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第4章
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「じゃコイツら送っていくわ」
散々飲んで騒いだ3人を連れて行く湊。珍しく輝も飲んでいた。
「母さんには俺んとこに泊まるって言ってあるから」
柚子に振り返って笑って3人を押し出した。
それを見送った後、零士は柚子を後ろから抱きしめた。
「零士さん……」
耳元で「好きだ……」と囁かれて、首筋にキスをする。
「なんで、誕生日言ってくれてなかったんだ」
(あ……)
言うタイミングが分からなかった柚子は黙ってしまう。
なんて答えればいいのか分からなくてどうすればいいのか分からなさすぎて困ってしまう。
「柚子」
「……言うタイミングが……、なかった」
「どういうこと?」
「言っていいのか分からなかった」
「何、それ」
「だって……、何かしてくれるの、待ってるみたい」
後ろから抱きしめられたままだから、零士がどんな顔をしているのか分からない。
「お前、考えすぎ。そういうのはちゃんと言っていいんだよ。欲しいもんあったらちゃんと言え。誕生日なんだから」
抱きしめる手は優しい。この手が傍にあるだけでいい。
「何か欲しいわけじゃないもん」
「言うと思った」
「え」
「湊が言ってんだよ。欲しいもの、言わないって」
誕生日に何が欲しいとかは柚子は言わない子だった。小さい頃は言っていたが、いつの間にか言わなくなった。
だから湊は、なんでもない時でも柚子が好きそうなものや、自分の服を買う時などに柚子を連れて行って買っていた。
柚子の好みなど熟知しているのは、兄妹だからという理由だけではない。
連れ回して柚子が好きなものを見てきてるからだった。
すっと柚子から離れると寝室へ向かう。寝室のサイドテーブルに置かれている細い箱を持って戻ってくる。
それを柚子に渡す。
「なに」
「開けて」
箱を開けるとシンプルなハート型のネックレスが入っていた。
「零士さん……」
零士はネックレスを取ると柚子の首に着ける。
「誕生日おめでとう」
改めて言うと柚子は照れて「ありがとう」と言った。
◇◇◇◇◇
「しかし、アイツらメチャクチャ散らかして行ったな」
リビングの惨状を見てため息を吐く零士。
「やっぱりタカには酒やめさせないとな。柚子、ちょっと手伝ってくれる?」
「うん」
リビングは缶ビールの空き缶が散らばっている。テーブルの上にも床にも散らばっていた。
勿論、食べたピザの箱とかもそのままだった。
柚子は空き缶をかき集めてゴミ袋に入れていた。零士もゴミをかき集めていた。
暫くふたりでゴミを集めて袋に入れ、使った食器を洗い片付けが終わったのは30分後だった。
「全くどんだけビール飲んだんだ、アイツは!」
崇弘に怒る零士を見てクスクス笑う。
「でもなんでみんながいたの?」
「あぁ、それな。昨日、みんなで飲んでたんだよ。で、その時に言われたんだよ、湊に。今日が柚子の誕生日だけどなんかしてやるのかよって。で、その時に誕生日って知ってビックリして。元々今日明日ってみんなオフだったからさ。パーティーしようぜってなっちゃたんだよ」
「そうなんだ」
「んでもって、俺は湊に怒られたんだぞ」
と、誕生日を教えてないことの話に触れてきた。
「……ごめんなさい」
「謝るな。俺も聞かなかったし。俺も自分の誕生日言ってないしなぁ」
「そういえば……」
今気付いたというように柚子は「あ」と呟く。
「俺、上に3人兄妹いるからいちいち誕生日祝ってられなかったんだと思う。実家で誰かの誕生日を祝うって習慣ないんだ」
他の家族の話を初めて聞く。一番上のお兄さんがレストランのオーナーしてるってことは知ってるけど他にもお兄さんたちがいることは知らなかった。
「一番上が祐士ってのは会ってるから知ってるだろ。次が姉貴。ここが5コ離れてる。で、この姉貴の沙理が18の時にデキ婚して家出てる。次が2コ上の清士どっかの会社に勤めてる」
「4人兄妹?」
「そ。俺、こうみえて末っ子」
意外だった。末っ子のように見えない。
柚子は思わず零士を見ていた。
「ん?」
「末っ子に見えない」
「そうか?」
「うん」
一通り片付けが終わり、空き缶が入った袋をとりあえずベランダに出す零士。
「柚子は妹って感じだよな」
「えー」
「甘えたがり」
こう言うとおいでと手を広げてみる。
その腕の中に吸い込まれるように零士の腕の中にすっぽりと収まる。
その場所は柚子にとってとても安心する場所だった。
「ほら」
勝ち誇った顔で柚子を見る零士はなんだか嬉しそう。
(なんか零士さんの思うように動かされてる気分)
そう思いながらもこの場所は居心地がいい。
