上 下
3 / 15

その2※

しおりを挟む
「……どうだった?」

「間違いない、あいつら柳城悟をいじめた主犯格の子供だ」

 図書室で窓ガラスが一斉に割れた時、李流伽たち以外の生徒は一目散にその場から離れたが、そのうちの数名が購買部に集まり、密談をしている。

「ふざけやがって、わけわかんねえ復讐にいきなり巻き込まれたと思ったら、俺達は何の関係もないじゃねえか」

「とんだとばっちり」

「こんなくだらねえことで死にたくねえよ」

 とばっちりかつ直接はいじめに関係ないという意味合いでは李流伽たちもその対象だが、この閉鎖された狂気の空間で彼女たちの分は悪かった。集められた全員が柳城悟のいじめにかかわった者の子孫や親族だが、すでに惨殺された数人は「ちょっとしたからかい」「無視」「見て見ぬふり」といった、いじめに対して関わり合いの薄い者と考えられるからだ。

「……」

「差由羅(さゆら)だっけ……お前は何でそんなに冷静なんだ」

 綺麗に染め上げられた金髪は下ろせば腰辺りまでの長さだろうか、ウエーブのかかったそれをツインにまとめている。褐色肌に映える色合いの濃い化粧とごてごてのネイルデザインはちょっとした凶器のようだ。差由羅麻実(さゆらまみ)は短いスカートを気にすることなく細い足を組み、自販機で買ったチョコ菓子を貪っている。

「さゆらさんだって殺されたくないよ?」

 自分のことを名字に「さん」付けで呼ぶ彼女は、長いネイルが付いた指を器用に扱い、チョコ菓子をひとつひとつ口に放り込んでいる。

「じゃあ菓子食べてないでさぁ、何か考えろっての」

 麻実に尖った言葉を投げつけたのは宮崎沙織(みやざき さおり)という、言葉遣いとは不釣り合いな一見清楚そうな黒髪ロングの女子だ。

「っ!」

 小柄な外見からは想像もできないぐらい強い麻実の蹴りを腹に食らい、沙織は一瞬息ができなくなりその場に蹲った。

「……効いたふりすんな雑魚。何も考えてねえのはてめえだろうが、使えねえゴミクズ」

 差由羅真美はチョコ菓子に目を向けたまま、氷のように冷たい言葉だけを投げつけるとその場にいる生徒たちを萎縮させる。
 彼女はスクールカーストの頂点に近い人間だ。突然この学園に集められた理由はわからなかったが、即席の取り巻き達から話を聞くに、これは昔のいじめられっ子の復讐劇だと知った。

「くだんないなー」

 復讐劇に巻き込まれた恐怖心も怒りも、彼女の中にはなかった。それどころか弱者の戯れに付き合うつもりはないと彼女の心は酷く冷めている。
いつ殺されるかもわからないというのに、麻実は復讐ゲームの主催を自分より下等の存在として見ていたが、その下等生物は自分たちの命をたやすく奪い去ることも容易な存在だということも、無論理解していた。

麻実は、近くに居た男たち、大山祥吾(おおやましょうご)と里井健剛(さといけんごう)に存外艶っぽい笑みを浮かべながら耳打ちをすると片方は無表情のまま、もう片方はニヤリと良くない笑みを浮かべた。

「俺は興味ない」

 貴志忠臣(きしただおみ)の言葉に「じゃあそこで見てて」と返したのは麻実だ。彼女の言葉に従ったわけでは無いだろうが、忠臣は購買部に備え付けられているソファに身を横たえて、これから起こる全ての事に対して興味がないと言った風に寝る姿勢に入ってしまう。

「ちょっと、冗談でしょ……やめろよ。貴志君も止めてよぉ」

 健剛に両手をがっちりとホールドされた沙織は、両脚を開かされてあられもない姿で麻実と対峙させられている。購買部のカウンター奥から見つけて来たのだろうガムテープを引きちぎると、そのまま沙織の口を乱暴に塞いだ。

「えー俺ヤる時はキスハメしたいんだけど」

「騒がれると誰かが寄って来るでしょ?五月蠅くしないでね~」

「うぐ、んぐう、んっんっんんっ!!」

 大柄な健剛は殆ど言葉を発せずに、命じられたまま沙織の両手首をつかんでいる。力加減がわかっていないのか、彼女の両手は鬱血し次第に紫色へと変わってゆくが、麻実はそのままにさせてやる。

「んぐうっ!!んっんっんんっん!」

 乱暴に下着を脱がされてしまい、片足にかかったままになっている。碌にならすこともなく祥吾の肉棒を挿し込まれ痛みからだろうか、沙織は身をがくがくと痙攣させた。

「……んっ」

「え、なに?」

 最初は視線で殺せるのならばそうしたいというぐらいに鋭く睨み付けていた沙織だが、身体を触られ下着に手を掛けられたあたりからぱたりと抵抗を止め、むしろ協力的と思える程度に大人しく白い足を開き、腰を浮かせていた。

