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第3章
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頭の中が理解出来なかった。何を言ってるのか、零士が理解するのに時間がかかった。
「どういうことだ?」
そう聞いた零士に泣いて抱きつく柚子。その背中をさする零士。そしてその光景を黙ってみていた湊。
「柚子。……誰に?」
「滝山くん……」
その名前を聞いたふたりの顔がみるみる変わっていく。
「「滝山……だと?」」
ふたりの声が揃った。その声から怒ってるのが伝わる。
「あんにゃろ……っ!」
零士が立ち上がって飛び出そうとした。
「待て、零士!お前が行ったらバレるだろうが」
「けどさ!」
「俺が行ってくる。柚子、頼むな」
車のキーを掴みアパートを出ていく。
零士は唇を噛み、その後ろ姿を見ていた。
◇◇◇◇◇
車を飛ばして地元に戻った湊は、滝山の家まで来ていた。そしてスマホを取り出し、滝山健一の番号を探し出した。
あまりかけることはしないこの番号を躊躇せずに押した。
『……はい』
「久しぶりだな」
怒りを抑えながらそう言う。
『なんだ』
「今、お前の家の前にいる。出てこい」
『は?』
「いいから出てこい」
電話を切って車の前で待つ。
あたりはもう薄暗くなっていた。
ガチャと玄関のドアを開けて出てきた健一に「よう」と声をかける。
「なんだよ、ほんとに」
嫌そうな顔をした健一に湊は「弟いるか」と言った。
「あ?なんで勇一?」
「いいから連れてこい」
静かにそう言った湊は怒りを必死で抑えていた。
「ちょっと待て」
玄関のドアを開けると「勇一ー!」と怒鳴った。家の中から「ぁんだよー」と返ってくるのが聞こえた。
「ちょっと出てこい!」
健一は湊が怒ってるのを感じていた。それが何に怒ってるのかは分からないでいたが。
勇一が家から出てきたと同時に湊は勇一の襟元を掴みドンと壁にぶつけた。
それはもうこれでもかってくらいに怒っていた。
「愛川!」
目の前でいきなり弟に対して殴りかからそうな勢いで飛び付かれたら、兄としては驚くだろう。湊の腕を引き離そうとした。
「滝山。黙ってろ。俺が用あんのは弟の方だ」
「弟が何したってんだよ!お前、弟知らねぇだろうが!」
健一に目線も向けず、勇一に睨みを効かす。
「俺の妹に何した」
「え」
「妹に何したって言ってんだよ!」
その勢いに圧倒される勇一は何も言えずにいた。それを聞いて動いたのは健一だった。
「お前、愛川の妹になんかしたのか?」
「え、愛川って……。柚子の兄ちゃん?」
勇一が言った言葉に反応する湊は勇一の襟元を強く掴んだ。
「誰が……柚子と呼んでいいつった?」
低い声に怒りが見える。それに気付いた健一が湊から勇一を引き離す。
「お前は怖ぇんだよ、少しは落ち着け」
「落ち着いてられるか。こいつが妹にしたことで、妹が泣いてるんだよ!」
「勇一は女の子泣かす度胸ねぇよ」
「妹が泣いて俺んとこに来たんだよ!」
湊と健一の口喧嘩に発展してしまったのを見て、勇一がポツリと言った。
「キス……しました」
それを聞いたのと同時に湊は勇一を殴った。それも勢いよく。
勇一は殴られた衝撃で背中を壁に打ち付けられて顔をしかめる。口の中を切ったのか、口の中は鉄の味がした。
「勇一!」
「泣いてんだよ。ずっと!俺の妹がっ!」
叫ぶ湊を抑える健一は必死だった。仲がいい兄弟ではない。悪くもない。だけど、たったひとりの弟をただ殴られてるのを見てはいられない。
「愛川!待て!落ち着け!」
「落ち着いてるよ!」
「落ち着いてねぇよ!」
「女、泣かせる男は男じゃねぇー!」
騒ぐ湊と抑えようとする健一に近所の人たちがジロジロと見てくる。
健一たちの両親はまだ不在。この状況はあとから知らされる。
「勇一。お前、愛川の妹に手、出したんかよ」
湊を抑えながら、殴られて踞ってる勇一に言った。
「惚れてるから」
「で、キス迫ったってのかよ!」
「惚れたらキスしたいじゃん。それ以上のこともしたいじゃん!」
「お前なぁ……。相手がそうじゃない場合は犯罪だぞ!」
「柚子だって俺が好きに決まってる!」
と、勇一のトンデモ発言に湊は更に頭にくる。
「お前の弟、頭おかいしぞ!柚子がこんなヤツに惚れるわけねー!」