それは零士も同じ気持ちだった。柚子とこうしてる時間がとても心地いい。この腕の中にいる柚子は離したくないと強く感じていた。
散々飲んで騒いだ3人を連れて行く湊。珍しく輝も飲んでいた。
「母さんには俺んとこに泊まるって言ってあるから」
柚子に振り返って笑って3人を押し出した。
それを見送った後、零士は柚子を後ろから抱きしめた。
「零士さん……」
耳元で「好きだ……」と囁かれて、首筋にキスをする。
「なんで、誕生日言ってくれてなかったんだ」
(あ……)
言うタイミングが分からなかった柚子は黙ってしまう。
なんて答えればいいのか分からなくてどうすればいいのか分からなさすぎて困ってしまう。
「柚子」
「……言うタイミングが……、なかった」
「どういうこと?」
「言っていいのか分からなかった」
「何、それ」
「だって……、何かしてくれるの、待ってるみたい」
後ろから抱きしめられたままだから、零士がどんな顔をしているのか分からない。
「お前、考えすぎ。そういうのはちゃんと言っていいんだよ。欲しいもんあったらちゃんと言え。誕生日なんだから」
抱きしめる手は優しい。この手が傍にあるだけでいい。
「何か欲しいわけじゃないもん」
「言うと思った」
「え」
「湊が言ってんだよ。欲しいもの、言わないって」
誕生日に何が欲しいとかは柚子は言わない子だった。小さい頃は言っていたが、いつの間にか言わなくなった。
だから湊は、なんでもない時でも柚子が好きそうなものや、自分の服を買う時などに柚子を連れて行って買っていた。
柚子の好みなど熟知しているのは、兄妹だからという理由だけではない。
連れ回して柚子が好きなものを見てきてるからだった。
すっと柚子から離れると寝室へ向かう。寝室のサイドテーブルに置かれている細い箱を持って戻ってくる。
それを柚子に渡す。
「なに」
「開けて」
箱を開けるとシンプルなハート型のネックレスが入っていた。
「零士さん……」
零士はネックレスを取ると柚子の首に着ける。
「誕生日おめでとう」
改めて言うと柚子は照れて「ありがとう」と言った。
◇◇◇◇◇
「しかし、アイツらメチャクチャ散らかして行ったな」
リビングの惨状を見てため息を吐く零士。
「やっぱりタカには酒やめさせないとな。柚子、ちょっと手伝ってくれる?」
「うん」
リビングは缶ビールの空き缶が散らばっている。テーブルの上にも床にも散らばっていた。
勿論、食べたピザの箱とかもそのままだった。
柚子は空き缶をかき集めてゴミ袋に入れていた。零士もゴミをかき集めていた。
暫くふたりでゴミを集めて袋に入れ、使った食器を洗い片付けが終わったのは30分後だった。
「全くどんだけビール飲んだんだ、アイツは!」
崇弘に怒る零士を見てクスクス笑う。
「でもなんでみんながいたの?」
「あぁ、それな。昨日、みんなで飲んでたんだよ。で、その時に言われたんだよ、湊に。今日が柚子の誕生日だけどなんかしてやるのかよって。で、その時に誕生日って知ってビックリして。元々今日明日ってみんなオフだったからさ。パーティーしようぜってなっちゃたんだよ」
「そうなんだ」
「んでもって、俺は湊に怒られたんだぞ」
と、誕生日を教えてないことの話に触れてきた。
「……ごめんなさい」
「謝るな。俺も聞かなかったし。俺も自分の誕生日言ってないしなぁ」
「そういえば……」
今気付いたというように柚子は「あ」と呟く。
「俺、上に3人兄妹いるからいちいち誕生日祝ってられなかったんだと思う。実家で誰かの誕生日を祝うって習慣ないんだ」
他の家族の話を初めて聞く。一番上のお兄さんがレストランのオーナーしてるってことは知ってるけど他にもお兄さんたちがいることは知らなかった。
「一番上が祐士ってのは会ってるから知ってるだろ。次が姉貴。ここが5コ離れてる。で、この姉貴の沙理が18の時にデキ婚して家出てる。次が2コ上の清士どっかの会社に勤めてる」
「4人兄妹?」
「そ。俺、こうみえて末っ子」
意外だった。末っ子のように見えない。
柚子は思わず零士を見ていた。
「ん?」
「末っ子に見えない」
「そうか?」
「うん」
一通り片付けが終わり、空き缶が入った袋をとりあえずベランダに出す零士。
「柚子は妹って感じだよな」
「えー」
「甘えたがり」
こう言うとおいでと手を広げてみる。
その腕の中に吸い込まれるように零士の腕の中にすっぽりと収まる。
その場所は柚子にとってとても安心する場所だった。
「ほら」
勝ち誇った顔で柚子を見る零士はなんだか嬉しそう。
(なんか零士さんの思うように動かされてる気分)
そう思いながらもこの場所は居心地がいい。
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