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第3章
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新学期が始まると高校生活最後の体育祭や文化祭がある。柚子は芽依と煌太と共にそれを楽しもうとしていた。
体育祭の練習と平行に文化祭の準備もこなしてる状態だった。この光葉高校は体育祭と文化祭の両方合わせて光葉祭と呼んでいた。その為、体育祭のすぐ後に文化祭が開催されるのだった。
教室はザワザワとしていた。授業なんかそっちのけで文化祭の準備中。柚子たちのクラスはメイド喫茶をやることに決まっていた。
「メイド服どうする?」
「レンタルでしょ」
「てか、男子はどうするの?」
「男子に着せてみようか」
誰かがふざけて言った言葉に女子たちが悪ノリし出した。
「で、女子は執事?」
「きゃー!それ、いいかもー」
「面白いー」
盛り上がってるところに男子たちの顔が強張る。
「それ、本気で言ってる?」
「だって女子だけメイド服着るのって不公平じゃん。だったら逆転させて女子が執事。男子がメイドでもいいじゃん」
「誰が男のメイド服見たいんだよ」
呆れ顔の男子たち。
女子たちはそれに笑った。
そんなやり取りをしている時も、勇一は心の底から楽しいとは思えなかった。
柚子とのいざこざがあったことは芽依と煌太以外のクラスメートたちは知らない。一学期はあんなに柚子に話しかけて迷惑がられていたのに、夏休み明けてからは勇一が柚子に話しかけることはなかった。
それに対してクラスメートたちは不思議に思っていたが、誰も何も言わなかった。
「大人しいね、あいつ」
芽依と煌太と3人で作業している時にポツリと呟くように芽依が言った。
煌太は勇一の名前が出るだけで怒りを露にする。
「柚子。またなんかされそうになったら言ってよ」
「そうだよ。俺が守ってやるよ」
「煌太は本気で相手をやってしまうからいい」
「なんだよー」
3人でのやり取りが楽しくて柚子はふふっと笑った。この3人でいる時間は本当に楽しい。ごく自然な姿でいられる。
いつも3人一緒だった。その3人に言えないことが辛い。
◇◇◇◇◇
《いよいよ光葉祭が始まるよ》
何気ないメッセージを入れるとすぐに返信がくる。
《懐かしいなぁ!》
《うちのクラス、なんか張り切ってるよ》
《体育祭はなんか種目に出るの?》
《障害物に出るよ》
《普通に100キロとか走らないの?》
《無理無理!ずっと走ってないから走れない!》
たわいもないメッセージをやり取りをしてると、やっぱりすぐにでも会いたくなる。
「会いたいな……」
今はまだ日本にいるけど、そのうちまたレコーディングの為にアメリカへ行ってしまう。
仕方ないことなのだけど、柚子は寂しさを隠していた。
◇◇◇◇◇
体育祭と文化祭が終わって暫くしてからちょっとした事件が起こった。
芽依から優奈が呼んでいると言われたのだ。
放課後に芽依と煌太と一緒に優奈のマンションにまで行く。あのライブの日以来、会う機会がなかった。
普段の柚子たちは受験の為に色々と動いていたのもある。夏休みも結局、夏期講習漬け。
「いらっしゃい」
いつもは優しい笑顔の優奈が、今日は複雑な顔をしていた。
そして優奈のマンションには他にも先約がいた。
「彼女かしら」
とリビングにいる女性に聞く。
「そう!その顔!」
見知らぬ人にそう言われて強張る。
そしてその女性が柚子に掴みかかってきた。
「きゃっ!」
髪を引っ張られ、そのままリビングの床に押し倒される。
「ちょっと!陽葵!」
優奈がその女性の名前を呼んだ。
「私の客人なの。手荒なことはやめて」
柚子を立ち上がらせ、ソファーに座らせる。
「ごめんなさい。彼女はうちのチームの陽葵。あなたが、夏休みに会ってた人についてチーム内で問題になってるのよ」
「え」
「芽依。説明してなかったの?」
「だってっ!柚子とREIJIが一緒にいるなんて信じられないもの!」