「こんなヤツってなんだよ!確かに頭おかしいけどさー!」
「兄ちゃん。ひでぇよ」
勇一の言葉に湊と健一は睨んだ。黙ってろと言うように。
「どういうことだ?」
そう聞いた零士に泣いて抱きつく柚子。その背中をさする零士。そしてその光景を黙ってみていた湊。
「柚子。……誰に?」
「滝山くん……」
その名前を聞いたふたりの顔がみるみる変わっていく。
「「滝山……だと?」」
ふたりの声が揃った。その声から怒ってるのが伝わる。
「あんにゃろ……っ!」
零士が立ち上がって飛び出そうとした。
「待て、零士!お前が行ったらバレるだろうが」
「けどさ!」
「俺が行ってくる。柚子、頼むな」
車のキーを掴みアパートを出ていく。
零士は唇を噛み、その後ろ姿を見ていた。
◇◇◇◇◇
車を飛ばして地元に戻った湊は、滝山の家まで来ていた。そしてスマホを取り出し、滝山健一の番号を探し出した。
あまりかけることはしないこの番号を躊躇せずに押した。
『……はい』
「久しぶりだな」
怒りを抑えながらそう言う。
『なんだ』
「今、お前の家の前にいる。出てこい」
『は?』
「いいから出てこい」
電話を切って車の前で待つ。
あたりはもう薄暗くなっていた。
ガチャと玄関のドアを開けて出てきた健一に「よう」と声をかける。
「なんだよ、ほんとに」
嫌そうな顔をした健一に湊は「弟いるか」と言った。
「あ?なんで勇一?」
「いいから連れてこい」
静かにそう言った湊は怒りを必死で抑えていた。
「ちょっと待て」
玄関のドアを開けると「勇一ー!」と怒鳴った。家の中から「ぁんだよー」と返ってくるのが聞こえた。
「ちょっと出てこい!」
健一は湊が怒ってるのを感じていた。それが何に怒ってるのかは分からないでいたが。
勇一が家から出てきたと同時に湊は勇一の襟元を掴みドンと壁にぶつけた。
それはもうこれでもかってくらいに怒っていた。
「愛川!」
目の前でいきなり弟に対して殴りかからそうな勢いで飛び付かれたら、兄としては驚くだろう。湊の腕を引き離そうとした。
「滝山。黙ってろ。俺が用あんのは弟の方だ」
「弟が何したってんだよ!お前、弟知らねぇだろうが!」
健一に目線も向けず、勇一に睨みを効かす。
「俺の妹に何した」
「え」
「妹に何したって言ってんだよ!」
その勢いに圧倒される勇一は何も言えずにいた。それを聞いて動いたのは健一だった。
「お前、愛川の妹になんかしたのか?」
「え、愛川って……。柚子の兄ちゃん?」
勇一が言った言葉に反応する湊は勇一の襟元を強く掴んだ。
「誰が……柚子と呼んでいいつった?」
低い声に怒りが見える。それに気付いた健一が湊から勇一を引き離す。
「お前は怖ぇんだよ、少しは落ち着け」
「落ち着いてられるか。こいつが妹にしたことで、妹が泣いてるんだよ!」
「勇一は女の子泣かす度胸ねぇよ」
「妹が泣いて俺んとこに来たんだよ!」
湊と健一の口喧嘩に発展してしまったのを見て、勇一がポツリと言った。
「キス……しました」
それを聞いたのと同時に湊は勇一を殴った。それも勢いよく。
勇一は殴られた衝撃で背中を壁に打ち付けられて顔をしかめる。口の中を切ったのか、口の中は鉄の味がした。
「勇一!」
「泣いてんだよ。ずっと!俺の妹がっ!」
叫ぶ湊を抑える健一は必死だった。仲がいい兄弟ではない。悪くもない。だけど、たったひとりの弟をただ殴られてるのを見てはいられない。
「愛川!待て!落ち着け!」
「落ち着いてるよ!」
「落ち着いてねぇよ!」
「女、泣かせる男は男じゃねぇー!」
騒ぐ湊と抑えようとする健一に近所の人たちがジロジロと見てくる。
健一たちの両親はまだ不在。この状況はあとから知らされる。
「勇一。お前、愛川の妹に手、出したんかよ」
湊を抑えながら、殴られて踞ってる勇一に言った。
「惚れてるから」
「で、キス迫ったってのかよ!」
「惚れたらキスしたいじゃん。それ以上のこともしたいじゃん!」
「お前なぁ……。相手がそうじゃない場合は犯罪だぞ!」
「柚子だって俺が好きに決まってる!」
と、勇一のトンデモ発言に湊は更に頭にくる。
「お前の弟、頭おかいしぞ!柚子がこんなヤツに惚れるわけねー!」
「こんなヤツってなんだよ!確かに頭おかしいけどさー!」
「兄ちゃん。ひでぇよ」
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