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秋晴れの日に
9 あたしの真実
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「どういうことか、説明してくれるかしら?」
目の前にいる彼女があたしを睨むように見ている。背の高い、モデル体型。キレイな指先。艶のある黒髪。
すべてがあたしの欲しいものだった。
あたしは彼女の手を掴んで、使われていない会議室へと引っ張って行った。
あたしは総務部。会議室が使われているか否かは、把握している。とにかく、私のいる部署では話は出来ない。
パタン…と、会議室のドアを閉める。彼女はあたしをまた睨んでいた。
「妊娠、してないわね?」
あたしを睨む彼女の言葉にトゲがあった。この人は、優秀なだけにあたしのような可愛らしい女の子は下に見てるんだ。
「妊娠してたら走ったり、お酒飲んだり出来ないわよね」
あたしは何も答えられないでいた。
この前は、あたしが優位に立って話をしていた。だけど彼女にバレてしまったからには、あたしの立場は弱くなっている。
「答えなさいよ」
逆上するわけでもない静かな声が、あたしを責め立てる。あたしは彼女をじっと見た。負けないように。
「それがどうしたの。あなたには関係ないじゃないの」
目一杯、こっちが勝ってるんだぞという態度を取る。だけど彼女には見透かされているのか、汚いものでも見るかのようにあたしを見る。
「確かにもう彼とは別れてるから、関係はないのかもしれない。それでも彼が傷付くのは許せないの」
あたしから目を離さない彼女は、とても強い女性なのかもしれない。
「……妊娠は、ほんとだよ」
漸く絞り出した声は掠れていた。
◇◇◇◇◇
「──え……」
妊娠が分かったのは3ヶ月前。そう。彼と関係を持つ前だった。
子供の父親に話すべきか迷った。だって言えばあたしはきっと解雇される。あたしの方が立場は弱い。訴えてもこっちが訴えられる。特にこの子の父親の奥さんにバレたらきっと……。
あたしはその人を好きではない。成り行きで関係をもってしまっただけ。しかもその人はこの会社の重役。この話が広まってしまったら、あたしはヤバイの。
それを分かっていても、あたしはその人に会いに行く。
高級ホテルの一室。いつもここであたしはあの人に会う。
会いたいわけではない。会わなければいけない理由もない。だけど、あたしは会いに行く。
それが義務のように……。
「入れ」
ホテルのドアの前に立つ、その人があたしを見下ろす。その視線が痛かった。
部屋に入ると既にルームサービスが来ていたようで、テーブルに料理が並べられていた。そしてワインも。
あたしはワインは苦手。特に赤ワインは飲めない。それを知ってるこの人は、ワザと赤ワインを注文する。そしてその赤ワインをあたしに飲ませるのだ。
赤ワインを飲んだあたしは、記憶がなくなる。記憶がなくなったあたしは、ベッドの上で乱れるらしい。
いつも気付いたらベッドで、この人とセックスをしていた。
この日もそうだった。
あたしは乱れて自分から、この人を求めていた。
(だから赤ワインは嫌なの……)
頭の中ではそう思っていても、この人はあたしに赤ワインを飲ませる。飲ませてからあたしとセックスする。
あたしはあたしじゃなくなり、自らこの人を求めるのだ。いつものあたしじゃないあたしが、ベッドの上で叫ぶ。
こうなった時にはもう遅いの。あたしはただこの人にしがみついて、快感に溺れていく。
「──は?」
行為が終わり、酔いが覚めないあたしはポツリと妊娠したことを告げた。だけどこの人は「は?」と言っただけだった。
あぁ、この人は責任なんて感じないんだ。赤ちゃんがここにいるのに……。
あたしは悲しくなった。
別に結婚して欲しいなんて思わない。好きでもないから。
だけど赤ちゃんの父親だから、なにか言ってくれるのではないかと期待してた。それも無残な結果になるのだけど。
「金はやる」
この人はそう言って、財布から札束を出した。
この人はクレジットカードも持ってるが、あたしと過ごす時はいつも現金で支払いをする。それは奥さんにどこで何を使ったのかバレないようにだ。レシート等も受けとることはしないから、奥さんに責められても証拠はないと突っぱねてるらしい。
「この金で処分してこい」
子供を処分してこいと告げるこの人が、悪魔に見えた。
そしてあたしはこの後に彼と関係を持った。彼にこの子の父親になってもらおうとしたのだ。
だけど、バチが当たったのかな。赤ちゃんはいなくなった。
◇◇◇◇◇
彼女はあたしをじっと見ていた。何も話さないあたしにイライラし出す。
「彼はあなたと結婚する意思はないみたいね」
確かにそうだ。どんなに迫っても彼は逃げていくだけ。あたしの話を聞いてもくれない。
「あなた、他に男がいるんじゃないの?」
そう言われてドキッとしてしまった。彼と関係を持った後も、あの人からは誘いのメールが届く。それが届くと行かなければいけないと思ってしまう。妊娠してると告げてもあたしに赤ワインを飲ませ、あたしを激しく抱く。
あの人にとってはあたしはストレスの捌け口。それに気付いていても、あたしは行ってしまう。
