3 / 104
第1章
2
しおりを挟む
会場内は凄い熱気だった。柚子と芽依は1階スタンドの席だった。周りを見て柚子は圧倒される。会場の外でもそうだったが、会場内も凄かった。まだ始まってもないのにこの熱気。みんな、本当にBRが好きなのだろう。
「凄い……」
「始まる前から凄いでしょ」
にこっと笑う芽依はソワソワしていた。柚子も周りの想いを感じてソワソワしていた。初めてのライブだからドキドキもしている。
パッと会場内の明かりが消えた。それと同時にファンたちの歓声が飛び交う。もちろん、隣にいる芽依もメンバーの名前を叫んでいる。普段見ない姿に柚子は驚いていた。柚子はひとり取り残されたような感覚になる。後ろからも隣からも前からもメンバーの名前を叫ぶ人で埋め尽くされていたから。
ジャーンっ!
大音量で何かのフレーズが響いて柚子は驚きと心臓がバクバク波打つような感覚になっていた。
「な、何ッ……!?」
思わず隣にいる芽依にしがみつく。そんな柚子を見て笑う芽依。
「大丈夫だよー。ほら、メンバー出てきた」
指差した方を見るとメンバーのシルエットが浮かび上がってバンッ!と爆発と共に音楽が鳴り出した。メンバーのシルエットがはっきり分かるようになったら会場にいるファンの歓声が一際大きくなった。ドラムの叩きつける振動が届くようだった。ギターとベースの音も届いている。柚子にはギターもベースも区別はつかないんだけども。
そしてボーカルの歌が響く。その歌の上手さに柚子は驚いた。
「あのボーカルがREIJI。カッコイイでしょ。ギター弾いてるのがTAKA。ベースがAKIRA。でも私はあのドラムのSHINが好きなの」
大音響の中、芽依は柚子にそう説明する。でも周りの音と声が煩くて柚子には芽依の声が届いてない。何か言ってるなーと感じてる。そのくらいの大音響なのだ。
(あ……あの人……)
芽依はボーカルに目を奪われていた。ギター片手に歌うボーカル。どこかで見たような気がした。でもすぐに気のせいだと思った。見たことあるのは当たり前じゃないかと。音楽番組によく出てるじゃないと。でも柚子が感じたことは気のせいではなかった。それに気付くのはまだちょっと先のこと……。
柚子はライブの間中、REIJIに釘付けになっていた。目が離せなくなっていたのだ。
(なんでこんなにも胸がドキドキしてるんだろう……)
柚子はロックバンドを好きになるとは自分でも思っていないのでなんでドキドキしているのか不思議でならなかった。胸の奥から熱いものが込み上げてくるようだった。そして自分でも気付かないうちに涙を流していた。
「……っ!……ず!柚子!」
何度か呼ばれてはっとする。
「大丈夫?」
「……うん」
気付いたらライブは終了していて、ファンは胸に熱いものを受け取りながら会場を後にしていた。
「私たちも帰るよ。はぐれないようにしてね」
入場の時よりも帰る時の方が混雑しているように思えた。柚子は必死に芽依の後を追う。必死に追っていたのだが、ドームを出たところで柚子は芽依とはぐれてしまっていた。
「芽依?」
こんな人混みじゃ芽依を探し出せない。電話したってきっと気付かないし、寧ろこんなところでスマホ出したら落としそうだった。柚子は人混みに紛れて歩くしかなかった。
どこを歩いたのか分からなくなっていた柚子は周りを見渡す。人混みが減り、暗い路地を歩いていたのだった。
「え?どこ?」
慌ててスマホを取り出すが、運悪くなのか何なのか。スマホのバッテリーが切れていた。柚子はひとり心細くなりながらとりあえず駅がある方へ向かっていた。
◇◇◇◇◇
タタタッ……!
走ってくる足音が聞こえてきた。暗闇でそんな音が聞こえたら怖くなるだろう。柚子は思わず走り出していた。走っていたらまたどこにいるのか分からなくなってまた途方に暮れていた。
ドンッ!