次第に両目には涙を滴らせそして興奮からだろうか、粘度のある体液が分泌するようになった頃には、くぐもった雌の嬌声を上げ続けている。彼女の穴からはつうと粘度のある液が涎のように流れており、無意識に揺れている腰は嫌らしくも扇情的だ。
恐ろしさでは無く、これから訪れるであろう快楽と歓喜への期待で沙織は身を震わせていたのだ。

「うわ、期待してんの?変態でしょ」

 大抵の男は沙織のあられもない姿に興奮し、すぐさま身体を繋げ自分の雌にするため屈服させようとしたものだが、祥吾の声はどこか冷たく期待外れといった様子だった。

「……っん♡ んんぅ♡んっ♡」

「なんだぁ、やっぱり処女じゃないんだ沙織ちゃん。ここゆるっゆるだし」

 レイプされているにもかかわらず、沙織の口から発せられるくぐもった声に甘いものが混じった瞬間、祥吾は「糞ビッチ」と冷たい言葉を吐き捨て、彼なりに遠慮をしていた様子が瞬時に消え、乱暴に腰を打ち付ける。 
大山祥吾は白に近い金の髪色や着崩した服装などの派手な風貌で平均以上の身長を持つ、学校では一軍のグループにいるような生徒だ。

 普通にしていればそこそこ整った容姿の彼だが、沙織を犯しているその顔は悪魔のように醜く歪んでいる。 

 彼が性的欲求を覚える際は処女性に重点を置いているらしく、厄介なことに性的対象に対して強姦し支配したいという欲求も人より強かった。
そんな彼が非日常のこの空間で一人ぐらい女を犯しても良いだろうと判断し、麻実の言葉に乗ったはいいものの、沙織が男性に慣れているのを見て取った祥吾は勝手に騙された気分になっているようだ。

 対して、宮崎沙織は受験や両親からの期待や圧によってストレスやフラストレーションが溜まっており、その捌け口として早いうちから男に身体を開いてきた。
また、身体を使って男たちを服従させ、気に入らない人間を苛めるという行為も幾度となくおこなってきた。

そのため清楚な外見とは程遠いぐらいに男遊びが激しく、野外やレイプまがいのプレイ、複数でのセックスなど口にするのも憚られるような性的経験も数多してきた。優等生であることを強いられているという事情もあるが、作られた清楚さは男を呼び寄せるのに効果的だったようだ。

「んぅんっ……♡」

 悪い男に惹かれやすいのか、沙織にとって祥吾は「タイプ」だったようで、彼女は健剛や麻実たちのことなど忘れてしまったかのように、腰を揺らし熱っぽい目線を、あろうことか自分を犯している相手に向ける。
 ふりふりと腰を浮かせて股を開くその姿は、真面目な制服姿との落差が激しく、そのミスマッチな様子にハマる者はハマるのだろう。

 けれども、んっんと目を蕩けさせ甘い声を上げてよがる沙織の姿に「つまんね」と吐き捨てながら祥吾は乱暴に、そして事務的に腰を打ち付ける。
すでに服を脱がすのも面倒くさく、彼女の身体を弄り回す興味すらも失ってしまった祥吾は、数回強く打ち付けると沙織の中に白濁を吐き出した。

 玩具や便所のようにされた沙織は、惚けた表情でだらしなく性行為の余韻に浸り、足をがに股にさせてガクガク身を痙攣させている。太腿を伝う白や透明の液も、涎のようにだらしない。
 ひくひくとものほしそうにさせている穴からも白い液が垂れており、射精して頭がスッと冷えた祥吾の目には、沙織のそこはただただグロテスクで汚らしい気味の悪いものにしか映らなかった。

「汚え、萎えた」

 普段であれば誰が見ていようが、興が乗れば何時間でも女を犯し続ける祥吾だが沙織に対しては興味がなく彼の中で期待値が高かった分、今は失望と嫌悪の感情すらあるのだろう。被食動物の交尾のようにさっさとセックス、いや人の身体を使った自慰のようなことを終わらせた祥吾に対して、麻実がからかいの目線を向ける。

「早漏」

「ちげーよ、こいつじゃ勃たなくなっただけ」

「つーか犯せって言ったのに、沙織喜んじゃってるじゃん」

「知らねーよ、コイツが勝手によがってるだけだし」

「あーあ、まあグロだけじゃなくて濡れ場も適当に必要か。良かったでちゅねえ沙織ちゃん。イケメンとエッチできて。気持ちよかったでちゅねー」

 濡れ場という言葉を発した時だけ、麻実はどこかで自分たちを監視しているだろう者へ目線を向ける。いっそ録画されている確証でも持てたのならモチベーションもあがるというものだが、と彼女は心のうちでそう思う。

 自分たちが汚した癖に、頭の中が馬鹿になったかのように快楽に身を捩じらす沙織を心底軽蔑した様子で、麻実は彼女の唇からガムテープを乱暴に引き剥がす。その痛みすらも良い感覚として変換されたのか、沙織の口からはあぁあと情けなく浅ましい声が零れた。

