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第4章
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季節は移り変わり、あっという間に別れの季節になっていた。
柚子たちはもうすぐ卒業。3学期は自由登校設定されていて殆ど学校に来ないという生徒もいた。そんな中、柚子は担任の先生に用事があった為、登校していた。そして勇一もまた登校していた。
「柚子」
昇降口で声をかけられた。
あの一件以来、勇一から声をかけてくることはなかったから夏休みからかれこれ6ヵ月ぶりくらいだろうか。
勇一はあの日の約束をちゃんと守って、誰にも話していなかった。
「ちょっといいか?」
少し警戒しながら柚子は勇一の後を追う。勇一は空き教室へ入ると振り返った。
「あのさ!ちゃんと話せなくなるから言っておこうと思って……」
そこまで言うと深呼吸をした。
「ほんと、ごめん!」
頭を下げた勇一に驚く。
「もう、警戒しないで。ほんとに。あの頃は本当に俺、ヤバいやつだったなぁと」
「ほんとだよ」
「否定しないのかよ」
「だって……」
「ま、仕方ないよなぁ」
と、申し訳ないと顔をしていた。
「あの人の事だって、びっくりしたけど言うつもりないから。これは本当に信じて」
「うん」
「本当にごめん。ちゃんとこれは言っておかないとダメだって思って……」
「分かった」
柚子はそう言って教室へ戻ろうとした。
「でも本当にかっこいい人だよね」
「当たり前でしょ」
そう答えて柚子は戻って行く。その後ろ姿をただ見ていた勇一はとても切なくなった。
勇一が柚子を好きだっていうことは本当のことだった。嘘はついてない。
ただそれが暴走してしまった結果なんだと思う。
時間が経ってそれがいかにヤバいことなのかを痛感したからこうして柚子に謝ったのだ。
今もまだ好きなのだけど、それは言わなくていいと思っていた。あのふたりの様子を見てしまった勇一は、敵わないことを悟っていたのだ。
◇◇◇◇◇
朝の冷たい空気が頬に痛い。
2月9日。
柚子は18歳になった。
《誕生日おめでとう》
兄の湊からそうメッセージが入ってる。
《夕方、こっちにおいで》
と、続けて入る。
「また何か考えてる?」
着替えを済ませ、リビングに降りる。
「おはよう、柚子。誕生日おめでとう」
そう言う母親は柚子に紙袋を渡す。
「なに」
「プレゼント。お父さんと選んだのよ」
この家はちゃんと誕生日にはプレゼントを渡す。ちゃんとおめでとうと言ってくる。
なので柚子も家族の誕生日にはちゃんとおめでとうを言う。
「ありがとう!」
ガサガサと紙袋を開けると淡いピンク色のセットアップの洋服が入っていた。
「あと少しで大学生だもの。こういうのもいいんじゃない?」
自分ではあまり選ばないデザインの洋服を見て「ありがとう」と言った。
「夕方、お兄ちゃんに呼ばれてるから行ってくる」
「聞いてる」
湊はしっかりと母親に話を通してるらしかった。
「気をつけて行くのよ。しかし、湊も夕方から呼び出すなんてねぇ」
と柚子を見る。
柚子が嘘をついて零士と会うのでないかと伺った。でも柚子からはそんな感じはしなく、本当に湊に呼ばれているんだと感じ取った。
夕方。柚子は家を出た。駅に行く為に。
煌太と芽依の家の前を通る時に窓からふたりが顔を出していた。
「柚子!出掛けるのか?」
煌太が柚子に向かって叫んでたのを気付いて芽依も顔を出していた。
「お兄ちゃんに呼び出されてるの」
「こんな時間から?」
「お兄ちゃん、唐突だから」
そう言ってまた歩き出した。
「あ、柚子。誕生日おめでとう!」
