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第1章
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零士の運転する車は都心をどんどん離れていく。その間零士は柚子に色んな話をしてくる。高校時代の話や小さな子供の頃の話に好きな音楽の話……。そのどれもが柚子にとってドキドキするものだった。隣にあのREIJIがいることも信じられない思いだったし、そのREIJIがごく普通の姿を見せてくれてることが嬉しかった。
「柚子ちゃんは何が好き?」
「え」
「好きなもの。柚子ちゃんのことが知りたいな」
零士の言動に戸惑う。知りたいなんて言われたらどう反応していいのか分からなくなる。
「あまり深く考え込まないでよ。ただ柚子ちゃんと仲良くなりたいんだよ」
困ったなぁという顔をしてる零士は真っ直ぐ前を向いて運転してる。
「ごめんなさい……。どうしたらいいのか分からなくて」
彼氏いたことない柚子が男の子と出掛けることなどなかった。ましてや、零士は大人の男の人。どうしたらいいのか何を話せばいいのか分からない。
遊びの誘いを了解したのは、兄である湊の友達だから。湊が信頼してる零士は柚子に対して何かしてくるとは思わなかったから。
「こういう風に出掛けるの初めてだったりする?」
「はい」
「今まで誰かと付き合ったことは?」
首を横に振る。
「こんなに可愛いのに」
可愛いと言われた柚子は顔が真っ赤だった。
「男共は見る目ないなぁ」
そんな風に言われるとは思わなかった。柚子は自分のことはごく普通の女の子だと思っている。男の子には恋愛対象にはならない女の子だと。
だけど零士は柚子を可愛いと言ってくれる。
(勘違いしてしまう……)
こんな風に可愛いと言われてしまえば、零士は自分のことを好きなのではと勘ぐってしまう。そんな自分が嫌で考えないようにしていた。
「さ、着いた」
零士が柚子を連れてきたのは都心から遠くもない海沿いの街。とても静かな海がそこには一面に広がっていた。
「キレイ……」
その海を見た柚子はそう呟いていた。
「だろ?子供の頃家族で来たことあるんだよ」
零士の子供の頃の話。出会ってまだ3回。話してくれることは子供の頃の話。高校生の頃の話。余程その頃が楽しかったのか、よく話してくれる。
「柚子ちゃんの家は家族とどこかへ出掛けたりした?」
「あ……。父が温泉好きなんでよく温泉に行ってました」
「温泉かぁ。いいね。今はそんな時間取れないけどなぁ」
今の零士はとても忙しいんだろう。今日のことだってせっかくの休みなのによく遊びに行こうと誘ってくれたなぁと思う。
「お仕事、忙しいんですか?」
隣に立って海を見てる零士にそう聞いてみた。零士は柚子の方を見て「敬語なし」と言う。
「仕事、休みなかなか取れないからいつも無理やり取るんだよねぇー。そうするとマネージャーやメンバーが焦る焦る」
ケタケタと思い出し笑いをする零士。そんな零士を心配そうに見る柚子。それに気付いた零士が「大丈夫だよ」と言う。
「心配することじゃないよ」
零士は煙草を咥えライターで火を付けた。
「息抜きしなきゃいい曲作れないから」
「零士さん……」
「今こうして柚子ちゃんといる時間も大切なんだよ」
笑った顔が眩しい。
眩しくて眩しくて、柚子には手の届かない筈なのに柚子の隣に立ってる。
「あの……、聞きたいことがあるんです」
勇気を出して柚子は零士を見る。
「私を誘ったのはなんで?」
「柚子ちゃんがいいからって言ったでしょ」
「はぐらかさないで……ください。ちゃんと聞いてるんです」
柚子を誘った理由を知りたいと、本人が願った。でも柚子はその答えを聞くのが怖かった。
もしどうでもいい理由だったら。
もし傷付くような理由だったら。
怖いと思いながら自分から聞いたから、ちゃんと答えを知りたいと思った。
そんな真剣な目をした柚子に負けてひとつ息を吐いた零士。よく見ると照れたような表情をしていた。
「柚子ちゃん……。俺と…、付き合わない?」
その言葉に目が大きく開く。
(何を言ったの?)