芽依の言葉ではっとする。
(一緒にいるところを見られてたんだ)
身体中の力が抜けていくようだった。指先が冷たくなっていくのを感じる。
「説明してちょうだい。ファンの中にはね、熱狂的なファンもいて、手荒なことをしてくる子もいるの。それに、暗黙のルールなの。ファンが、メンバーに近寄らないって。迷惑かけないって」
優奈の言葉にそうだよなぁと感じた。
実際、陽葵は熱狂的なファンなのだろう。柚子をケガさせてやろうとしていた。
(黙って……いられない)
そう感じた柚子はスマホを取り出した。
「電話、かけていいですか?」
「ちょっと!説明しなさいよ!」
「私の……一存じゃ説明出来ないから」
柚子は黙って優奈を見た。優奈は頷くと柚子は湊に電話をかけた。
(今、零士さんはきっと仕事。音楽番組の収録の筈)
だからこそ、湊にかけたのだ。
『どうした?』
聞こえてきた声に安心する。
「お兄ちゃん、バレた」
『は?』
「バレちゃった」
その言葉になんとなく察する湊は『今どこだ?』と聞いてきた。
「えっと……。あの、ここ教えていいですか?」
「どうぞ」
「森川マンション」
『すぐ近くじゃねーか。ちょっと待ってな、行く』
と電話を切った。
すぐ行くと言った湊はなかなか来なかった。そのまま一時間、陽葵に睨まれながら待っていた。
一緒に来た煌太も事情は芽依から聞いていたようで、柚子を見ていた。
◇◇◇◇◇
ピンポーン!ピンポーン!!
インターフォンが何度も鳴らされる。それにイライラしたのか、陽葵が「うるさい!」と玄関に向かって叫んでいた。
「陽葵。黙って。芽依、開けてきて」
芽依は黙ってそれに従い玄関に行く。
「きゃっ!」
芽依の叫び声が聞こえたすぐ後。リビングに入って来た人影。その人影が真っ直ぐ柚子のところへ行き、自分の方へ抱き寄せた。
「待たせた。柚子」
その声に、その体温に、この感触に柚子は安心した。
まさか、来てくれるとは思ってもいなかったから。
驚いたけど、とても安心感を得られた。
「嘘……?」
「え……?」
「マジ……かよ」
優奈も陽葵も煌太も驚きの声を上げた。芽依の叫び声はこの人がいたからだった。
体育祭の練習と平行に文化祭の準備もこなしてる状態だった。この光葉高校は体育祭と文化祭の両方合わせて光葉祭と呼んでいた。その為、体育祭のすぐ後に文化祭が開催されるのだった。
教室はザワザワとしていた。授業なんかそっちのけで文化祭の準備中。柚子たちのクラスはメイド喫茶をやることに決まっていた。
「メイド服どうする?」
「レンタルでしょ」
「てか、男子はどうするの?」
「男子に着せてみようか」
誰かがふざけて言った言葉に女子たちが悪ノリし出した。
「で、女子は執事?」
「きゃー!それ、いいかもー」
「面白いー」
盛り上がってるところに男子たちの顔が強張る。
「それ、本気で言ってる?」
「だって女子だけメイド服着るのって不公平じゃん。だったら逆転させて女子が執事。男子がメイドでもいいじゃん」
「誰が男のメイド服見たいんだよ」
呆れ顔の男子たち。
女子たちはそれに笑った。
そんなやり取りをしている時も、勇一は心の底から楽しいとは思えなかった。
柚子とのいざこざがあったことは芽依と煌太以外のクラスメートたちは知らない。一学期はあんなに柚子に話しかけて迷惑がられていたのに、夏休み明けてからは勇一が柚子に話しかけることはなかった。
それに対してクラスメートたちは不思議に思っていたが、誰も何も言わなかった。
「大人しいね、あいつ」
芽依と煌太と3人で作業している時にポツリと呟くように芽依が言った。
煌太は勇一の名前が出るだけで怒りを露にする。
「柚子。またなんかされそうになったら言ってよ」
「そうだよ。俺が守ってやるよ」
「煌太は本気で相手をやってしまうからいい」
「なんだよー」
3人でのやり取りが楽しくて柚子はふふっと笑った。この3人でいる時間は本当に楽しい。ごく自然な姿でいられる。
いつも3人一緒だった。その3人に言えないことが辛い。
◇◇◇◇◇
《いよいよ光葉祭が始まるよ》