俯いて歩いていたからか、柚子は誰かにぶつかってしまった。
「あっ!ごめんなさい……」
ぶつかった人に頭を下げてまた歩き出そうとした柚子の腕を咄嗟にその人は捕まえた。
「待って。ひとりでこんなところ歩いて危ないよ」
男の人の声だった。しかもさっきまで聴いていたあの歌声の人。
柚子は顔を上げてその人を見た。フード付きの半袖パーカーにダメージジーンズを履いてサングラスをかけているその人はやっぱりREIJIだった。
「え……」
柚子は何も言えずに固まっていた。さっきまで夢中になって見ていたあの人が目の前にいる。そのことに驚き動けなくなっていたのだ。
「危ないからこっちおいで。というより、俺はちょっと逃げてんの」
「え?」
「ちょっとの間一緒に逃げて」
茶目っ気のある笑顔を柚子に向けて、柚子の肩を抱いて歩き出す。
「名前は?」
「愛川柚子」
「柚子ちゃんね」
にこっと笑ったREIJIは何から逃げているのだろうと柚子は思わずにはいられなかった。
「柚子ちゃん、どこまで行くの?」
「兄が迎えにきてくれるんですけど」
「じゃそこまで送るよ」
そう言ったREIJIは柚子の肩から手を離すことはしない。
「あの……、手……肩……」
「夜は危険なことがいっぱいだからねぇ」
イヤイヤイヤ。あなたのその行動が危険なのでは?と柚子は心の中で思っていた。初対面の女の子にこんな風に近寄って肩抱いて歩く。これってある意味危険。しかもファンだったらどうするのよ!っと柚子は口には出さずに考えていた。
「俺、打ち上げに引っ張られそうになってて。それで逃げてきたんだよねぇ」
柚子にそう話すREIJIは柚子が何かを考えているのを感じ取っていた。「大丈夫だよ」というように優しい声で話していた。
「普通に飲み屋だったら別にいいんだけどさー、スタッフが女の子がいる店予約しちゃってて、俺、そういう店は苦手なんだよねぇー」
女の子がいる店とはどういう店なのか、奥手な柚子でも分かってしまった。何も答えられずにREIJIに肩を抱かれ夜の街を歩く。普通に歩いているけど、気付かないのか心配になっていた。
「あ、あれじゃない?」
来た時と同じコンビニの駐車場で、兄の車が停まっていてその車に凭れながらスマホを耳に当ててる兄と芽依。芽依に至っては物凄く心配そうな顔をしていた。
「じゃまた」
REIJIはパッと肩から手を離すと夜の街に消えていった。その後ろ姿を柚子は見送った。
「凄い……」
「始まる前から凄いでしょ」
にこっと笑う芽依はソワソワしていた。柚子も周りの想いを感じてソワソワしていた。初めてのライブだからドキドキもしている。
パッと会場内の明かりが消えた。それと同時にファンたちの歓声が飛び交う。もちろん、隣にいる芽依もメンバーの名前を叫んでいる。普段見ない姿に柚子は驚いていた。柚子はひとり取り残されたような感覚になる。後ろからも隣からも前からもメンバーの名前を叫ぶ人で埋め尽くされていたから。
ジャーンっ!
大音量で何かのフレーズが響いて柚子は驚きと心臓がバクバク波打つような感覚になっていた。
「な、何ッ……!?」
思わず隣にいる芽依にしがみつく。そんな柚子を見て笑う芽依。
「大丈夫だよー。ほら、メンバー出てきた」
指差した方を見るとメンバーのシルエットが浮かび上がってバンッ!と爆発と共に音楽が鳴り出した。メンバーのシルエットがはっきり分かるようになったら会場にいるファンの歓声が一際大きくなった。ドラムの叩きつける振動が届くようだった。ギターとベースの音も届いている。柚子にはギターもベースも区別はつかないんだけども。
そしてボーカルの歌が響く。その歌の上手さに柚子は驚いた。
「あのボーカルがREIJI。カッコイイでしょ。ギター弾いてるのがTAKA。ベースがAKIRA。でも私はあのドラムのSHINが好きなの」
大音響の中、芽依は柚子にそう説明する。でも周りの音と声が煩くて柚子には芽依の声が届いてない。何か言ってるなーと感じてる。そのくらいの大音響なのだ。
(あ……あの人……)
芽依はボーカルに目を奪われていた。ギター片手に歌うボーカル。どこかで見たような気がした。でもすぐに気のせいだと思った。見たことあるのは当たり前じゃないかと。音楽番組によく出てるじゃないと。でも柚子が感じたことは気のせいではなかった。それに気付くのはまだちょっと先のこと……。
柚子はライブの間中、REIJIに釘付けになっていた。目が離せなくなっていたのだ。
(なんでこんなにも胸がドキドキしてるんだろう……)
柚子はロックバンドを好きになるとは自分でも思っていないのでなんでドキドキしているのか不思議でならなかった。胸の奥から熱いものが込み上げてくるようだった。そして自分でも気付かないうちに涙を流していた。
「……っ!……ず!柚子!」
何度か呼ばれてはっとする。
「大丈夫?」
「……うん」
気付いたらライブは終了していて、ファンは胸に熱いものを受け取りながら会場を後にしていた。
「私たちも帰るよ。はぐれないようにしてね」
入場の時よりも帰る時の方が混雑しているように思えた。柚子は必死に芽依の後を追う。必死に追っていたのだが、ドームを出たところで柚子は芽依とはぐれてしまっていた。
「芽依?」
こんな人混みじゃ芽依を探し出せない。電話したってきっと気付かないし、寧ろこんなところでスマホ出したら落としそうだった。柚子は人混みに紛れて歩くしかなかった。
どこを歩いたのか分からなくなっていた柚子は周りを見渡す。人混みが減り、暗い路地を歩いていたのだった。
「え?どこ?」
慌ててスマホを取り出すが、運悪くなのか何なのか。スマホのバッテリーが切れていた。柚子はひとり心細くなりながらとりあえず駅がある方へ向かっていた。
◇◇◇◇◇
タタタッ……!