芽依は柚子に向かってそう言った。その言葉に振り返って「ありがとう」と言った。
◇◇◇◇◇
駅に着くと見覚えのある車が停まっていた。クラクションを鳴らされ、窓が少し開く。中にいたのは零士だった。
助手席を開けると「乗って」と言った。
「お兄ちゃんに呼ばれてるんだけど」
「知ってる」
外はコートなしじゃ無理だと思うくらいに寒いのに、車内は暖房が効いていて暖かい。
「もしかして、お兄ちゃんに頼まれた?」
にっと笑う零士は悪戯っ子のようだった。
たまに見せるその笑顔がたまらなく好き。その笑顔を見れただけで柚子は幸せでいっぱいになる。
「零士さん、今日仕事は?」
「今日はもう終わり。明日もオフだよ」
「そうなの?」
「さ、行こうか。シートベルト、ちゃんとしてね」
と、車を走らせる。
車内は零士さんが好きだっていう海外のロックバンドのCDがかかっている。
そういえば、お兄ちゃんの部屋でも流れていたっけ。
誕生日に会えたことが嬉しい。でも今日が誕生日なんて話してない柚子。去年はそんなこと言っていいのか分からずに話さなかった。
今年だって、自分から言っていいのか分からなくて言えないままだった。
車は見覚えのある都会の風景に変わり、そのまま見知ってる道を走る。
大きなビルやマンションが建ち並ぶ中を走る。車はマンションの地下駐車場へと滑り込んだ。
車を降りて、エレベーターに乗り、零士の部屋まで行く。
部屋に入ると湊がそこにはいた。
「おっ。来たな」
「お兄ちゃん」
「柚子ちゃーん!久しぶり」
リビングには湊の他に崇弘と真司と輝がいた。
「お久しぶりです」
頭を下げる柚子に笑いかけるメンバーたち。
そしてリビングの状態を見て驚いた。
「誕生日おめでとう!」
メンバーみんなからそう言われ、恥ずかしさから思わず隠れてしまう。
そんな柚子を見て零士は柚子の背中を押す。
「ありがとう……ございます……」
そんな柚子を見てニコニコと笑う。
みんな、柚子の為に集まってくれたことが嬉しかった。
柚子たちはもうすぐ卒業。3学期は自由登校設定されていて殆ど学校に来ないという生徒もいた。そんな中、柚子は担任の先生に用事があった為、登校していた。そして勇一もまた登校していた。
「柚子」
昇降口で声をかけられた。
あの一件以来、勇一から声をかけてくることはなかったから夏休みからかれこれ6ヵ月ぶりくらいだろうか。
勇一はあの日の約束をちゃんと守って、誰にも話していなかった。
「ちょっといいか?」
少し警戒しながら柚子は勇一の後を追う。勇一は空き教室へ入ると振り返った。
「あのさ!ちゃんと話せなくなるから言っておこうと思って……」
そこまで言うと深呼吸をした。
「ほんと、ごめん!」
頭を下げた勇一に驚く。
「もう、警戒しないで。ほんとに。あの頃は本当に俺、ヤバいやつだったなぁと」
「ほんとだよ」
「否定しないのかよ」
「だって……」
「ま、仕方ないよなぁ」
と、申し訳ないと顔をしていた。
「あの人の事だって、びっくりしたけど言うつもりないから。これは本当に信じて」
「うん」
「本当にごめん。ちゃんとこれは言っておかないとダメだって思って……」
「分かった」
柚子はそう言って教室へ戻ろうとした。
「でも本当にかっこいい人だよね」
「当たり前でしょ」
そう答えて柚子は戻って行く。その後ろ姿をただ見ていた勇一はとても切なくなった。
勇一が柚子を好きだっていうことは本当のことだった。嘘はついてない。
ただそれが暴走してしまった結果なんだと思う。
時間が経ってそれがいかにヤバいことなのかを痛感したからこうして柚子に謝ったのだ。
今もまだ好きなのだけど、それは言わなくていいと思っていた。あのふたりの様子を見てしまった勇一は、敵わないことを悟っていたのだ。
◇◇◇◇◇
