違う道を走っていく。
「今度は前のところより零士のマンションに近くなった」
と言うように、ビルやマンションが立ち並ぶエリアから路地に入って行ったところにアパートがある。零士のマンションには歩いては行けなくはない。
「前のアパートよりは外観がキレイ」
「前は安アパートだからな」
「ここは?」
「ちょっと高い」
「お前が一緒だからな。本当はオートロックのマンションって言ってたんだけど、さすがに負担デカイだろ。父さんたちが」
家賃等は実家で出すことになってる。ただ食費とスマホ代などは自分たちでと言われていた。
「大学の金だって相当なもんなのに」
一番お金を使わせてるのは自分だから申し訳ないという顔をした。
「お前は無理にバイトなんてするんじゃないよ」
柚子にお金は出させたくないという兄心なのか、そう言った。
「そんなわけにはいかないでしょ」
高校の時はコンビニでバイトをしたりしたけど、そんなに長くはやってきていない。それを知ってるから湊は心配なのかもしれない。
「とにかく勉強頑張れ」
そう言うと車を停めた。
「家具とかはもう適当に設置してるから文句言うなよ」
車から荷物を運び出して2階の奥の部屋へと入って行く。柚子もその後を追うようにして入った。
外観がキレイだから、中もキレイなんだろうなと思ったらやっぱりキレイだった。
このアパートは湊と父親が決めた。
仕事帰り、湊と待ち合わせては探してくれていた。
「柚子の部屋はこっちな」
玄関入って右側の部屋が柚子の部屋として、ベッドやらテレビ、チェストが運び込まれていた。
「家具も親父が決めたから好みじゃないかもしれないけどな」
「うん。平気」
荷物を部屋に置いた湊は「残り取ってくるから片付けてろ」と言った。
その言葉通りに片付け始める。
(テレビも買ってくれたんだ)
安いものじゃないのに、こうしてお金を出しくれる父親に感謝しかない。
クローゼットにはまだ着るには早い服をそのまま入れて、用意されたチェストには今使う服を入れた。
柚子はワンピースを着ることが多いからクローゼットにはハンガーにかけたワンピースも何着か入れる。
今まで兄にもらった服、バッグなどもクローゼットにしまった。
化粧品などはチェストの上に置いた。ベッドの上には実家から連れてきたクマとウサギのぬいぐるみ。なぜか置いてくることが出来なかった。
「これで最後か」
と紐で結ばれた本の束を湊は置いた。
こうしてみると服が多い。それも湊に買ってもらった服。
「靴はこっちに入れておけよ」
玄関にはシューズラックがあった。それなり大きめのシューズラック。湊はこれが決め手のひとつなんだろう。
シューズラックを開けると湊の趣味のひとつであるスニーカーがギッシリ入っていた。
「お兄ちゃん、またスニーカー増えた?」
「限定が抽選で買えたんだよ」
「好きだね」
湊はスニーカーが好きなのでスニーカーがたくさん入るシューズラックが一番大事なのかも知れない。
柚子は持ってきた靴をその隙間に入れてまた自分の部屋を片付け始めた。
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