思考が追い付いていかない。
「俺の彼女にならないか」
もう一度そう言われてはっとする。
なぜそんなことになるのか。私はなんで私を誘ったのか聞いただけよと頭の中が混乱している柚子に、零士は続けて言う。
「初めて会った高校生の頃。会ったというか、すれ違ったというか……。学校帰りに湊の家行ってBRを作る話をした帰りに、君とすれ違ったんだ。その時の君がとても可愛くて、誰だろうって思ったら湊の家に入っていくから、あれが妹なんだって。で、また湊の家に行った時に湊のアルバム勝手に見て柚子ちゃんを探した。妹だって証拠が欲しかったから」
真っ赤な顔をした零士はそこまで一気に話すと被っていた帽子を脱ぐ。そして柚子に向き直り言った。
「あの時から君とすれ違うあの時間が、俺にとっては大事で……、何度も理由付けては湊の家行って君に会えないかと思って……、でも君はなかなか家にいなくて。名前もだいぶ後になって知った。それで、そのまま俺は高校卒業して、そのすぐ後にBRのデビューが決まって君に会えなくなった。それがまさかあの日あんな場所で会えるとは思ってなくて……。もう会えなくなるのが嫌で湊にあの日のことを話したんだ」
柚子をじっと見つめる零士を柚子は直視出来なかった。
「あの日、君が湊がいる場所へ行けたのは俺が湊にメッセージ入れて居場所を聞いてたから」
「え……」
そういえば湊が待ってる場所を柚子は言ってなかった。なのに辿り着けたのは零士が湊にメッセージを送っていたからだった。
「もう一度会えたことで、離したくないって思った。抱いた肩を離したくなかった。だから湊に会わせろって。湊のアパートで君と会えるようにしてくれと。君に会ってやっぱり君の隣にいたいった思った。卑怯なやり方だけど、湊のスマホを勝手に見て君にメッセージ送った」
そこから零士は何も発しなかった。柚子の反応をじっと待っている。
「零士さん……。でも、私の……私の、どこが……?」
絞り出すような声を出した柚子。それに対して零士は微かに笑った。
「人を好きになるのに理由はないだろ」
「柚子ちゃんは何が好き?」
「え」
「好きなもの。柚子ちゃんのことが知りたいな」
零士の言動に戸惑う。知りたいなんて言われたらどう反応していいのか分からなくなる。
「あまり深く考え込まないでよ。ただ柚子ちゃんと仲良くなりたいんだよ」
困ったなぁという顔をしてる零士は真っ直ぐ前を向いて運転してる。
「ごめんなさい……。どうしたらいいのか分からなくて」
彼氏いたことない柚子が男の子と出掛けることなどなかった。ましてや、零士は大人の男の人。どうしたらいいのか何を話せばいいのか分からない。
遊びの誘いを了解したのは、兄である湊の友達だから。湊が信頼してる零士は柚子に対して何かしてくるとは思わなかったから。
「こういう風に出掛けるの初めてだったりする?」
「はい」
「今まで誰かと付き合ったことは?」
首を横に振る。
「こんなに可愛いのに」
可愛いと言われた柚子は顔が真っ赤だった。
「男共は見る目ないなぁ」
そんな風に言われるとは思わなかった。柚子は自分のことはごく普通の女の子だと思っている。男の子には恋愛対象にはならない女の子だと。
だけど零士は柚子を可愛いと言ってくれる。
(勘違いしてしまう……)
こんな風に可愛いと言われてしまえば、零士は自分のことを好きなのではと勘ぐってしまう。そんな自分が嫌で考えないようにしていた。
「さ、着いた」
零士が柚子を連れてきたのは都心から遠くもない海沿いの街。とても静かな海がそこには一面に広がっていた。
「キレイ……」
その海を見た柚子はそう呟いていた。
「だろ?子供の頃家族で来たことあるんだよ」
零士の子供の頃の話。出会ってまだ3回。話してくれることは子供の頃の話。高校生の頃の話。余程その頃が楽しかったのか、よく話してくれる。
「柚子ちゃんの家は家族とどこかへ出掛けたりした?」
