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第3章
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柚子が風呂に入ってる間、零士は自己嫌悪に陥っていた。だけどずっとそうしてるわけには行かず、とりあえず兄の祐士に電話をした。
『はい』
「兄貴ー。ハラ減った」
その言葉から、本当に自己嫌悪に陥っていたのかと疑う。
『お前なぁ』
「今日、定休だろ」
『そっち行けって?』
「うん。柚子もいる」
『は?』
「だから俺の彼女」
『お前、昨日ライブだったろ。そのあと泊めたのか?』
「うん」
電話の向こうでため息を吐いた。
『彼女、高校生だろ。ちゃんと家に帰せ』
「たまにしか会えないのに」
『お前なー』
兄の祐士と話していると零士は【弟】になっていく。
「頼むよー、兄貴」
『はぁ……。全く。待ってな』
電話を切ってため息を吐く。
◇◇◇◇◇
一時間後。
零士のマンションには祐士が来ていた。
「全く、お前はぁ……」
呆れた顔で零士を見下ろす。
零士より背の高い祐士は、マンションのキッキンへと向かう。
「普段なにもしてねぇだろ」
キッキンを見てそう言う。
「暇ねぇじゃん。それに俺が作ると燃える」
「意味わかんねぇよ、なんで燃えるんだよ」
呆れた顔で手際よく持ってきた食材を調理し出す。
「柚子ちゃん、夏休みだけど夏期講習とかないの?」
調理しながら柚子に声をかける。
「あ……、今日はありません」
「そうか」
祐士はふたりに何かあったのだろうと感じて話をする。
零士が祐士を呼んだのは零士自身がふたりでいるのが落ち着かない状態だったからだった。
「零士」
祐士は零士を呼び寄せた。
「ケンカでもしたか。だから呼んだんだろ」
「……っ!違ぇよ!」
そう言うが祐士にはバレバレ。ケンカという程ではないがちょっとなにかあったと祐士にはバレてる。
慌てる零士を見て祐士は可笑しくて笑い出す。弟の見たことのない姿を見られるのが面白い。
だが、ふたりの間の空気をどうにかしてあげたいと思うのは兄として弟を心配しているから。
昔から零士のことを可愛がっていた祐士だから、放ておくことか出来ない。離れて暮らしていたこともあるから、弟というより自分の子供に近い感覚なのかもしれない。だから会えない時間が多くて会えた時はめちゃめちゃに零士を甘えさせていた。加えて零士は末っ子だから余計だ。
「ほらよ」
野菜いっぱいのパスタをテーブルに寘くと零士は「うぇ」という顔をする。
「野菜足りてねぇだろうからな」
零士の身体を心配して野菜をたくさん使う。
「残すなよ」
「嫌いって知ってるのに」
拗ねる零士は本当に子供みたいで思わず柚子は笑う。
その顔にほっとする零士は柚子に笑いかける。
「本当に野菜嫌いなんだね」
「嫌いだよ、特にナス。あのぐにゃとした食感が嫌い」
「つべこべ言うな」
そう言った祐士は柚子を見た。
「我が儘な弟でごめんな」
「あ……、いえ」
「こんなんだけどよろしくな」
「ガキ扱いやめろって」
「ガキだろ」
「ひっでぇ……」
頭をグシャグシャとする祐士は零士を可愛がってるのが分かる。
「じゃ帰るから。早く仲直りしろよ」
帰り際、零士にそう言った。
「なにやったって、男が謝った方がいいんだ」と。それを聞いて零士はまた柚子を見ていた。
バタンとマンションのドアが閉まる。祐士が帰ったのを確認すると、零士は立ち上がって柚子を後ろから抱きしめた。
「零士さん……」
首筋にキスをした零士は情けない程、小さくなってる。
「柚子。俺……」
「もう……、謝らないで」
「柚子……」
柚子の手が零士の手に触れる。顔を上げて零士を見ると情けなくてでも可愛いと思えてしまう零士の顔がある。
(やっぱり大好き)
どんな顔をしていても大好きなんだと思う。
「……俺さ、酒は結構強いけど、ワインだけはダメなんだよ」
ポツリと話し出す。色んな酒を飲む零士だが、ワインだけは飲まない。
「ワイン飲むと記憶なくすんだよ」
お酒のことはよく分からない柚子は黙って聞く。
「で、打ち上げん時に飲まされたんだよワイン」
「どこから記憶ないの?」
「優樹菜に運転して貰ってマンション着いたとこまでは覚えてる。そこからどうやって部屋まで来たのか……」
