もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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第3章

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 週明け。夏期講習の為に芽依と一緒に学校へ向かう。芽依には何があったのか説明しておいた。話を聞いた芽依は物凄く怒っていて、その話はもちろん煌太にも伝わった。煌太は静かに怒りを露にしていた。

「あいつに会ったらどうするの」
 登校中に芽依がそう聞いてきた。どうすると言われてもどうにもならない。だからといってクラスも同じだから完全に無視も出来ない。
 それに気になるのは零士とのことだ。
 バラすんじゃないかとドキドキしていた。
「極力関わらないようにする」
 実際、関わりを持ちたくない。こっちの気持ちなんか完全に無視して、むしろ自分に好意を持ってると勘違いしてるのがとても嫌だった。
「私もなるべく柚子から離れない」
「ありがとう」
 それに加えて煌太も同じクラスだから、煌太の目もある。勇一にとってふたりは脅威になるのかもしれない。
 ま、最も脅威なのは兄の湊だとは思うけど。


 学校に着くと、下駄箱の所に勇一が待ち構えていた。
 それにいち早く気付いたのは芽依だった。
 ズンズンズンっと、勇一の前に行き怒りMAXな状態で言い放った。
「あんたね!柚子の近くに寄る資格ない!話しかけてもくるな!」
 その言葉に勇一はトボトボと廊下を歩いていく。一度こちらを見て何か言いたそうな目をしていた。それに気付かないふりをした。
(言いふらさなきゃいいけど)
 芽依にさえ言ってないことなのだ。言いふらされたらまずい。

「とりあえず何もしてこなかったね!」
 それは芽依の迫力のせいだよと言いたかった。芽依は柚子と違って勝ち気だ。なんでも言い返せる。その性格が羨ましいと思う。
 教室に入っても、誰も何も言ってこないからとりあえず言いふらしたりはしていないらしい。
(よかった。でもいつかは芽依に言わなきゃいけないよね)
 席に座る柚子は芽依の方へ目線をやった。
 芽依はずっと柚子と一緒にいた。どんな時でも一緒でどんなことでも話してきた、大切な親友なのだ。
(ごめんね、もう少し内緒にさせて……)
 この恋は誰かに邪魔はされたくないの。
 そう思う柚子は、大切な親友にでさえまだ話せないでいることが辛くもあった。


 夏休みの学校での夏期講習の間も予備校の夏期講習の間も勇一は柚子と話す機会を伺っている。それに気付いてはいるけど、やっぱり近寄ることはしない。そう決めた。
 だけど、夏休み最後の日。芽依も煌太もいない隙に、勇一は柚子に話しかけてきた。
「話がある」
 周りの目があるから無下にも出来ない柚子は困っていた。
「あの人のこと……」
 と、言った途端。柚子は教室を飛び出していく。誰かに聞かれたら大変なことになると教室を飛び出した。
 勇一はその後を着いていくように追っていく。
「なんで着いてくるのよ!」
「ちょっと話したいんだ!」
「話すことない!」
 言い合いながら廊下を走るふたり。校内にいる教師せんせいが、ふたりに気付き「走るな」と注意する。だが、それを無視して柚子は他の教室へ入っていく。
 学校が始まればそこは1年生の教室。だけど今日は誰もいない。

「ねぇ。なんなのよ」
 後退しながら柚子は聞いた。いつでも教室を飛び出して行けるように後退しながら後ろのドアへ近付く。
「なぁ、あの人。本当に本物?」
 この前のあの勢いとは全く違う勇一に拍子抜けしながらも出口を確保する。
「本当にあの人と?」
「そうよ」
「なんで」
「なんでって。理由、いる?」
 それに何も答えない。
「好きになるのに理由はいらないじゃない」と呟くように言うと「だよな」と返ってくる。
 しょぼくれてる勇一に柚子は言った。
「私は、滝山くんのこと好きとか嫌いとかそんな感情はないの。ただ、クラスメートとしてはいい……やつ、かな」
 最後の言葉はそんなことを思ってもいない柚子だったが、前半のことは本音を言った。これで諦めてくれるといいなと願いを込めて。
「いいやつ……か」
 呟き、考え込む。
「俺じゃダメなのかよ。そりゃあの人はかっこいいよ、凄く。大人だしさ。けど!なかなか会えない人だろ。お前置いて海外とか地方とか行っちまうだろ!」
 勇一の言葉は力強かった。本音をぶつけてきた勇一に本音を返さなくてはいけない。
「会えなくても彼がいい。待ってる間、辛いけど、寂しいけど、彼じゃなきゃダメ。ごめんね……」
 勇一は目を逸らさずに話す柚子に負けた気がした。
 零士のことを話す柚子は真剣だった。本当のことを話してくれたんだと。

「分かった。ごめん」 
 首を横に振ると柚子は教室を出ようとした。
「あ、誰にも話しちゃダメだからね。彼が困るから」
 自分も困るのに零士が困ると表現した柚子に、やっぱり敵わないんだと悟った。
 ふたりの間に入り込む隙間がないんだと。
「はぁ……」
 ため息を吐いた勇一は暫くそこから動けなかった。
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