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第3章
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一学期も終盤に差し掛かる頃。汗ばむ陽気がうざったい。柚子の長い髪が靡く時は首元が心地よいと感じるが、そうでない時はこの長い髪が非常に鬱陶しい。
(暑……っ!)
職員室に用事があった柚子は窓から入り込んだ熱風に思わず顔をしかめた。
廊下もジメジメとしていて不快な空気を漂う。まだ夏に入る前の梅雨の時期。雨は降っていないけど、梅雨明け宣言はまだされてない。
そんな微妙な時期の暑さは本当に嫌いだった。
そしてそれに加えて嫌いなのは──……。
「柚子ー!」
教室に入ると聞こえるこの声。よくも悪くもない、ごく普通の男子生徒の声。
男子から柚子と下の名前で呼ぶのは煌太とあとひとりしかいない。
「名前で呼ばないで」
嫌そうな顔で勇一を見る。勇一は本当に懲りないのか、毎日毎日、湊に会わせろ、BRの話を聞かせろと言う。クラスメートや隣のクラスの人たちなどはそれが当たり前になっていて、誰も何も言わない。
ふたりの攻防は日課のようになりつつあった。
「勝手に下の名前で呼ばないで欲しいんだけど」
心底イヤだと言っているのに、分かってくれない勇一にどうすれば分かってくれるだろうと毎日悩む。それでも答えは見つからない日々が続く。
手っ取り早く、湊に会わせて湊から呼ぶなと言って貰うのが一番早い気がするが、湊に会わせたくない。
「お兄ちゃんに会わせる気はないわよ」
「だから大学教えてくれ。そしたら勝手に会いに行く!」
「はぁ?」
柚子は「何言ってるの?」と呆れた顔で勇一を見る。
「うちのお兄ちゃんの邪魔をする気?忙しいのよ、うちのお兄ちゃん」
忙しいと言いながらも柚子の為に動く人なんだけども。
「だからどこの大学だよ」
「○○大学の医学部」
「……。え?」
「だから、医大生なの!普通の大学生より忙しいの!」
思わず大学名を言ってしまって後悔した。絶対、湊に会いに行くだろうと。
でも医大生って聞いて勇一は驚いて固まってしまっていた。
それを聞いていた他のクラスメートたちも柚子に注目していた。
そうなのだ。この視線が嫌で、柚子は湊の大学は言わないでいた。絶対、凄いとか言われるし逆に自慢してるの?と言われることもあるからだ。
(出来の良すぎる兄を持つと辛い)
だから追い付きたかった。でもどんなに頑張っても追い付けなかった。
「凄ぇ……」
呟くように勇一が言った。
「いい?お兄ちゃんに会いに行ったら許さない!」
珍しく声を荒らげて言う柚子にみんなが注目してる。
それを可笑しく笑うのは芽依。
「ブラコンだから、この子」
「ちょっと、芽依!」
「お兄さんに関わることになると必死なのよー」
「め~い!」
余計なことを言うなと芽依に詰め寄る。
「それから、柚子に構わない方がいいよ。お兄さんの耳に入ったら大変」
「え?」
「ここの兄妹、シスコンにブラコンなの。お兄さん、柚子の為ならなんだってするから」
と、これでも芽依なりの脅しをかけたらしい。
「芽依。余計なこと言わないでよー」
「だってこうでも言わなきゃアイツ、しつこくするでしょ」
言っても変わらないと思う柚子はため息を吐くしかなかった。
(暑……っ!)
職員室に用事があった柚子は窓から入り込んだ熱風に思わず顔をしかめた。
廊下もジメジメとしていて不快な空気を漂う。まだ夏に入る前の梅雨の時期。雨は降っていないけど、梅雨明け宣言はまだされてない。
そんな微妙な時期の暑さは本当に嫌いだった。
そしてそれに加えて嫌いなのは──……。
「柚子ー!」
教室に入ると聞こえるこの声。よくも悪くもない、ごく普通の男子生徒の声。
男子から柚子と下の名前で呼ぶのは煌太とあとひとりしかいない。
「名前で呼ばないで」
嫌そうな顔で勇一を見る。勇一は本当に懲りないのか、毎日毎日、湊に会わせろ、BRの話を聞かせろと言う。クラスメートや隣のクラスの人たちなどはそれが当たり前になっていて、誰も何も言わない。
ふたりの攻防は日課のようになりつつあった。
「勝手に下の名前で呼ばないで欲しいんだけど」
心底イヤだと言っているのに、分かってくれない勇一にどうすれば分かってくれるだろうと毎日悩む。それでも答えは見つからない日々が続く。
手っ取り早く、湊に会わせて湊から呼ぶなと言って貰うのが一番早い気がするが、湊に会わせたくない。
「お兄ちゃんに会わせる気はないわよ」
「だから大学教えてくれ。そしたら勝手に会いに行く!」
「はぁ?」
柚子は「何言ってるの?」と呆れた顔で勇一を見る。
「うちのお兄ちゃんの邪魔をする気?忙しいのよ、うちのお兄ちゃん」
忙しいと言いながらも柚子の為に動く人なんだけども。
「だからどこの大学だよ」
「○○大学の医学部」
「……。え?」
「だから、医大生なの!普通の大学生より忙しいの!」
思わず大学名を言ってしまって後悔した。絶対、湊に会いに行くだろうと。
でも医大生って聞いて勇一は驚いて固まってしまっていた。
それを聞いていた他のクラスメートたちも柚子に注目していた。
そうなのだ。この視線が嫌で、柚子は湊の大学は言わないでいた。絶対、凄いとか言われるし逆に自慢してるの?と言われることもあるからだ。
(出来の良すぎる兄を持つと辛い)
だから追い付きたかった。でもどんなに頑張っても追い付けなかった。
「凄ぇ……」
呟くように勇一が言った。
「いい?お兄ちゃんに会いに行ったら許さない!」
珍しく声を荒らげて言う柚子にみんなが注目してる。
それを可笑しく笑うのは芽依。
「ブラコンだから、この子」
「ちょっと、芽依!」
「お兄さんに関わることになると必死なのよー」
「め~い!」
余計なことを言うなと芽依に詰め寄る。
「それから、柚子に構わない方がいいよ。お兄さんの耳に入ったら大変」
「え?」
「ここの兄妹、シスコンにブラコンなの。お兄さん、柚子の為ならなんだってするから」
と、これでも芽依なりの脅しをかけたらしい。
「芽依。余計なこと言わないでよー」
「だってこうでも言わなきゃアイツ、しつこくするでしょ」
言っても変わらないと思う柚子はため息を吐くしかなかった。
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