ごめんともう一度言う。
「もう……、飲まないでね」
「分かった」
零士はそう約束した。
『はい』
「兄貴ー。ハラ減った」
その言葉から、本当に自己嫌悪に陥っていたのかと疑う。
『お前なぁ』
「今日、定休だろ」
『そっち行けって?』
「うん。柚子もいる」
『は?』
「だから俺の彼女」
『お前、昨日ライブだったろ。そのあと泊めたのか?』
「うん」
電話の向こうでため息を吐いた。
『彼女、高校生だろ。ちゃんと家に帰せ』
「たまにしか会えないのに」
『お前なー』
兄の祐士と話していると零士は【弟】になっていく。
「頼むよー、兄貴」
『はぁ……。全く。待ってな』
電話を切ってため息を吐く。
◇◇◇◇◇
一時間後。
零士のマンションには祐士が来ていた。
「全く、お前はぁ……」
呆れた顔で零士を見下ろす。
零士より背の高い祐士は、マンションのキッキンへと向かう。
「普段なにもしてねぇだろ」
キッキンを見てそう言う。
「暇ねぇじゃん。それに俺が作ると燃える」
「意味わかんねぇよ、なんで燃えるんだよ」
呆れた顔で手際よく持ってきた食材を調理し出す。
「柚子ちゃん、夏休みだけど夏期講習とかないの?」
調理しながら柚子に声をかける。
「あ……、今日はありません」
「そうか」
祐士はふたりに何かあったのだろうと感じて話をする。
零士が祐士を呼んだのは零士自身がふたりでいるのが落ち着かない状態だったからだった。
「零士」
祐士は零士を呼び寄せた。
「ケンカでもしたか。だから呼んだんだろ」
「……っ!違ぇよ!」
そう言うが祐士にはバレバレ。ケンカという程ではないがちょっとなにかあったと祐士にはバレてる。
慌てる零士を見て祐士は可笑しくて笑い出す。弟の見たことのない姿を見られるのが面白い。
だが、ふたりの間の空気をどうにかしてあげたいと思うのは兄として弟を心配しているから。
昔から零士のことを可愛がっていた祐士だから、放ておくことか出来ない。離れて暮らしていたこともあるから、弟というより自分の子供に近い感覚なのかもしれない。だから会えない時間が多くて会えた時はめちゃめちゃに零士を甘えさせていた。加えて零士は末っ子だから余計だ。
「ほらよ」
野菜いっぱいのパスタをテーブルに寘くと零士は「うぇ」という顔をする。
「野菜足りてねぇだろうからな」
零士の身体を心配して野菜をたくさん使う。
「残すなよ」
「嫌いって知ってるのに」
拗ねる零士は本当に子供みたいで思わず柚子は笑う。
その顔にほっとする零士は柚子に笑いかける。
「本当に野菜嫌いなんだね」
「嫌いだよ、特にナス。あのぐにゃとした食感が嫌い」
「つべこべ言うな」
そう言った祐士は柚子を見た。
「我が儘な弟でごめんな」
「あ……、いえ」
「こんなんだけどよろしくな」
「ガキ扱いやめろって」
「ガキだろ」
「ひっでぇ……」
頭をグシャグシャとする祐士は零士を可愛がってるのが分かる。
「じゃ帰るから。早く仲直りしろよ」
帰り際、零士にそう言った。
「なにやったって、男が謝った方がいいんだ」と。それを聞いて零士はまた柚子を見ていた。
バタンとマンションのドアが閉まる。祐士が帰ったのを確認すると、零士は立ち上がって柚子を後ろから抱きしめた。
「零士さん……」
首筋にキスをした零士は情けない程、小さくなってる。
「柚子。俺……」
「もう……、謝らないで」
「柚子……」
柚子の手が零士の手に触れる。顔を上げて零士を見ると情けなくてでも可愛いと思えてしまう零士の顔がある。
(やっぱり大好き)
どんな顔をしていても大好きなんだと思う。
「……俺さ、酒は結構強いけど、ワインだけはダメなんだよ」
ポツリと話し出す。色んな酒を飲む零士だが、ワインだけは飲まない。
「ワイン飲むと記憶なくすんだよ」
お酒のことはよく分からない柚子は黙って聞く。
「で、打ち上げん時に飲まされたんだよワイン」
「どこから記憶ないの?」
「優樹菜に運転して貰ってマンション着いたとこまでは覚えてる。そこからどうやって部屋まで来たのか……」
ごめんともう一度言う。
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零士はそう約束した。
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