苦しくなり、あたしはその場に座り込んでしまった。
あたしはただ、幸せになりたいだけなのに……。
目の前にいる彼女があたしを睨むように見ている。背の高い、モデル体型。キレイな指先。艶のある黒髪。
すべてがあたしの欲しいものだった。
あたしは彼女の手を掴んで、使われていない会議室へと引っ張って行った。
あたしは総務部。会議室が使われているか否かは、把握している。とにかく、私のいる部署では話は出来ない。
パタン…と、会議室のドアを閉める。彼女はあたしをまた睨んでいた。
「妊娠、してないわね?」
あたしを睨む彼女の言葉にトゲがあった。この人は、優秀なだけにあたしのような可愛らしい女の子は下に見てるんだ。
「妊娠してたら走ったり、お酒飲んだり出来ないわよね」
あたしは何も答えられないでいた。
この前は、あたしが優位に立って話をしていた。だけど彼女にバレてしまったからには、あたしの立場は弱くなっている。
「答えなさいよ」
逆上するわけでもない静かな声が、あたしを責め立てる。あたしは彼女をじっと見た。負けないように。
「それがどうしたの。あなたには関係ないじゃないの」
目一杯、こっちが勝ってるんだぞという態度を取る。だけど彼女には見透かされているのか、汚いものでも見るかのようにあたしを見る。
「確かにもう彼とは別れてるから、関係はないのかもしれない。それでも彼が傷付くのは許せないの」
あたしから目を離さない彼女は、とても強い女性なのかもしれない。
「……妊娠は、ほんとだよ」
漸く絞り出した声は掠れていた。
◇◇◇◇◇
「──え……」
妊娠が分かったのは3ヶ月前。そう。彼と関係を持つ前だった。
子供の父親に話すべきか迷った。だって言えばあたしはきっと解雇される。あたしの方が立場は弱い。訴えてもこっちが訴えられる。特にこの子の父親の奥さんにバレたらきっと……。
あたしはその人を好きではない。成り行きで関係をもってしまっただけ。しかもその人はこの会社の重役。この話が広まってしまったら、あたしはヤバイの。
それを分かっていても、あたしはその人に会いに行く。
高級ホテルの一室。いつもここであたしはあの人に会う。
会いたいわけではない。会わなければいけない理由もない。だけど、あたしは会いに行く。
それが義務のように……。
「入れ」
ホテルのドアの前に立つ、その人があたしを見下ろす。その視線が痛かった。
部屋に入ると既にルームサービスが来ていたようで、テーブルに料理が並べられていた。そしてワインも。
あたしはワインは苦手。特に赤ワインは飲めない。それを知ってるこの人は、ワザと赤ワインを注文する。そしてその赤ワインをあたしに飲ませるのだ。
赤ワインを飲んだあたしは、記憶がなくなる。記憶がなくなったあたしは、ベッドの上で乱れるらしい。
いつも気付いたらベッドで、この人とセックスをしていた。
この日もそうだった。
あたしは乱れて自分から、この人を求めていた。
(だから赤ワインは嫌なの……)
頭の中ではそう思っていても、この人はあたしに赤ワインを飲ませる。飲ませてからあたしとセックスする。
あたしはあたしじゃなくなり、自らこの人を求めるのだ。いつものあたしじゃないあたしが、ベッドの上で叫ぶ。
こうなった時にはもう遅いの。あたしはただこの人にしがみついて、快感に溺れていく。
「──は?」
行為が終わり、酔いが覚めないあたしはポツリと妊娠したことを告げた。だけどこの人は「は?」と言っただけだった。
あぁ、この人は責任なんて感じないんだ。赤ちゃんがここにいるのに……。
あたしは悲しくなった。
別に結婚して欲しいなんて思わない。好きでもないから。
だけど赤ちゃんの父親だから、なにか言ってくれるのではないかと期待してた。それも無残な結果になるのだけど。
「金はやる」
この人はそう言って、財布から札束を出した。
この人はクレジットカードも持ってるが、あたしと過ごす時はいつも現金で支払いをする。それは奥さんにどこで何を使ったのかバレないようにだ。レシート等も受けとることはしないから、奥さんに責められても証拠はないと突っぱねてるらしい。
「この金で処分してこい」
子供を処分してこいと告げるこの人が、悪魔に見えた。
そしてあたしはこの後に彼と関係を持った。彼にこの子の父親になってもらおうとしたのだ。
だけど、バチが当たったのかな。赤ちゃんはいなくなった。
◇◇◇◇◇
彼女はあたしをじっと見ていた。何も話さないあたしにイライラし出す。
「彼はあなたと結婚する意思はないみたいね」
確かにそうだ。どんなに迫っても彼は逃げていくだけ。あたしの話を聞いてもくれない。
「あなた、他に男がいるんじゃないの?」
そう言われてドキッとしてしまった。彼と関係を持った後も、あの人からは誘いのメールが届く。それが届くと行かなければいけないと思ってしまう。妊娠してると告げてもあたしに赤ワインを飲ませ、あたしを激しく抱く。
あの人にとってはあたしはストレスの捌け口。それに気付いていても、あたしは行ってしまう。
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