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第1章
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コンコンっ!
部屋で夏休みの課題をしていると、窓ガラスに何か当たる音がした。気にしないで課題をやっているともう一度コンコンと音がした。
振り返ると隣の家の窓から幼馴染みの篠宮煌太が手を振っていた。煌太の家は柚子の家と芽依の家の間だった。煌太の家も柚子たちと同じタイミングで越してきたのだった。
ガラッ……!
窓を開けると外の熱風が入り込んでくる。思わず「うわっ」と言った柚子に煌太は「暑いよな」と言う。
柚子と煌太の部屋は窓を挟んで隣同士。幼い頃から煌太は窓ガラスに小石を当てて柚子の部屋の窓を開けさせる。夏休みになるとよくこうして課題を教えてもらっていた。
「なんか用?」
また課題の答えを教えろと言われるだろうと思いながら煌太を見る。ところが煌太は課題のことではなく別の話だった。
「BRのライブ行ったって?」
「なんで知ってるのよ」
「そりゃ家隣同士だしな」
まあ、そりゃそうだなと柚子は思った。親が井戸端会議で話したのかもしれない。親が話してたのなら柚子がはぐれた話は知らないかもしれない。煌太に知られたらきっとからかわれる。
「BR、カッコ良いだろ」
煌太はニコッと笑った。
「うん……あれ?煌太もしかして……」
「俺、ファンだよ。ずっとね」
「知らなかった」
「今回のライブには行けなかったんだよ。全く、芽依のやつ俺誘ってくれれば良かったのにー」
とても悔しそうに言う煌太は本当にBRが好きなんだろう。
「で、どう?」
「なに」
「BR、好きになったか?」
その言葉に柚子は考えてみる。
(好き……なのかな?)
あの日のことを昨日合ったことのようにドキドキと胸が熱くなる。ライブが終わった後のあの出逢いも、思い出すだけで熱くなる。
「あのバンドは性別関係なく夢中になってしまうと思うぞ。でもそっか。柚子でも好きになったかぁ」
まだ好きだとは言ってないが、煌太はそう言う。今までの柚子が好きになるタイプとは真逆の世界の人たち。ああいうロックな世界は柚子には分からないことだった。それでもあの日を思い出すと熱くなってしまうのはそれだけ魅力があるバンドだということだろう。
「行きたかったなぁ」
シャーペンをくるくる回しながら言う煌太に苦笑いする柚子。
「よし!柚子、これ貸してやるよ」
窓越しに手渡したのはBRのCDだった。
「ちょっと落ちたらどうするのよ……っ!」
窓越しに渡すものだから、柚子は身を乗り出す形になってしまった。
「CD、壊すなよ」
「煌太がこんな風に渡すからでしょ。私も落ちたらどうするのよ」
ぷくっと膨れる柚子をくすっと愛しそうに見る。
「ケガしたら嫁にもらってやる」
「またそんなこと言って」
呆れる柚子。煌太のこのセリフは毎度のことで、柚子は真に受けない。いつも冗談なのか本気なのか分からないことを言ってくるから柚子には煌太の想いは届かないのだ。そう、煌太は柚子のことをずっと想っていた。出会った日からずっと。それに気付いてないのは柚子だけだった。芽依に「残念だね」と言われるくらい柚子は煌太の気持ちに気付かないのだ。
◇◇◇◇◇
その日の夜、柚子のスマホに湊からのメッセージが入っていた。
《明日、うちのアパートに来い》
その命令口調なメッセージに呆れるが、こういう口調の時は断れないことも知ってる。次の日、湊のメッセージ通りに電車に乗って湊のアパートへ向かっていた。
電車に揺られながら外を見てる。湊のアパートへは何度か行ったことはある。だけど迷うだろうなぁと柚子は不安だった。
駅に着くとまず改札への方向がどっちか分からない。何度か来てるはずなのにやっぱり分からなくなる。早く移動しなきゃ人の流れに押し潰さそうになるのに。
(とりあえず、こっちに行くしかないかな)
人の流れとは逆に行く勇気はなかったので流れにそって歩き出した。どうやらそれは正解だったようで改札が見えてきた。改札を通ると今度はどっちが湊のアパートへ行く道なのか分からなくなる。
(どっちだっけ?)
柚子は困ってスマホを取り出した。取り出した所で「柚子!」と声が聞こえた。
「お兄ちゃん!」
車に寄りかかり立っている湊がそこにいた。
「来てくれたの?」
「迷うだろうからな」
ぽんっと頭に手を置く湊は優しい目をしていた。
「なんで、今日呼んだの?」
車に乗った柚子は湊に尋ねる。湊は「会わせたい人がいるんだよ」と言って車を走らせた。
湊のアパートは駅から車で10分程度の場所にある。そこまで古くもなく新しくもない、ごく普通のアパート。そのアパート代を親が出している。だけどその他の生活費は自分でバイトをして出している。そのアパートの2階の奥が湊の部屋だ。
「会わせたいやつはもう来てるから」
そう言う湊の顔は悪戯っ子のようだ。湊の後を追うようにして階段を上がっていく。部屋のドアを開けた湊は先に柚子を中へ入れる。部屋の中はエアコンの冷気でひんやりしていた。
湊の「会わせたいやつ」はリビングのソファで寝ていた。ソファに置いてあったクッションを抱きかかえていて顔が見えない。でもそのシルエットには見覚えがある人だった。
ドカッ!
