22 / 25
秋晴れの日に
10 幸せになりたいだけ
しおりを挟む
目の前にいる彼女が、会議室の床に座り込んで泣いている。ギュッと手を握りしめて泣いている。
そんな彼女が哀れに思えてしまった。
「……ただ、幸せになりたいだけなのに……」
絞り出した声は、掠れていく。そんな彼女をただ見守ることしか出来なかった。
彼女のことなんか、何も知らない。だけど目の前にいる彼女は、小さな子供のようだった。
「誰だってそうよ」
私は彼女に言った。
そう。誰だって幸せになりたい。だけど、彼女の幸せの掴み方は間違っている。
「だけどあなたは間違ってる」
私はそう言うと、彼女を目一杯、見下した。
私は誰かを見下すなんてことは、出来ない。今だって彼女より自分が優位に立ってるなんて、決して思わないもの。
だけど今の彼女は……、今のままじゃ、彼女は決して幸せなんか掴み取れない。
「相手のことを思いやれない人は、幸せになんてなれないわよ」
床にへたり込んでる彼女の後頭部を見て、私は続ける。
「私は彼の幸せの為に、彼と別れたの」
そう。それが彼に取っていいことだと、思った。子供が出来たことに、彼は悩んでいた。だから私はそれを受け入れた。
そうすることが、彼の幸せだと思っていたから。
でも、違ったみたい。
彼女を見てると、それは間違った判断だったのかもしれない。
彼女を置いて、会議室を出る。そこには彼が立っていた。彼は黙って私を見ていた。
(なぜ、ここにいるの?)
その言葉は飲み込んだ。それは言わなくても分かってる。
同期が彼に話したのだろう。私が彼女のところへ行ったと。それを聞いて追いかけてきたのだろう。
「外回り、行かなくていいの?」
彼にそう言った。そろそろ外回りに行かなくてはいけない時間だった。部署の予定にはそう書いてあったのだ。
「大丈夫だ」
そう言う彼は、何か言いたげにこっちを見る。だが彼からは、言葉が出てこない。
「早く、外回り行きなよ」
私は彼にそう言った。私から離れて、エレベーターの方へ向かって行く彼の後ろ姿は、なんだか寂しげに頼りない感じに見えた。
あんなに頼もしかった彼が、今じゃ情けない人に見えてくる。自分の意思がはっきりしていて、誰もが頼りにしたくなる。
優しいし、紳士的だし。
女性から見たら、可愛らしいところもある。
何より仕事は出来る。だからこそ、彼と結婚したら、幸せになれると思ったの。
それも夢で終わった。
私はもう、彼への気持ちはない……。
そんな彼女が哀れに思えてしまった。
「……ただ、幸せになりたいだけなのに……」
絞り出した声は、掠れていく。そんな彼女をただ見守ることしか出来なかった。
彼女のことなんか、何も知らない。だけど目の前にいる彼女は、小さな子供のようだった。
「誰だってそうよ」
私は彼女に言った。
そう。誰だって幸せになりたい。だけど、彼女の幸せの掴み方は間違っている。
「だけどあなたは間違ってる」
私はそう言うと、彼女を目一杯、見下した。
私は誰かを見下すなんてことは、出来ない。今だって彼女より自分が優位に立ってるなんて、決して思わないもの。
だけど今の彼女は……、今のままじゃ、彼女は決して幸せなんか掴み取れない。
「相手のことを思いやれない人は、幸せになんてなれないわよ」
床にへたり込んでる彼女の後頭部を見て、私は続ける。
「私は彼の幸せの為に、彼と別れたの」
そう。それが彼に取っていいことだと、思った。子供が出来たことに、彼は悩んでいた。だから私はそれを受け入れた。
そうすることが、彼の幸せだと思っていたから。
でも、違ったみたい。
彼女を見てると、それは間違った判断だったのかもしれない。
彼女を置いて、会議室を出る。そこには彼が立っていた。彼は黙って私を見ていた。
(なぜ、ここにいるの?)
その言葉は飲み込んだ。それは言わなくても分かってる。
同期が彼に話したのだろう。私が彼女のところへ行ったと。それを聞いて追いかけてきたのだろう。
「外回り、行かなくていいの?」
彼にそう言った。そろそろ外回りに行かなくてはいけない時間だった。部署の予定にはそう書いてあったのだ。
「大丈夫だ」
そう言う彼は、何か言いたげにこっちを見る。だが彼からは、言葉が出てこない。
「早く、外回り行きなよ」
私は彼にそう言った。私から離れて、エレベーターの方へ向かって行く彼の後ろ姿は、なんだか寂しげに頼りない感じに見えた。
あんなに頼もしかった彼が、今じゃ情けない人に見えてくる。自分の意思がはっきりしていて、誰もが頼りにしたくなる。
優しいし、紳士的だし。
女性から見たら、可愛らしいところもある。
何より仕事は出来る。だからこそ、彼と結婚したら、幸せになれると思ったの。
それも夢で終わった。
私はもう、彼への気持ちはない……。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる