3 / 25
雨降る日に……
3 アイツの場合
しおりを挟む
私が好きになったのは幼馴染みの彼だった。でも長く一緒にいすぎたせいか、その言葉は言えない。だから彼の恋路を邪魔するような行動を取ってしまうようになった。それはいつからだったのかは覚えていない。
何度目かの彼の恋。まだその人とは恋人の関係でもないらしい。それをいいことに私は彼のアパートに入り浸る。
この日も彼が彼女からデートの誘いを受けて出掛けるということを知っていた。だから彼のアパートに行き、彼女の元へ行かせないようにしていた。
もちろん、スマホは取り上げてる。
そりゃそんなことをすれば彼が怒るのは分かってるよ。分かってるけど、行かせたくないの。
「お前なっ!いい加減にしろ!約束に遅れる!」
怒鳴り散らされても彼女のところへは行って欲しくないの。そんな私の気持ちなんか知らない彼は本気で私に怒鳴る。
(いつかこの気持ちに気付いて欲しい……)
「いい加減帰れ!」
私からスマホ取り戻した彼は私を追い出し、慌ててアパートを出ていく。走り去る後ろ姿を見てとても辛くなってしまった。
「またやっちゃった……」
彼を困らせたいわけじゃないのに。どうしてこんな行動を取ってしまうんだろう。
トボトボと歩いて行くと雨が降りだした。この雨に打たれていなくなってしまいたい。
彼と彼女の待ち合わせ場所までは知らない私はとりあえず雨の中歩き回った。歩き回って行き着いたところは一軒の喫茶店。レトロブームな世の中、よくテレビとかでも紹介されてる。そんな雰囲気の喫茶店だった。
でも今私は雨で濡れている。彼のアパートに行った時は降ってなかった。雨が降るなんて天気予報も言ってなかった。だから傘は持ち合わせてなく、ただ濡れるだけだった。濡れたままの私は店の中に入るわけにはいかなかった。
その日はそのまま帰路に着くことにした。
後日、私は思いもよらずあの喫茶店に行くことになった。それは私にとっては理解のある高校時代の先生とだった。
「また彼の恋路を邪魔してしまったのか」
そういう先生は私が今まで彼にしてきたことを知ってる。高校生の時も彼が誰かとそういう雰囲気になりそうになると間に入って邪魔をしてきた。それを先生は知ってる。
「ま、少し話を聞こうじゃないか」
そう言って先生と私はあの喫茶店に入ったのだった。
「ご注文は?」
店主がそう言うと先生は「アイスコーヒーとアイスティー」と言った。先生は私の好みを知っている。卒業してからもこうやって会って話を聞いてくれる、いつまでも私の先生なのだ。
(奥さんになんか言われないかしら)
そう思いながらも会って話を聞いてもらうことが多い。
「それで?君はどうしたいの?」
先生の言葉に答えられなかった。どうしたいのか。いつも彼の邪魔をして嫌われるのは分かってる。私から離れていくことも分かってる。それでも彼の隣に私じゃない誰かがいることが許せなかった。
「お待たせしました」
考え込んでると店主がアイスコーヒーとアイスティーを持ってきた。キレイなグラスに入ったそれを一口飲んで、店内を見渡す。やはり落ち着いた雰囲気の店内で、レトロなレジの近くの壁には鳩時計がかけられていた。
そして私たちが座ってる窓際の席から右側へ目をやると、大きなアンティーク調の本棚が置かれていてその中にはたくさんの本が入っていた。
「君は……、君たちのことは高校3年間見てきたから知っている。好みも性格も知っている。だから君がどう思っているのか、彼がどう思っているのか、分かってる。君は離れるのが怖いんだろう。彼が君から離れていくことが怖いんだろう」
そうか。私は彼から離れるのが怖い。彼が離れていくのが怖いんだ。だから彼の隣に私じゃない誰かがいることが許せなかった。
(分かってるんだよ、本当は……)
それでもやっぱり彼を取られたくない。そう思うのに自分の気持ちを言えない最低なやつなんだ。
「本当はどうすればいいのか分かってるんだろ。君は頭いい子だから」
先生の言葉にまた考え込む。
「さてと。私はもう行くよ」
伝票を持って先生はレジでお金を払う。そんな仕草をただ見ていた。
「またな」
扉を開ける前にもう一度私を見てそう言う。私は頷いて微かに笑ってみせた。
先生が帰ってから暫くそのまま動けなかった。先生の言ってることが的確過ぎて自分が情けなくなる。
「はぁ……」
思わずため息が出る。こんな自分が嫌だと思う。
ふと、店内の本棚に目を向ける。その本棚は本当にキレイで、目を惹く。たくさんの本が埋まっていて、思わず手に取ってしまいたくなるくらい。
「あの……」
店主に声をかけ、本棚を指差す。
「見てもいいですか?」
「どうぞ。読んで下さい」
「ありがとう」
席を立ち本棚の前に行くと一冊の本が私を読んでる気がした。
「雨降る日に……」
タイトルを口にする。聞いたことのないタイトル。作家名も知らない。でもそれは単なる私が読まない人だからかもしれない。
「私の本です」
カウンターから声が届く。
「子供の頃から作家になるのが夢で、それは自主製作したものです」
自主製作……。お金を払ってまで本を出したいなんて、余程好きなんだなぁ。私はそれを手にして窓際の席に戻った。
店主の本はとても優しかった。悔しくなるくらい、優しくて温かくて……。私がやっていることは本当にダメなんだと思わずにはいられないくらい、優しかった。
(そうだよ、もう区切りをつけなきゃ……)
本棚に本を戻して店主に向かって「ありがとう」と言った。店主はにっこりと優しく微笑みを見せてくれた。
彼に会いに行こう。