湊がソファを蹴る。その振動で目が覚めたのかこちらを睨みながら顔を上げる。
「起きろよ。妹連れてきたんだからよ」
柚子はその顔に見覚えがあった。というよりつい最近会った人だった。
「REIJI……」
部屋で夏休みの課題をしていると、窓ガラスに何か当たる音がした。気にしないで課題をやっているともう一度コンコンと音がした。
振り返ると隣の家の窓から幼馴染みの篠宮煌太が手を振っていた。煌太の家は柚子の家と芽依の家の間だった。煌太の家も柚子たちと同じタイミングで越してきたのだった。
ガラッ……!
窓を開けると外の熱風が入り込んでくる。思わず「うわっ」と言った柚子に煌太は「暑いよな」と言う。
柚子と煌太の部屋は窓を挟んで隣同士。幼い頃から煌太は窓ガラスに小石を当てて柚子の部屋の窓を開けさせる。夏休みになるとよくこうして課題を教えてもらっていた。
「なんか用?」
また課題の答えを教えろと言われるだろうと思いながら煌太を見る。ところが煌太は課題のことではなく別の話だった。
「BRのライブ行ったって?」
「なんで知ってるのよ」
「そりゃ家隣同士だしな」
まあ、そりゃそうだなと柚子は思った。親が井戸端会議で話したのかもしれない。親が話してたのなら柚子がはぐれた話は知らないかもしれない。煌太に知られたらきっとからかわれる。
「BR、カッコ良いだろ」
煌太はニコッと笑った。
「うん……あれ?煌太もしかして……」
「俺、ファンだよ。ずっとね」
「知らなかった」
「今回のライブには行けなかったんだよ。全く、芽依のやつ俺誘ってくれれば良かったのにー」
とても悔しそうに言う煌太は本当にBRが好きなんだろう。
「で、どう?」
「なに」
「BR、好きになったか?」
その言葉に柚子は考えてみる。
(好き……なのかな?)
あの日のことを昨日合ったことのようにドキドキと胸が熱くなる。ライブが終わった後のあの出逢いも、思い出すだけで熱くなる。
「あのバンドは性別関係なく夢中になってしまうと思うぞ。でもそっか。柚子でも好きになったかぁ」
まだ好きだとは言ってないが、煌太はそう言う。今までの柚子が好きになるタイプとは真逆の世界の人たち。ああいうロックな世界は柚子には分からないことだった。それでもあの日を思い出すと熱くなってしまうのはそれだけ魅力があるバンドだということだろう。
「行きたかったなぁ」
シャーペンをくるくる回しながら言う煌太に苦笑いする柚子。
「よし!柚子、これ貸してやるよ」
窓越しに手渡したのはBRのCDだった。
「ちょっと落ちたらどうするのよ……っ!」
窓越しに渡すものだから、柚子は身を乗り出す形になってしまった。
「CD、壊すなよ」
「煌太がこんな風に渡すからでしょ。私も落ちたらどうするのよ」
ぷくっと膨れる柚子をくすっと愛しそうに見る。
「ケガしたら嫁にもらってやる」
「またそんなこと言って」
呆れる柚子。煌太のこのセリフは毎度のことで、柚子は真に受けない。いつも冗談なのか本気なのか分からないことを言ってくるから柚子には煌太の想いは届かないのだ。そう、煌太は柚子のことをずっと想っていた。出会った日からずっと。それに気付いてないのは柚子だけだった。芽依に「残念だね」と言われるくらい柚子は煌太の気持ちに気付かないのだ。
◇◇◇◇◇
その日の夜、柚子のスマホに湊からのメッセージが入っていた。
《明日、うちのアパートに来い》
その命令口調なメッセージに呆れるが、こういう口調の時は断れないことも知ってる。次の日、湊のメッセージ通りに電車に乗って湊のアパートへ向かっていた。
電車に揺られながら外を見てる。湊のアパートへは何度か行ったことはある。だけど迷うだろうなぁと柚子は不安だった。
駅に着くとまず改札への方向がどっちか分からない。何度か来てるはずなのにやっぱり分からなくなる。早く移動しなきゃ人の流れに押し潰さそうになるのに。
(とりあえず、こっちに行くしかないかな)
人の流れとは逆に行く勇気はなかったので流れにそって歩き出した。どうやらそれは正解だったようで改札が見えてきた。改札を通ると今度はどっちが湊のアパートへ行く道なのか分からなくなる。
(どっちだっけ?)
柚子は困ってスマホを取り出した。取り出した所で「柚子!」と声が聞こえた。
「お兄ちゃん!」
車に寄りかかり立っている湊がそこにいた。
「来てくれたの?」
「迷うだろうからな」
ぽんっと頭に手を置く湊は優しい目をしていた。
「なんで、今日呼んだの?」
車に乗った柚子は湊に尋ねる。湊は「会わせたい人がいるんだよ」と言って車を走らせた。
湊のアパートは駅から車で10分程度の場所にある。そこまで古くもなく新しくもない、ごく普通のアパート。そのアパート代を親が出している。だけどその他の生活費は自分でバイトをして出している。そのアパートの2階の奥が湊の部屋だ。
「会わせたいやつはもう来てるから」
そう言う湊の顔は悪戯っ子のようだ。湊の後を追うようにして階段を上がっていく。部屋のドアを開けた湊は先に柚子を中へ入れる。部屋の中はエアコンの冷気でひんやりしていた。
湊の「会わせたいやつ」はリビングのソファで寝ていた。ソファに置いてあったクッションを抱きかかえていて顔が見えない。でもそのシルエットには見覚えがある人だった。
ドカッ!
湊がソファを蹴る。その振動で目が覚めたのかこちらを睨みながら顔を上げる。
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柚子はその顔に見覚えがあった。というよりつい最近会った人だった。
「REIJI……」
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