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雨降る日に……
4 先生の場合
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俺に困った教え子がいる。
高校の三年間。教え子は幼馴染みに対して必要以上にちょっかいをかけていた。こうやって聞くと男子生徒が女子生徒にやってるように聞こえるが、逆だ。女子生徒が男子生徒にやっているのだ。
女子生徒が男子生徒に惚れてるのは一目瞭然だった。その事に気付かないやつはいないんじゃないかってくらい分かりやすい。
だが、当の本人たちはそうじゃない。女子生徒は必死に隠してる。隠せてると思ってる。男子生徒はその女子生徒が自分に惚れてるなんて思ってもいない。
だから男子生徒は他に彼女を作る。それが面白くない女子生徒は男子生徒と彼女の中を拗れさせて別れさせてしまう。それが、高校の三年間続いた。
そして、その元女子生徒が成人しても続いていた。
「またやったのか」
喫茶店の目の前に座ってる教え子は「はい……」と項垂れていた。この教え子は怖がってるだけだ。彼がいなくなることを。でもそれは生きていく上で仕方のないことだ。出会いがあれば別れもある。別れがあれば出会いもある。別れを経験した分だけ、人間は成長していける。それに気付くのはいつだろうか。
「先生……、私どうしよう」
アイスティーのグラスを持ったまま呟く。それは私への問いのような、自分への問いのような呟きだった。
「本当は分かっているんだろう?」
この教え子は頭がいい。それに気付かないわけがない。高校を卒業してもう7年。いろんな経験をしてきてる筈だ。その事に気付かない教え子ではない。それでも私に助けを求めてしまうこの教え子は、答えが欲しいわけではない。後押しをして欲しいのだ。
「本当はどうすればいいのか分かってるんだろう?」
俺はその言葉を残して喫茶店を出た。
喫茶店を出ても帰る気にはなれない。窓際に座る教え子の様子を伺っていた。教え子は店内にあった本棚から本を持ち出しそれを読み始めていた。教え子が本を読むのは初めて見る。高校時代も本を読んでるところは見たことない。教科書ですら読みたがらなかった。
(あの子なら自分で答えを見つけられる)
俺は教え子の成長を祈ってそのまま帰路についた。
後日、あの喫茶店の前を通るとあの店主が店の外を箒で掃いてるところに出くわした。
(暑いし、喉も渇いた)
俺は喫茶店に入ることにした。
「いらっしゃいませ」
箒を片手に店主は笑い、その箒を立て掛けててんないへと入る。
「お好きな席へどうぞ」
促されて座ったのはこの前教え子と座った席ではなく、店内にある本棚の近く。昔から本が好きだった俺は常に本に囲まれてる生活をしてきた。だからこそ、現代文の教師をしているのだ。
「すみません」
店主に声をかけると、お冷やを持った店主がにっこりと笑う。
「はい」
「本を読んでもいいですか?」
本棚の本を指す。「どうぞ。ごゆっくり」そう言う店主の笑顔は優しさで溢れていた。そして俺はこの前と同じアイスコーヒーを注文した。
本棚に目をやると有名な作家の名前やそこそこな名前、マイナーな名前が並び、ジャンルもさまざまだった。その中の一冊に目が止まる。
(聞いたことない名前だ)
作家名も知らない。新人作家か?だとしたらここの店主は本当に色んな作家の本を読むのかもしれない。
「雨降る日に……」
タイトルもシンプルにまとめられてる。それ程なにか惹き付けられるタイトルではないが、気になってしまった。
「それ、私の本なんです」
少し照れながら話してくれた。子供の頃から作家になるのが夢で、自主製作したのだと。
俺はその本を手に席に座る。店主が書く文はどんなものなんだろう。あの笑顔のような優しい物語なのだろうか。
少しわくわくしながらページを捲る。物語は抽象的な表現で進められていた。主人公の名前すら書かれていない。それでも本の中の時間はそれでいい。名前なんて単なる呼び名。読んでるこっちが主人公になればいい。ゆっくりと本の中は進んでいく。優しさに包まれながら進んでいく。
コトン。
テーブルにアイスコーヒーが置かれ、そっと店主はテーブルを離れていく。読んでる人の邪魔にならないように声をかけることもしなかった。
(なるほど。この本は店主のような本だな)
店主がどんな人物なのか分からないのに、店主の人柄がこの本から伝わってきていた。
パタンっ。
本を閉じた時には2時間は過ぎていた。周りの音は聞こえなかった。集中して本を読んだのは久しぶりだった。