走ってくる足音が聞こえてきた。暗闇でそんな音が聞こえたら怖くなるだろう。柚子は思わず走り出していた。走っていたらまたどこにいるのか分からなくなってまた途方に暮れていた。
ドンッ!
俯いて歩いていたからか、柚子は誰かにぶつかってしまった。
「あっ!ごめんなさい……」
ぶつかった人に頭を下げてまた歩き出そうとした柚子の腕を咄嗟にその人は捕まえた。
「待って。ひとりでこんなところ歩いて危ないよ」
男の人の声だった。しかもさっきまで聴いていたあの歌声の人。
柚子は顔を上げてその人を見た。フード付きの半袖パーカーにダメージジーンズを履いてサングラスをかけているその人はやっぱりREIJIだった。
「え……」
柚子は何も言えずに固まっていた。さっきまで夢中になって見ていたあの人が目の前にいる。そのことに驚き動けなくなっていたのだ。
「危ないからこっちおいで。というより、俺はちょっと逃げてんの」
「え?」
「ちょっとの間一緒に逃げて」
茶目っ気のある笑顔を柚子に向けて、柚子の肩を抱いて歩き出す。
「名前は?」
「愛川柚子」
「柚子ちゃんね」
にこっと笑ったREIJIは何から逃げているのだろうと柚子は思わずにはいられなかった。
「柚子ちゃん、どこまで行くの?」
「兄が迎えにきてくれるんですけど」
「じゃそこまで送るよ」
そう言ったREIJIは柚子の肩から手を離すことはしない。
「あの……、手……肩……」
「夜は危険なことがいっぱいだからねぇ」
イヤイヤイヤ。あなたのその行動が危険なのでは?と柚子は心の中で思っていた。初対面の女の子にこんな風に近寄って肩抱いて歩く。これってある意味危険。しかもファンだったらどうするのよ!っと柚子は口には出さずに考えていた。
「俺、打ち上げに引っ張られそうになってて。それで逃げてきたんだよねぇ」
柚子にそう話すREIJIは柚子が何かを考えているのを感じ取っていた。「大丈夫だよ」というように優しい声で話していた。
「普通に飲み屋だったら別にいいんだけどさー、スタッフが女の子がいる店予約しちゃってて、俺、そういう店は苦手なんだよねぇー」
女の子がいる店とはどういう店なのか、奥手な柚子でも分かってしまった。何も答えられずにREIJIに肩を抱かれ夜の街を歩く。普通に歩いているけど、気付かないのか心配になっていた。
「あ、あれじゃない?」
来た時と同じコンビニの駐車場で、兄の車が停まっていてその車に凭れながらスマホを耳に当ててる兄と芽依。芽依に至っては物凄く心配そうな顔をしていた。
「じゃまた」
REIJIはパッと肩から手を離すと夜の街に消えていった。その後ろ姿を柚子は見送った。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
先生、生徒に手を出した上にそんな淫らな姿を晒すなんて失格ですよ
ヘロディア
恋愛
早朝の教室に、艶やかな喘ぎ声がかすかに響く。
それは男子学生である主人公、光と若手美人女性教師のあってはならない関係が起こすものだった。
しかしある日、主人公の数少ない友達である一野はその真実に気づくことになる…
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている
ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。
夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。
そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。
主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる