もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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第3章

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 あの日、零士のマンションで過ごした日からまた柚子は零士と会えないでいた。日本にはいるのだけど、なかなか会えないでいた。


 新学期。
 柚子たちは高校三年生になっていた。
「柚子!」
 芽依と一緒に登校するのも何年続いてるだろう。
 常に一緒のふたりが一緒に登校出来るのは今年最後になる。
「芽依は大学どうするんだっけ?」
「私は教師になりたいからね」
 そういや、小学校の先生になりたいとずっと言っていた。
「柚子は結局どうするのよ」
 芽依は柚子がまだ迷ってることを知ってる。
「柚子は絵が得意だからねー。デザイン系行ったらいいと思うんだけどね」
 柚子のことをよく知ってる芽依がそう言う。だけどそういう方向は考えていなかった。
「なに、その顔」
「あ、そんなこと考えたことなかったから」
「あ、そうなの」
 驚いた顔した柚子の反応が面白かった。
「柚子はさ、子供の頃からそういう夢みたいなものないよね」
 その言葉に頷く。

(なりたいもの……。ないとおかしいのかな)
 考えても答えは出てこない。だからこそ、柚子なりに焦ってる。どうしたらいいのかと。
 周りはいろんなことを考えていて、ひとり置いてかれてる気分になる。
 芽依のいうデザイン系の学校行ったところで、自分は何になりたいのか。目的もなく、そういう学校に行っていいのか。


「愛川」
 学校で担任に呼ばれた柚子は、言われることは分かっていた。
 柚子だけ、進路希望を出していなかった。
「進路、どうするんだ」
「分からないです」
 そう言うしかなかった。
「お前の兄さんは早くに希望出てたのになぁ」
 困った顔をしたこの担任の先生は、湊の高校三年生の時の担任。
「お前の兄さんは○○大学の医学部だっけ」
「はい」
「お前も頭はいいのにそういう方向には行かないのか?」
「私は……」
 柚子は確かに頭はいい。兄に追い付きたい一心でずっとやってきていた。
「去年の担任からはなんでもよく出来ると聞いてるんだが」
「大学、行かないといけないんですか?」
 不意にそんな言葉が出た。
「行けるうちは行っておいた方がいい。大学は勉強ももちろん大切だが、最後に遊んでいられる大切な期間だ。大学でやりたいことを見つけられる人もいる」
 そう言われてもまだよく分からない。
「もう少し、考えててもいいですか」
「だけど、早くしろよ」
「はい」
 職員室を出るとため息が出る。みんなは自分より一歩先へと進んでる。



     ◇◇◇◇◇



「ゆーず!」
 教室に戻ると今年度は同じクラスの芽依が待っていた。
「言われた?」
「まぁ……」
「私は絶対、デザイン系いいと思うんだよねぇー」
 芽依はどうしてもデザイン系の学校を推してるらしい。
「芽依は□□大学だよね」
「受かればねー」
 芽依はやりたいことがあるからそれに向かっていける。だけど柚子にはまだそれが見つかっていない。

「煌太はどうするんだっけ?」
「アイツは体育大でしょ」
 空手をやってる煌太はどうみてもそういう道を行くだろう。
「今日も部活だっけ?」
「頑張るよねぇ」
 この学校には道場があり、そこには空手部と剣道部と柔道部が練習で使ってる。同じ建物の中にそれぞれの部が使う部屋があり、その2階には部室とシャワー室がある。
「みんな、ちゃんと考えてるんだもんね……」
 柚子はひとり取り残された気分でいっぱいだった。
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