「ありがとう。いい時間を過ごせたよ」
店主に礼を言ってお金払い店を後にした。
高校の三年間。教え子は幼馴染みに対して必要以上にちょっかいをかけていた。こうやって聞くと男子生徒が女子生徒にやってるように聞こえるが、逆だ。女子生徒が男子生徒にやっているのだ。
女子生徒が男子生徒に惚れてるのは一目瞭然だった。その事に気付かないやつはいないんじゃないかってくらい分かりやすい。
だが、当の本人たちはそうじゃない。女子生徒は必死に隠してる。隠せてると思ってる。男子生徒はその女子生徒が自分に惚れてるなんて思ってもいない。
だから男子生徒は他に彼女を作る。それが面白くない女子生徒は男子生徒と彼女の中を拗れさせて別れさせてしまう。それが、高校の三年間続いた。
そして、その元女子生徒が成人しても続いていた。
「またやったのか」
喫茶店の目の前に座ってる教え子は「はい……」と項垂れていた。この教え子は怖がってるだけだ。彼がいなくなることを。でもそれは生きていく上で仕方のないことだ。出会いがあれば別れもある。別れがあれば出会いもある。別れを経験した分だけ、人間は成長していける。それに気付くのはいつだろうか。
「先生……、私どうしよう」
アイスティーのグラスを持ったまま呟く。それは私への問いのような、自分への問いのような呟きだった。
「本当は分かっているんだろう?」
この教え子は頭がいい。それに気付かないわけがない。高校を卒業してもう7年。いろんな経験をしてきてる筈だ。その事に気付かない教え子ではない。それでも私に助けを求めてしまうこの教え子は、答えが欲しいわけではない。後押しをして欲しいのだ。
「本当はどうすればいいのか分かってるんだろう?」
俺はその言葉を残して喫茶店を出た。
喫茶店を出ても帰る気にはなれない。窓際に座る教え子の様子を伺っていた。教え子は店内にあった本棚から本を持ち出しそれを読み始めていた。教え子が本を読むのは初めて見る。高校時代も本を読んでるところは見たことない。教科書ですら読みたがらなかった。
(あの子なら自分で答えを見つけられる)
俺は教え子の成長を祈ってそのまま帰路についた。
後日、あの喫茶店の前を通るとあの店主が店の外を箒で掃いてるところに出くわした。
(暑いし、喉も渇いた)
俺は喫茶店に入ることにした。
「いらっしゃいませ」
箒を片手に店主は笑い、その箒を立て掛けててんないへと入る。
「お好きな席へどうぞ」
促されて座ったのはこの前教え子と座った席ではなく、店内にある本棚の近く。昔から本が好きだった俺は常に本に囲まれてる生活をしてきた。だからこそ、現代文の教師をしているのだ。
「すみません」
店主に声をかけると、お冷やを持った店主がにっこりと笑う。
「はい」
「本を読んでもいいですか?」
本棚の本を指す。「どうぞ。ごゆっくり」そう言う店主の笑顔は優しさで溢れていた。そして俺はこの前と同じアイスコーヒーを注文した。
本棚に目をやると有名な作家の名前やそこそこな名前、マイナーな名前が並び、ジャンルもさまざまだった。その中の一冊に目が止まる。
(聞いたことない名前だ)
作家名も知らない。新人作家か?だとしたらここの店主は本当に色んな作家の本を読むのかもしれない。
「雨降る日に……」
タイトルもシンプルにまとめられてる。それ程なにか惹き付けられるタイトルではないが、気になってしまった。
「それ、私の本なんです」
少し照れながら話してくれた。子供の頃から作家になるのが夢で、自主製作したのだと。
俺はその本を手に席に座る。店主が書く文はどんなものなんだろう。あの笑顔のような優しい物語なのだろうか。
少しわくわくしながらページを捲る。物語は抽象的な表現で進められていた。主人公の名前すら書かれていない。それでも本の中の時間はそれでいい。名前なんて単なる呼び名。読んでるこっちが主人公になればいい。ゆっくりと本の中は進んでいく。優しさに包まれながら進んでいく。
コトン。
テーブルにアイスコーヒーが置かれ、そっと店主はテーブルを離れていく。読んでる人の邪魔にならないように声をかけることもしなかった。
(なるほど。この本は店主のような本だな)
店主がどんな人物なのか分からないのに、店主の人柄がこの本から伝わってきていた。
パタンっ。
本を閉じた時には2時間は過ぎていた。周りの音は聞こえなかった。集中して本を読んだのは久しぶりだった。
「ありがとう。いい時間を過ごせたよ」
店主に礼を言ってお金払い店を後にした。
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