何気ないメッセージを入れるとすぐに返信がくる。
《懐かしいなぁ!》
《うちのクラス、なんか張り切ってるよ》
《体育祭はなんか種目に出るの?》
《障害物に出るよ》
《普通に100キロとか走らないの?》
《無理無理!ずっと走ってないから走れない!》
たわいもないメッセージをやり取りをしてると、やっぱりすぐにでも会いたくなる。
「会いたいな……」
今はまだ日本にいるけど、そのうちまたレコーディングの為にアメリカへ行ってしまう。
仕方ないことなのだけど、柚子は寂しさを隠していた。
◇◇◇◇◇
体育祭と文化祭が終わって暫くしてからちょっとした事件が起こった。
芽依から優奈が呼んでいると言われたのだ。
放課後に芽依と煌太と一緒に優奈のマンションにまで行く。あのライブの日以来、会う機会がなかった。
普段の柚子たちは受験の為に色々と動いていたのもある。夏休みも結局、夏期講習漬け。
「いらっしゃい」
いつもは優しい笑顔の優奈が、今日は複雑な顔をしていた。
そして優奈のマンションには他にも先約がいた。
「彼女かしら」
とリビングにいる女性に聞く。
「そう!その顔!」
見知らぬ人にそう言われて強張る。
そしてその女性が柚子に掴みかかってきた。
「きゃっ!」
髪を引っ張られ、そのままリビングの床に押し倒される。
「ちょっと!陽葵!」
優奈がその女性の名前を呼んだ。
「私の客人なの。手荒なことはやめて」
柚子を立ち上がらせ、ソファーに座らせる。
「ごめんなさい。彼女はうちのチームの陽葵。あなたが、夏休みに会ってた人についてチーム内で問題になってるのよ」
「え」
「芽依。説明してなかったの?」
「だってっ!柚子とREIJIが一緒にいるなんて信じられないもの!」
芽依の言葉ではっとする。
(一緒にいるところを見られてたんだ)
身体中の力が抜けていくようだった。指先が冷たくなっていくのを感じる。
「説明してちょうだい。ファンの中にはね、熱狂的なファンもいて、手荒なことをしてくる子もいるの。それに、暗黙のルールなの。ファンが、メンバーに近寄らないって。迷惑かけないって」
優奈の言葉にそうだよなぁと感じた。
実際、陽葵は熱狂的なファンなのだろう。柚子をケガさせてやろうとしていた。
(黙って……いられない)
そう感じた柚子はスマホを取り出した。
「電話、かけていいですか?」
「ちょっと!説明しなさいよ!」
「私の……一存じゃ説明出来ないから」
柚子は黙って優奈を見た。優奈は頷くと柚子は湊に電話をかけた。
(今、零士さんはきっと仕事。音楽番組の収録の筈)
だからこそ、湊にかけたのだ。
『どうした?』
聞こえてきた声に安心する。
「お兄ちゃん、バレた」
『は?』
「バレちゃった」
その言葉になんとなく察する湊は『今どこだ?』と聞いてきた。
「えっと……。あの、ここ教えていいですか?」
「どうぞ」
「森川マンション」
『すぐ近くじゃねーか。ちょっと待ってな、行く』
と電話を切った。
すぐ行くと言った湊はなかなか来なかった。そのまま一時間、陽葵に睨まれながら待っていた。
一緒に来た煌太も事情は芽依から聞いていたようで、柚子を見ていた。
◇◇◇◇◇
ピンポーン!ピンポーン!!
インターフォンが何度も鳴らされる。それにイライラしたのか、陽葵が「うるさい!」と玄関に向かって叫んでいた。
「陽葵。黙って。芽依、開けてきて」
芽依は黙ってそれに従い玄関に行く。
「きゃっ!」
芽依の叫び声が聞こえたすぐ後。リビングに入って来た人影。その人影が真っ直ぐ柚子のところへ行き、自分の方へ抱き寄せた。
「待たせた。柚子」
その声に、その体温に、この感触に柚子は安心した。
まさか、来てくれるとは思ってもいなかったから。
驚いたけど、とても安心感を得られた。
「嘘……?」
「え……?」
「マジ……かよ」
優奈も陽葵も煌太も驚きの声を上げた。芽依の叫び声はこの人がいたからだった。
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