もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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番外編

雨の日の休日

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 シトシトと、雨音が窓にぶつかる音がする。
 雨の日は嫌い。
 ジメジメして鬱陶うっとうしいから。

「柚子」
 ソファーに座って外の窓を見ていた私の隣に、大好きな人が座る。
「どうした?」
 優しい声が私を包み込む。
 肩を抱きしめられ、顎に手をかけた零士さんは私の顔を自分の方へ向けた。
 目の前に零士さんの顔があって恥ずかしくなる。
「あ……っ」
 思わず目を逸らしてしまう私にキスをしてくる。
「目を逸らしてんじゃねぇ」
「だ、だって……」
 恥ずかしいと言えば余計に面白がってじっと見てくる。

「雨の日って嫌い……」
 思わずそう言った私を両手で抱き寄せる。そのままの状態で昔の話をし出した。
「昔……、小学生の頃に、学校から帰ったら誰もいなかったことがあるの」
 それはまだ私が小学生一年生の頃の話。
 お兄ちゃんは四年生。学年が違うから、帰る時間も違う。芽依と別れて家に帰るとお母さんはいなかった。

「いないよって言われて持っていた鍵で開けて家に入ったけど、誰もいない家なんて初めてて怖くて」
 ひとりでリビングで宿題やっていた時に雨が降りだした。
 晴れていたのに、急に降ってきたから暗くて雨の音も凄くて怖くなった。
「そのうち雷も鳴り出して怖くて怖くて……」
 リビングにいられなくなってお兄ちゃんの部屋に入り込んで、お兄ちゃんが帰ってくるのを待ってた。
 でもその日はお兄ちゃんはクラブがある日でいつもより遅くて。私はお兄ちゃんのベッドに潜り込んでた。

「そのうち私、眠ってしまったの」
 あの日の寂しさを思い出してしまうから雨の日は嫌い。
「俺は雨は好きだな」
「え」
「もちろん、晴れてる日も好きだよ。ちょっと耳をすましてごらん」
 そう言うと柚子は窓の外を見て耳をすます。




 ポタッポタっ。
 ポツン……。
 カン!
 ポンッ!
 ポタ……。



「色んな音が聴こえるだろ?」
「うん……」
「音楽みたいじゃねえ?」
 その言葉に感心した。
 私はそんな風に思ったことはない。
 さすがミュージシャン。

 顔を上げると零士さんはふっと柔らかい笑みを浮かべていた。
 そしてそのまま、当然のように私にキスをしてくる。

 もう何度目だろう。
 こうしてキスをされるのは。
 私が不安になってる時は必ずキスをしてくる。
 肩を抱いて私の頬に触れて何度も何度もキスをくれる。

 零士さんの癖……だろうか。
 キスをする時、頬に触れた時に私の耳にも触るの。
 それがちょっとくすぐったい。



「柚子」
 耳元で名前を呼ばれ、恥ずかしさで顔が赤くなる。
 それでもここが、私の居場所。
 零士さんのぬくもりが、私を包んでくれる。
 一番、安心する場所。



 どんな不安な雨の日でも零士さんがいれば大丈夫──……。


【雨の日の休日】     END
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