ちゃんと会って自分の気持ちを伝えて終わりにしなきゃいけない。先に進む為に。彼を忘れる為に……。
何度目かの彼の恋。まだその人とは恋人の関係でもないらしい。それをいいことに私は彼のアパートに入り浸る。
この日も彼が彼女からデートの誘いを受けて出掛けるということを知っていた。だから彼のアパートに行き、彼女の元へ行かせないようにしていた。
もちろん、スマホは取り上げてる。
そりゃそんなことをすれば彼が怒るのは分かってるよ。分かってるけど、行かせたくないの。
「お前なっ!いい加減にしろ!約束に遅れる!」
怒鳴り散らされても彼女のところへは行って欲しくないの。そんな私の気持ちなんか知らない彼は本気で私に怒鳴る。
(いつかこの気持ちに気付いて欲しい……)
「いい加減帰れ!」
私からスマホ取り戻した彼は私を追い出し、慌ててアパートを出ていく。走り去る後ろ姿を見てとても辛くなってしまった。
「またやっちゃった……」
彼を困らせたいわけじゃないのに。どうしてこんな行動を取ってしまうんだろう。
トボトボと歩いて行くと雨が降りだした。この雨に打たれていなくなってしまいたい。
彼と彼女の待ち合わせ場所までは知らない私はとりあえず雨の中歩き回った。歩き回って行き着いたところは一軒の喫茶店。レトロブームな世の中、よくテレビとかでも紹介されてる。そんな雰囲気の喫茶店だった。
でも今私は雨で濡れている。彼のアパートに行った時は降ってなかった。雨が降るなんて天気予報も言ってなかった。だから傘は持ち合わせてなく、ただ濡れるだけだった。濡れたままの私は店の中に入るわけにはいかなかった。
その日はそのまま帰路に着くことにした。
後日、私は思いもよらずあの喫茶店に行くことになった。それは私にとっては理解のある高校時代の先生とだった。
「また彼の恋路を邪魔してしまったのか」
そういう先生は私が今まで彼にしてきたことを知ってる。高校生の時も彼が誰かとそういう雰囲気になりそうになると間に入って邪魔をしてきた。それを先生は知ってる。
「ま、少し話を聞こうじゃないか」
そう言って先生と私はあの喫茶店に入ったのだった。
「ご注文は?」
店主がそう言うと先生は「アイスコーヒーとアイスティー」と言った。先生は私の好みを知っている。卒業してからもこうやって会って話を聞いてくれる、いつまでも私の先生なのだ。
(奥さんになんか言われないかしら)
そう思いながらも会って話を聞いてもらうことが多い。
「それで?君はどうしたいの?」
先生の言葉に答えられなかった。どうしたいのか。いつも彼の邪魔をして嫌われるのは分かってる。私から離れていくことも分かってる。それでも彼の隣に私じゃない誰かがいることが許せなかった。
「お待たせしました」
考え込んでると店主がアイスコーヒーとアイスティーを持ってきた。キレイなグラスに入ったそれを一口飲んで、店内を見渡す。やはり落ち着いた雰囲気の店内で、レトロなレジの近くの壁には鳩時計がかけられていた。
そして私たちが座ってる窓際の席から右側へ目をやると、大きなアンティーク調の本棚が置かれていてその中にはたくさんの本が入っていた。
「君は……、君たちのことは高校3年間見てきたから知っている。好みも性格も知っている。だから君がどう思っているのか、彼がどう思っているのか、分かってる。君は離れるのが怖いんだろう。彼が君から離れていくことが怖いんだろう」
そうか。私は彼から離れるのが怖い。彼が離れていくのが怖いんだ。だから彼の隣に私じゃない誰かがいることが許せなかった。
(分かってるんだよ、本当は……)
それでもやっぱり彼を取られたくない。そう思うのに自分の気持ちを言えない最低なやつなんだ。
「本当はどうすればいいのか分かってるんだろ。君は頭いい子だから」
先生の言葉にまた考え込む。
「さてと。私はもう行くよ」
伝票を持って先生はレジでお金を払う。そんな仕草をただ見ていた。
「またな」
扉を開ける前にもう一度私を見てそう言う。私は頷いて微かに笑ってみせた。
先生が帰ってから暫くそのまま動けなかった。先生の言ってることが的確過ぎて自分が情けなくなる。
「はぁ……」
思わずため息が出る。こんな自分が嫌だと思う。
ふと、店内の本棚に目を向ける。その本棚は本当にキレイで、目を惹く。たくさんの本が埋まっていて、思わず手に取ってしまいたくなるくらい。
「あの……」
店主に声をかけ、本棚を指差す。
「見てもいいですか?」
「どうぞ。読んで下さい」
「ありがとう」
席を立ち本棚の前に行くと一冊の本が私を読んでる気がした。
「雨降る日に……」
タイトルを口にする。聞いたことのないタイトル。作家名も知らない。でもそれは単なる私が読まない人だからかもしれない。
「私の本です」
カウンターから声が届く。
「子供の頃から作家になるのが夢で、それは自主製作したものです」
自主製作……。お金を払ってまで本を出したいなんて、余程好きなんだなぁ。私はそれを手にして窓際の席に戻った。
店主の本はとても優しかった。悔しくなるくらい、優しくて温かくて……。私がやっていることは本当にダメなんだと思わずにはいられないくらい、優しかった。
(そうだよ、もう区切りをつけなきゃ……)
本棚に本を戻して店主に向かって「ありがとう」と言った。店主はにっこりと優しく微笑みを見せてくれた。
彼に会いに行こう。
ちゃんと会って自分の気持ちを伝えて終わりにしなきゃいけない。先に進む為に。彼を忘れる為に……。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる