9 / 104
第1章
8
しおりを挟む
零士の言葉に柚子はどうしたらいいか分からなくなる。こんなに真っ直ぐに「好きだ」と言われたことない。こんなにも胸が高鳴ることはなかった。
「……零士さん」
顔が上げられない。恥ずかしくて上げることが出来ない。そんな柚子の手を取り優しい声で零士は言う。
「すぐに答えは出さなくていい。考えておいて」
優しさが柚子に降りかかるようだった。
(零士さんが私を……。そんなこと、信じられない。ほんとに?)
嘘ではないのかとそんな思いを抱えながら、零士に手を握られていた。
そのあと零士は、たわいもない話をしながら海の見える街を一緒に歩く。さっきの柚子への告白なんてなかったかのような振る舞う。それが余計に柚子を混乱させる。
「ハラ減ったなぁ」
そう言った零士は柚子に「メシ食いに行こう」と言う。柚子は頷いて零士の隣を歩いていく。
再び車に乗り込んだふたりは海沿いをまた走っていく。窓を開けていると潮風が入ってくる。暑いんだけどその潮風が心地いい。
「どこに?」
「そうだなぁ」
零士は少し考えてから丘がある方へハンドルを切る。
どこに行くのか全く分からない柚子は零士の横顔をじっと見つめるだけだった。
丘を登って暫くすると白い建物が見えた。ハワイアンな雰囲気の建物。そこはちょっとお洒落なカフェだった。
「かわいい……」
「女の子はこういうの好きだねぇ」
目を細くして柚子を見る零士は柚子の手を掴み、店の中へ入っていく。
店の中も想像した通り可愛らしい雰囲気だった。海の近くらしいマリン雑貨が置いてあって、壁紙などは白と水色で統一されていた。
青や水色が好きな柚子はこの店の雰囲気がとても気に入ってしまった。
テーブルや椅子だって可愛い。窓にかけられてるレースのカーテンも可愛い。壁にかけられた時計も可愛い。とにかく柚子にとってはこの店のひとつひとつが夢中になってしまうものばかりだった。
そしてこの店の一角には雑貨やアクセサリーが並んでいた。
「可愛い」
それらを見て呟いた柚子にくすっと笑う。
(女の子だなぁ)
そう零士が思ったことは柚子は気付いてない。
「柚子ちゃん」
零士に促されて窓側の席へ座る。
(こんな可愛いお店知ってるなんて……。やっぱり今までいろんな女の子と付き合ってきたに違いない)
自分への気持ちはきっと一時の迷いなのかもしれない。じゃなきゃこんなにカッコいい人が……。
そういう思いが柚子を中を駆け巡る。でもせっかくこうして連れてきてくれてるから楽しまないと悪いという思い、精一杯笑顔でいることにした。
「柚子ちゃんが好きな食べ物なに?」
メニューを見ながら言う零士に柚子は「特に嫌いなものはありません」と答える。
「また敬語になってる」
「だって……」
年上の男の人にタメ口は出来ないと心の中で思った。
「仕方ないなぁ。ゆっくりでいいから普通に話して」
目を細めて言う零士に頷く。
ゆっくりでいいからと言われても普通に話せる日が来るのかは柚子には分からなかった。
夕方。まだ少し明るさがある頃に零士の車は柚子の家の近所に停まった。駅までていいと言ったのに零士はここまで送ってきた。
「ありがとうございます……」
零士の顔をまともに見れない柚子は頭を下げたまま車を降りようとした。
「待って」
と零士は柚子を引き止めた。振り返った柚子の前髪に触れるとキレイなオーロラ色をした石が付いたピンを留めた。
「え……?」
「うん。似合う」
「これ?」
「あの店で見てただろ?」
「いつ買ったの」
「内緒」
悪戯っ子のような顔をして柚子を見る零士はにこっと笑う。
「人が来る前に帰りな」
頭にぽんと手を置いて柚子の背中を軽く押す。柚子はそのまま車を降りた。柚子が降りるのと同時に車は走り去っていく。
(どうしよう……)
胸のドキドキが止まらない。柚子はドキドキを誤魔化すかのように家までの道を走り出した。
「ただいま!」
玄関に入るとそのまま階段をかけ上る。部屋の扉とカーテンを閉めて、部屋にある姿見を覗いた。
髪に付けてくれたピンはオーロラ色の石ではなく、樹脂のようなものだった。あの店に置いてあったものはハンドメイドものなのだろう。
ピンを外すとぎゅっと胸に抱いた。
「……零士さん」
顔が上げられない。恥ずかしくて上げることが出来ない。そんな柚子の手を取り優しい声で零士は言う。
「すぐに答えは出さなくていい。考えておいて」
優しさが柚子に降りかかるようだった。
(零士さんが私を……。そんなこと、信じられない。ほんとに?)
