短編集 【雨降る日に……】

星河琉嘩

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雨降る日に……

9 彼女の想い

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『ただ、声が聞きたかった……』
 窓に雨音が響く中、スマホの向こうから聞こえる彼の声。雨の音が煩くて聞き取れない。そのせいか、何度も名前を呼ばれた。
「……何度も呼ばれると恥ずかしい」
 思わず出た言葉。男の人に名前を何度も呼ばれた経験なんてない。恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じている。本当に人って顔が赤くなったりするんだな。

(恥ずかしい……)
 でもその恥ずかしさはなんとなく心地いい。そんな感覚を覚えた。
「あの…、聞いてもいい……?」
 私は気になっていた。幼馴染みの女の子の事。ちゃんと決着をつけると言った彼。どうなったのか気になっていた。でもそれを聞いてもいいのか分からない。そもそもその幼馴染みとは元々恋愛関係にあったのかとか、どんな距離感でいたのかとか、可愛い子なのかなとか、色んな聞きたいけど聞けないことが山程ある。この前会社の屋上で告白されて舞い上がって。でも私が思いきってデートに誘った時、約束の時間になっても来なかったよねと思ったり。ま、それはその幼馴染みのせいだったようで……。

(その幼馴染みは彼を好き……なんだよね)
 頭の中が混乱中。どう自分の言いたいこと、聞きたいことを言葉に出来るのかな。
『幼馴染みのこと?』
電話の向こうで彼はそう聞いてくる。
「……聞いていいの?」
『知りたいなら話すよ』
 彼はそう言って話してくれた。幼馴染みと過ごした学生時代のことから大人になって社会人になってからの事。私の知らない彼の話。
 
 バラバラバラバラ……っ!
 気付いたら雨が窓に叩き付けるように強くなっていた。そして遠くで雷が鳴り出していた。
「雷……」
 スマホを握りしめて呟いた私に彼は「雷苦手?」と聞いてきた。
「苦手……あの音と稲妻が怖い」
『女の子だなぁ』
 スマホの向こうで優しい声を出す。
『大丈夫だよ、雷がやむまで話してよ』
「うん……」
 私が怖がってるのをからかうことなく、優しい声でどうでもいい話をしていた。何を話したの?と聞かれると本当にどうでもいい話で、特に重要なことでもなく、ただ彼が好きな動物とか、子供の頃に好きだったアイドルとか、昨日の上司のカツラが少しズレてたの知ってる?とか。本当にどうでもいい話。
 気付いたら雷はやんでいて、時計を見たら深夜の1時は過ぎていた。

「ねぇ……?」
 スマホの向こうに話しかける。
「あの言葉、信じていいの?」
 会社の屋上で言ってくれたあの言葉。その言葉がとても嬉しくて信じられなくて。
『俺のこと、信じて』
 その言葉に涙が溢れた。



「好き……」
 溢れ出る思いは言葉となって、電波を使って届けた。その返答に彼の優しい声が返ってくる。
『俺も好きだ』
 耳元で届いたその言葉がくすぐったくて顔が真っ赤になるくらい。
 好きという想いが溢れて会いたくなってる。会って顔を見て話したい。早く、彼に会いたい。
『早く朝にならないかな』
 彼の言葉に彼も私と同じ思いをしてくれてると感じる。それがとても嬉しい。


「会いたい……」
 ただそれだけ。会って話したい。
 それだけなの……。
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