朝の冷たい空気が頬に痛い。
2月9日。
柚子は18歳になった。
《誕生日おめでとう》
兄の湊からそうメッセージが入ってる。
《夕方、こっちにおいで》
と、続けて入る。
「また何か考えてる?」
着替えを済ませ、リビングに降りる。
「おはよう、柚子。誕生日おめでとう」
そう言う母親は柚子に紙袋を渡す。
「なに」
「プレゼント。お父さんと選んだのよ」
この家はちゃんと誕生日にはプレゼントを渡す。ちゃんとおめでとうと言ってくる。
なので柚子も家族の誕生日にはちゃんとおめでとうを言う。
「ありがとう!」
ガサガサと紙袋を開けると淡いピンク色のセットアップの洋服が入っていた。
「あと少しで大学生だもの。こういうのもいいんじゃない?」
自分ではあまり選ばないデザインの洋服を見て「ありがとう」と言った。
「夕方、お兄ちゃんに呼ばれてるから行ってくる」
「聞いてる」
湊はしっかりと母親に話を通してるらしかった。
「気をつけて行くのよ。しかし、湊も夕方から呼び出すなんてねぇ」
と柚子を見る。
柚子が嘘をついて零士と会うのでないかと伺った。でも柚子からはそんな感じはしなく、本当に湊に呼ばれているんだと感じ取った。
夕方。柚子は家を出た。駅に行く為に。
煌太と芽依の家の前を通る時に窓からふたりが顔を出していた。
「柚子!出掛けるのか?」
煌太が柚子に向かって叫んでたのを気付いて芽依も顔を出していた。
「お兄ちゃんに呼び出されてるの」
「こんな時間から?」
「お兄ちゃん、唐突だから」
そう言ってまた歩き出した。
「あ、柚子。誕生日おめでとう!」
芽依は柚子に向かってそう言った。その言葉に振り返って「ありがとう」と言った。
◇◇◇◇◇
駅に着くと見覚えのある車が停まっていた。クラクションを鳴らされ、窓が少し開く。中にいたのは零士だった。
助手席を開けると「乗って」と言った。
「お兄ちゃんに呼ばれてるんだけど」
「知ってる」
外はコートなしじゃ無理だと思うくらいに寒いのに、車内は暖房が効いていて暖かい。
「もしかして、お兄ちゃんに頼まれた?」
にっと笑う零士は悪戯っ子のようだった。
たまに見せるその笑顔がたまらなく好き。その笑顔を見れただけで柚子は幸せでいっぱいになる。
「零士さん、今日仕事は?」
「今日はもう終わり。明日もオフだよ」
「そうなの?」
「さ、行こうか。シートベルト、ちゃんとしてね」
と、車を走らせる。
車内は零士さんが好きだっていう海外のロックバンドのCDがかかっている。
そういえば、お兄ちゃんの部屋でも流れていたっけ。
誕生日に会えたことが嬉しい。でも今日が誕生日なんて話してない柚子。去年はそんなこと言っていいのか分からずに話さなかった。
今年だって、自分から言っていいのか分からなくて言えないままだった。
車は見覚えのある都会の風景に変わり、そのまま見知ってる道を走る。
大きなビルやマンションが建ち並ぶ中を走る。車はマンションの地下駐車場へと滑り込んだ。
車を降りて、エレベーターに乗り、零士の部屋まで行く。
部屋に入ると湊がそこにはいた。
「おっ。来たな」
「お兄ちゃん」
「柚子ちゃーん!久しぶり」
リビングには湊の他に崇弘と真司と輝がいた。
「お久しぶりです」
頭を下げる柚子に笑いかけるメンバーたち。
そしてリビングの状態を見て驚いた。
「誕生日おめでとう!」
メンバーみんなからそう言われ、恥ずかしさから思わず隠れてしまう。
そんな柚子を見て零士は柚子の背中を押す。
「ありがとう……ございます……」
そんな柚子を見てニコニコと笑う。
みんな、柚子の為に集まってくれたことが嬉しかった。
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