「あ……。父が温泉好きなんでよく温泉に行ってました」
「温泉かぁ。いいね。今はそんな時間取れないけどなぁ」
今の零士はとても忙しいんだろう。今日のことだってせっかくの休みなのによく遊びに行こうと誘ってくれたなぁと思う。
「お仕事、忙しいんですか?」
隣に立って海を見てる零士にそう聞いてみた。零士は柚子の方を見て「敬語なし」と言う。
「仕事、休みなかなか取れないからいつも無理やり取るんだよねぇー。そうするとマネージャーやメンバーが焦る焦る」
ケタケタと思い出し笑いをする零士。そんな零士を心配そうに見る柚子。それに気付いた零士が「大丈夫だよ」と言う。
「心配することじゃないよ」
零士は煙草を咥えライターで火を付けた。
「息抜きしなきゃいい曲作れないから」
「零士さん……」
「今こうして柚子ちゃんといる時間も大切なんだよ」
笑った顔が眩しい。
眩しくて眩しくて、柚子には手の届かない筈なのに柚子の隣に立ってる。
「あの……、聞きたいことがあるんです」
勇気を出して柚子は零士を見る。
「私を誘ったのはなんで?」
「柚子ちゃんがいいからって言ったでしょ」
「はぐらかさないで……ください。ちゃんと聞いてるんです」
柚子を誘った理由を知りたいと、本人が願った。でも柚子はその答えを聞くのが怖かった。
もしどうでもいい理由だったら。
もし傷付くような理由だったら。
怖いと思いながら自分から聞いたから、ちゃんと答えを知りたいと思った。
そんな真剣な目をした柚子に負けてひとつ息を吐いた零士。よく見ると照れたような表情をしていた。
「柚子ちゃん……。俺と…、付き合わない?」
その言葉に目が大きく開く。
(何を言ったの?)
思考が追い付いていかない。
「俺の彼女にならないか」
もう一度そう言われてはっとする。
なぜそんなことになるのか。私はなんで私を誘ったのか聞いただけよと頭の中が混乱している柚子に、零士は続けて言う。
「初めて会った高校生の頃。会ったというか、すれ違ったというか……。学校帰りに湊の家行ってBRを作る話をした帰りに、君とすれ違ったんだ。その時の君がとても可愛くて、誰だろうって思ったら湊の家に入っていくから、あれが妹なんだって。で、また湊の家に行った時に湊のアルバム勝手に見て柚子ちゃんを探した。妹だって証拠が欲しかったから」
真っ赤な顔をした零士はそこまで一気に話すと被っていた帽子を脱ぐ。そして柚子に向き直り言った。
「あの時から君とすれ違うあの時間が、俺にとっては大事で……、何度も理由付けては湊の家行って君に会えないかと思って……、でも君はなかなか家にいなくて。名前もだいぶ後になって知った。それで、そのまま俺は高校卒業して、そのすぐ後にBRのデビューが決まって君に会えなくなった。それがまさかあの日あんな場所で会えるとは思ってなくて……。もう会えなくなるのが嫌で湊にあの日のことを話したんだ」
柚子をじっと見つめる零士を柚子は直視出来なかった。
「あの日、君が湊がいる場所へ行けたのは俺が湊にメッセージ入れて居場所を聞いてたから」
「え……」
そういえば湊が待ってる場所を柚子は言ってなかった。なのに辿り着けたのは零士が湊にメッセージを送っていたからだった。
「もう一度会えたことで、離したくないって思った。抱いた肩を離したくなかった。だから湊に会わせろって。湊のアパートで君と会えるようにしてくれと。君に会ってやっぱり君の隣にいたいった思った。卑怯なやり方だけど、湊のスマホを勝手に見て君にメッセージ送った」
そこから零士は何も発しなかった。柚子の反応をじっと待っている。
「零士さん……。でも、私の……私の、どこが……?」
絞り出すような声を出した柚子。それに対して零士は微かに笑った。
「人を好きになるのに理由はないだろ」
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