もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

文字の大きさ
上 下
23 / 104
第2章

12

しおりを挟む
 湊に電話をしてから約1時間後。
 零士は柚子の家の近くにいた。車を停めて柚子にメッセージを送る。柚子はそれに対して《今行く!》と返信していた。
 それから数分。ちょっと大きめの荷物持って走ってきた柚子が見えた。
 零士の車はいつもとは違う赤のスポーツカーで柚子は戸惑う。零士は助手席のドアを開けるとそのドアに滑り込むように車に乗り込んだ。

「柚子」
 ニコッと笑う零士に柚子はドキッとした。今日は時間が時間なので零士のマンションに泊まると、事前にふたりは話していた。柚子に取ってはそれがどんなことなのか分かっていた。それでも柚子は零士と会いたかった。
「大丈夫?」
 緊張している柚子に笑いかけるとゆっくり車を走らせた。
「さっき湊に文句言われたわ」
 ハンドルを握りしめて運転する零士は誰よりもかっこいい。
「お兄ちゃんに?」
「うん。凄い心配なんだろうなぁ」
 湊のところへ行ってると話を合わせてくれてる兄に感謝だ。
「零士さん……。仕事、大丈夫……?」
「心配ないよ」
 零士の運転する車はとあるイタリアン料理のお店へと向かっていた。
「食事をしよう」
 と言った。
 零士は事前に予約していたのか、貸し切り状態の店内。
「零士さん……?」
「ここ、俺の兄貴の店」
「え」
「一番上の兄貴とは8コ離れてるんだよ。で、中学卒業して単身でイタリアに行ったんだよ。だからほぼ一緒に暮らした記憶がない」
 どうしたらいいのか分からない柚子は緊張によりガチガチになっていた。
「大丈夫だって」
 そう言うと零士に後ろから声がかかる。
「お前な、大丈夫じゃねーだろ」
 零士に似た人がそこに立っている。そして柚子をちらっと見て零士を睨む。
「彼女、高校生か?」
「まぁ」
「緊張するに決まってるだろ。誰もいない店にいるんだ。何事かと思うだろ。ごめんな、バカな弟が」
 そう言うと厨房へ戻って行く。
(声が……、そっくり)
 後ろから声がした時、びっくりした。そのくらい声が似てた。勿論、顔も似ていて優しい笑顔をしていた。

「零士……さん。あの……」
 緊張で言葉が出てこない柚子は黙り込んでしまった。
「兄貴の店じゃないと色々と問題があってな。無理言ったんだよ」
 色々と問題という言葉に柚子は引っ掛かった。どういう問題なのか、想像つく。自分と会うことがリスクがあること。そもそも自分と付き合うこと自体が零士にとってリスクあることなんだと。
「不安がらせるな」
 零士に似たお兄さんがふたりの前に戻ってきた。
「お前の言葉は彼女を不安がらせてる」
「えぇっ!」
「問題があるじゃねーだろ。その発言は彼女のせいのよう聞こえるぞ」
「あ……」
「ほんと、ごめんな。こいつはうちの店以外は信用出来なくて君を連れて行けないってことを言いたいんだよ。しかも今、思いっきりREIJIの格好してるからな」
 そういえば……と、零士を見るといつものラフな格好ではなく革ジャンに皮パンにサングラスといったいかにもBRのREIJIだった。
「仕事から直接迎えに行ったから」
「だから車も?」
「そ」
「車乗ってる時に見られるなよ」
「分かってる」
 零士の兄は目の前にサラダやスープを置いて行った。
「本来ならスタッフがやるんだろうけどな。俺が来るとスタッフはみんないないんだよ」
 零士の兄は零士のことを思い、零士が来るとスタッフを休みにする。スタッフと零士を関わらせないように。

「一緒に住んだ記憶はほぼないけど、いつも俺を気にかけてくれたんだ」
 そう言うとスープに口をつける。
「兄貴ー」
 厨房に向かって叫ぶ零士。
「お前なぁ、次準備すっから呼ぶな」
 と厨房から叫び返される。
 ひとりで料理をしているから慌てるのかと思いきや冷静に動く。
 暫くして「なんだ」と零士の方へとやってくる。
「玉ねぎいらない」
「食え」
「野菜嫌い」
「食え」
「嫌い」
「好き嫌いしてっとデカクならねーよ」
「これ以上デカクなってどうすんだ」
「煩せぇ。とにかく出されたもんは食え」
 そして柚子に振り返り「嫌いなものある?」と聞いた。
「あ……。海老と蟹、食べられないです」
「アレルギー?」
「はい。あとは全然大丈夫です」
「了解。スープには入ってないから安心して」
 優しく柚子に笑いかけまた戻って行く。

「野菜、苦手なの?」
「嫌い。じゃがいもは食えるけど……」
 拗ねた感じが可愛く見える。
「柚子は甲殻アレルギーなんだ」
「うん」
「そっか」
 そんなたわいもないこともニコニコと笑って聞く。零士に会えたことで心が安らぐのを感じていた。それは零士も同じことだった。


「じぁ兄貴」
 そう言った零士はサングラスをかける。その仕草を見て零士の兄は笑う。
「似合わねぇ」
「な、なんだよっ!」
「お前はまだまだガキだっての」
 そう言って頭をグシャグシャとする。
「あー!何すんだよ!」
「頭グシャグシャの方がREIJIっぽくねぇよ。REIJIはいつもキメ過ぎたからな」
「なんか、ガキ扱いされてる気がする」
「俺からすりゃガキだよ。じゃ、柚子ちゃん。またおいで。旨いもん食わせてやるから」
「ありがとうございました」
 そう言ってふたりは店を後にした。
 車に乗り込もうとした時、零士は考え込んでしまった。
「柚子。後ろに乗ってな」
 車のシートを倒し後ろに乗せる。
「この車、結構目立つから張られてるかもしれない」
 そう言って零士は車を走らせた。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...