嘘ではないのかとそんな思いを抱えながら、零士に手を握られていた。
そのあと零士は、たわいもない話をしながら海の見える街を一緒に歩く。さっきの柚子への告白なんてなかったかのような振る舞う。それが余計に柚子を混乱させる。
「ハラ減ったなぁ」
そう言った零士は柚子に「メシ食いに行こう」と言う。柚子は頷いて零士の隣を歩いていく。
再び車に乗り込んだふたりは海沿いをまた走っていく。窓を開けていると潮風が入ってくる。暑いんだけどその潮風が心地いい。
「どこに?」
「そうだなぁ」
零士は少し考えてから丘がある方へハンドルを切る。
どこに行くのか全く分からない柚子は零士の横顔をじっと見つめるだけだった。
丘を登って暫くすると白い建物が見えた。ハワイアンな雰囲気の建物。そこはちょっとお洒落なカフェだった。
「かわいい……」
「女の子はこういうの好きだねぇ」
目を細くして柚子を見る零士は柚子の手を掴み、店の中へ入っていく。
店の中も想像した通り可愛らしい雰囲気だった。海の近くらしいマリン雑貨が置いてあって、壁紙などは白と水色で統一されていた。
青や水色が好きな柚子はこの店の雰囲気がとても気に入ってしまった。
テーブルや椅子だって可愛い。窓にかけられてるレースのカーテンも可愛い。壁にかけられた時計も可愛い。とにかく柚子にとってはこの店のひとつひとつが夢中になってしまうものばかりだった。
そしてこの店の一角には雑貨やアクセサリーが並んでいた。
「可愛い」
それらを見て呟いた柚子にくすっと笑う。
(女の子だなぁ)
そう零士が思ったことは柚子は気付いてない。
「柚子ちゃん」
零士に促されて窓側の席へ座る。
(こんな可愛いお店知ってるなんて……。やっぱり今までいろんな女の子と付き合ってきたに違いない)
自分への気持ちはきっと一時の迷いなのかもしれない。じゃなきゃこんなにカッコいい人が……。
そういう思いが柚子を中を駆け巡る。でもせっかくこうして連れてきてくれてるから楽しまないと悪いという思い、精一杯笑顔でいることにした。
「柚子ちゃんが好きな食べ物なに?」
メニューを見ながら言う零士に柚子は「特に嫌いなものはありません」と答える。
「また敬語になってる」
「だって……」
年上の男の人にタメ口は出来ないと心の中で思った。
「仕方ないなぁ。ゆっくりでいいから普通に話して」
目を細めて言う零士に頷く。
ゆっくりでいいからと言われても普通に話せる日が来るのかは柚子には分からなかった。
夕方。まだ少し明るさがある頃に零士の車は柚子の家の近所に停まった。駅までていいと言ったのに零士はここまで送ってきた。
「ありがとうございます……」
零士の顔をまともに見れない柚子は頭を下げたまま車を降りようとした。
「待って」
と零士は柚子を引き止めた。振り返った柚子の前髪に触れるとキレイなオーロラ色をした石が付いたピンを留めた。
「え……?」
「うん。似合う」
「これ?」
「あの店で見てただろ?」
「いつ買ったの」
「内緒」
悪戯っ子のような顔をして柚子を見る零士はにこっと笑う。
「人が来る前に帰りな」
頭にぽんと手を置いて柚子の背中を軽く押す。柚子はそのまま車を降りた。柚子が降りるのと同時に車は走り去っていく。
(どうしよう……)
胸のドキドキが止まらない。柚子はドキドキを誤魔化すかのように家までの道を走り出した。
「ただいま!」
玄関に入るとそのまま階段をかけ上る。部屋の扉とカーテンを閉めて、部屋にある姿見を覗いた。
髪に付けてくれたピンはオーロラ色の石ではなく、樹脂のようなものだった。あの店に置いてあったものはハンドメイドものなのだろう。
ピンを外すとぎゅっと胸に抱いた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる