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雨降る日に……
8 彼と先生の思い
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アイツにもう連絡してくるなと言った後、やっぱり心配になっている自分がいた。アイツのこれからのこと。アイツには友達といえる友人が少ない。幼い頃から傍にいたから知ってる。だから俺がいなくなった後のアイツのことが心配だった。
(頼めるのはやっぱりあの人しかいないか)
何年かぶりに俺はあの人に電話をかけた。高校時代、いろんな問題を抱えていた頃、なにかあったら電話してこいと俺に携帯の番号を教えてくれた。そしてそれは俺だけじゃなかった。アイツにも教えていたし、他の生徒にも教えていた。
『はい』
久しぶりに聞く先生の声に俺はどう話していいのか困ってしまった。
『久しぶりだな。お前、ほんとに連絡してこないからなぁ』
電話越しでもあの爽やかな笑顔しているのが分かる。もうそんなに若くはないだろうけど、それなりに年を取ったおじさんになっているだろうけど、やっぱりあの頃と変わらないだろう。
「先生、アイツから色々と話は聞いてるだろ?」
この先生は俺とアイツの高校時代のことをよく知ってる。どんなことがあったのか、どんな関係だったのか、どんな距離感だったのか。
『聞いてるよ。お前、あの子にもう連絡してくるなって言ったんだって?』
「はい」
『そっか。まぁ、そうなるわな』
「先生、俺……今、好きな子がいて。会社の同僚なんですが、その子とちゃんと付き合いたいんです。だからアイツに邪魔されたくなくて……。でもやっぱり幼馴染みだし、実家は近いし。心配になることがあるんですよ。友達いないし。せめて、友達がいればいいんですけどね」
そうなんだ。友達すらいないアイツがこれからどう生きていくのか。幼い時から一緒だったから心配でならない。
『大丈夫だよ。お前が思ってる程、あの子は弱くないよ』
そう言う先生の顔が目の前にあるような気がした。きっと優しい目をして笑ってるだろう。この先生は本当に優しい先生だ。
『あの子のことは気にしなくていい。お前はお前の幸せの為に進め。後は先生に任せろ。あの子が進むべき道を一緒に探してあげるから』
俺が言って欲しいことを言ってくれた。先生はいつもそうだ。次行くべきところを示してくれる。だから卒業してもこの人は俺の……俺たちの先生なんだ。
「ありがとう、先生」
そう言うと電話を切った。
「ふぅ……」
大きく息を吐くと、彼女の声が聞きたくなっている自分に気付く。スマホの連絡帳から彼女の番号を探し出す。彼女の名前がそこにあることが嬉しい。その名前を見ることが。そしてこれからは特別な思いで呼べることが……。
「もしもし?」
スマホを耳に当てて電話の向こうの彼女に語り出す。これからはずっと一緒にいられるように何度も呼び掛けた。
ポツポツ……。
窓に当たる雨音。いつの間にか雨が降っていた。雨の音に彼女の声がかき消されないように祈りながら彼女の名前をもう一度呼んだ。
『……何度も呼ばれると恥ずかしいわ』
照れた声がスマホ越しに聞こえた。それがとても心地よかった。
(頼めるのはやっぱりあの人しかいないか)
何年かぶりに俺はあの人に電話をかけた。高校時代、いろんな問題を抱えていた頃、なにかあったら電話してこいと俺に携帯の番号を教えてくれた。そしてそれは俺だけじゃなかった。アイツにも教えていたし、他の生徒にも教えていた。
『はい』
久しぶりに聞く先生の声に俺はどう話していいのか困ってしまった。
『久しぶりだな。お前、ほんとに連絡してこないからなぁ』
電話越しでもあの爽やかな笑顔しているのが分かる。もうそんなに若くはないだろうけど、それなりに年を取ったおじさんになっているだろうけど、やっぱりあの頃と変わらないだろう。
「先生、アイツから色々と話は聞いてるだろ?」
この先生は俺とアイツの高校時代のことをよく知ってる。どんなことがあったのか、どんな関係だったのか、どんな距離感だったのか。
『聞いてるよ。お前、あの子にもう連絡してくるなって言ったんだって?』
「はい」
『そっか。まぁ、そうなるわな』
「先生、俺……今、好きな子がいて。会社の同僚なんですが、その子とちゃんと付き合いたいんです。だからアイツに邪魔されたくなくて……。でもやっぱり幼馴染みだし、実家は近いし。心配になることがあるんですよ。友達いないし。せめて、友達がいればいいんですけどね」
そうなんだ。友達すらいないアイツがこれからどう生きていくのか。幼い時から一緒だったから心配でならない。
『大丈夫だよ。お前が思ってる程、あの子は弱くないよ』
そう言う先生の顔が目の前にあるような気がした。きっと優しい目をして笑ってるだろう。この先生は本当に優しい先生だ。
『あの子のことは気にしなくていい。お前はお前の幸せの為に進め。後は先生に任せろ。あの子が進むべき道を一緒に探してあげるから』
俺が言って欲しいことを言ってくれた。先生はいつもそうだ。次行くべきところを示してくれる。だから卒業してもこの人は俺の……俺たちの先生なんだ。
「ありがとう、先生」
そう言うと電話を切った。
「ふぅ……」
大きく息を吐くと、彼女の声が聞きたくなっている自分に気付く。スマホの連絡帳から彼女の番号を探し出す。彼女の名前がそこにあることが嬉しい。その名前を見ることが。そしてこれからは特別な思いで呼べることが……。
「もしもし?」
スマホを耳に当てて電話の向こうの彼女に語り出す。これからはずっと一緒にいられるように何度も呼び掛けた。
ポツポツ……。
窓に当たる雨音。いつの間にか雨が降っていた。雨の音に彼女の声がかき消されないように祈りながら彼女の名前をもう一度呼んだ。
『……何度も呼ばれると恥ずかしいわ』
照れた声がスマホ越しに聞こえた。それがとても心地よかった。
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