もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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第2章

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 あの日から勇一が柚子に付きまとうことになってしまった。

「よう!愛川!」
 露骨に嫌な顔をする柚子は「何」とぶっきらぼうに言った。
「お前の兄貴にさー……」
「会わせない」
「なんだよ、話くらい聞けよー」
「無理なものは無理なの」
 柚子に付きまとうのが恒例となってしまってるからなのか、クラスメートたちは「やめなよ」とは言わない。
 面白がって見てるだけ。
「なぁ」
「無理」
 このやり取りは休み時間になるとチャイムが鳴るまで続けられる。
 そのことにいい加減うんざりしてきた時、柚子のクラスに煌太がやってきた。

「柚子」
 煌太が教室を覗くと柚子と勇一のやり取りが続いていて、煌太に気付かない。
 何事かと聞いてみると湊に会わせろと言ってる。
「だから、無理なの」
「いいじゃんかー」
「しつこいよ」
 本当に迷惑している柚子に近付き、煌太は勇一を睨む。
「滝山。柚子に寄るな」
 柚子の手を掴み自分の後ろに隠すように間に入る煌太は、彼氏にしたら幸せなんじゃないかと思う。
「柚子が嫌がってる」
「篠宮には関係ないだろー」
「柚子が嫌だって言ってるだろ」
「お前、何なんだよー」
 煌太は空手部。ガタイはいい。そんなガタイのいい煌太に睨まれたら誰でもたじろぐ。
「そもそも柚子の兄ちゃん、家にいないし」
「だ、だーから、連絡してくれれば……」
「そもそもなんでそんなに会いたいんだ」
「BRのことを聞きたい……んだょ」
 段々と声が小さくなる勇一に煌太は「はぁ?」となる。
「どういうこと?」
 振り返り柚子に聞く。
「お兄ちゃん、メンバーと同じクラスだったって話からこうなった」
「は?俺、初耳だぞ」
「あれ。言わなかったっけ?」
「知らん」
「お兄ちゃんとメンバーのみんなはこの学校で一緒だったのよ」
 BRファンの煌太も大騒ぎの状態だろう。だけど煌太の反応は違った。
「ファンだからって、何してもいい訳じゃねぇよな」
 勇一をじっと見る煌太。その煌太の迫力に勇一は黙るしかなかった。



『で、結局その幼馴染みが助けてくれたのか』
 スマホから聞こえる声がくすぐったい。でもその声は少し不貞腐れてるようにも聞こえる。
『その場に俺がいたらなぁ……』
「え?」
『柚子を守るのは俺なのにさ』
「零士さん?」
『……なんでもねぇよ』
 今どんな状態でそう言ったのか分かるような気がした。
 部屋でひとり、膝を抱えるように拗ねてるんだろうと。
(嫉妬……?)
 でも柚子にはそれがなんでなのか、何が原因なのかは分かってない。

「零士さん……」
 呼び掛けると少し沈黙が起こった。
 そして零士らしくない小声で柚子の耳に言葉が届いた。


『会いてぇな……』


 日本にいる筈の零士だが、仕事が忙しくなかなか休みが取れない。その為、会うことも出来なくなっていた。
 会いにくると言って会えない日。その分、電話はほぼ毎日していた。
 少しずつ、柚子は零士に対して敬語を使わなくなっていた。
『柚子』
「ん」
『次の金曜日。夕方迎えに行く』
「え?大丈夫……なの?」
『なんとかなる』
 そう言った零士は電話を切った後、優樹菜にかけていた。
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