「あっ♡あっ♡あへぇ♡あぁああ……へ?」

 それは見かねた神からの最後の慈悲だったのかもしれない。どこから見つけ出してきたのか、麻実が振りかぶった金属バッドは沙織の脳天を直撃し、はずみでさらに頭部を地面に強く打ち付け、ぐるんと白目を向いた沙織はそのまま意識を失った。

「おーい沙織ちゃん?……ちっ死ぬなよこれぐらいで」

 殴打された衝撃なのか、失禁し痙攣していた沙織の動きがぴたりと止まったのを見て麻実は怪訝そうな顔で脈を取ると、すでに停止しているのを確認した。

「死ななかったらこれ以上どうするつもりだったの?」

 目の前で人が殺されたというのに表情を変えず無邪気に問う祥吾に、麻実は一瞬思考を停止させる。息を吹き返すかとしばし寝かせていたそれは、やはり呼吸もしていなければ脈もなかった。
麻実としても沙織に対するプランは未定のようで、死ななければ更に脳がスイングしてぐちゃぐちゃになるまでバッドで殴打したかもしれないし、時間短縮のため他の方法を選んだかもしれない。
 けれども目的は一貫しており、麻実の小目標は沙織を惨たらしく殺してやることだった。

「死ぬまでやってた」

「どうして?」

「売り込みだよ。私はこれだけ残虐に人を殺せます。どんなこともできますって」

 麻実はちらりと、周囲に目線を送る。これはどこで見ているかわからない主催に対するアピールだった。いじめをした主犯格の子供達を「あなた」の望むように殺して見せるので、どうか私を助けてください。ここで殺してしまうにはあまりにもわたしは惜しい存在ですという彼女なりのアピールと生存戦略だった。

「柳城悟は自分を苛めた連中に復讐したいんでしょ。もしさゆらさんが復讐するなら、首輪で『バンッ』なんてぬるすぎるね。一瞬で殺すなんて許さないし気が収まらないから。死んだ方がマシってぐらい苦しんでほしいじゃん?……代わりにそれをやってあげますってアピールしてんの」

「なるほど?」

「そうなの。……あれ、貴志君起きてたの~?」

 麻実の言葉に返したのは、ソファで眠っていたはずの貴志忠臣だった。祥吾の問いかけに対して「あの女は喘ぎも断末魔も大して変わんねえな」と少し斜め寄りの返信をしてやると健剛ともまた違う無の表情のまま、麻実を見返した。

「じゃあ、雑魚どもをある程度潰してから主犯格の子供たちをやるのか」

「察しが良くて何より」

「ええ~なんで?面倒じゃない?」

「馬鹿だな祥吾は。すぐにメインディッシュを潰したら盛り上がらないだろう?」

 お前のそんな馬鹿なところも可愛いけどと、整った顔立ちで微笑む忠臣の笑みに、祥吾は生理的嫌悪感と本能的な恐怖の入り交じった鳥肌を全身に粟立たせる。
格闘技をしているという彼は、巨漢の健剛とはまた違う引き締まった筋肉質な身体を持つ美丈夫で、一見着やせしているように見えるが長身で腕の筋肉もかなり鍛え上げられている。その体重は優に80キロはあり、全身が凶器のような男だった。

「ある程度実績を積んでから本番に行くんだ。競馬でも試合でもそうだろう?」

 優しく諭すような忠臣の言葉に、祥吾は怯えた表情を懸命に隠そうとしたまま無言で頷く。捕食者のような目の前の男にじっとり見つめられてしまうと、身体が硬直し口を開けば悲鳴が漏れてしまいそうだからだ。

「あぁお前たまんねぇ、その顔最高だよ。可愛いなぁ、うん可愛い。俺別にセックスに興味ねえし女にも男にも興味ねえけどその顔がいいんだ。腰に来る。性別も年齢も関係ない、怯えた顔があればだれでもヤれるね。やれるってお前みたいに犯すんじゃなくて殴るの。踏みつけるのもいいけど顔が見れないのはやだな。

女なら乳首を引き千切って血をびしゃびしゃ母乳みたいに噴射させて泣き叫ばせたいし、男なら金玉踏みつぶして飛び上がらせて、怯えて泣いて痛くて失禁して絶叫しちゃうところとか、想像しただけですげー興奮する。
ああチンポに来る。それだけで射精しちゃうな。お前が処女犯したいって気持ち少しだけわかるなぁ、泣き叫ぶのがいいんだろう?そこはわかるよ、わかる。お前となら友達になれるかもしれない。ああ、怯えるなって。お友達でいたいんだから。そんな可愛い顔するなよ、なあ……やりたくなるから」

忠臣にすりすりと頬擦りをされて、祥吾は虎やライオン、ヒグマにでも接触されたかのように身を硬直させていた。その様子にさらに気を良くしたのか、忠臣はチュッと派手なリップ音を立てて祥吾の首に執着の証を一つ付けた。そしてべろりと首筋を舐め、軽く脅す程度に歯を当てる。
 忠臣は祥吾の怯え切った顔を自身のスマホに画像と動画として納めると「これでしばらくオカズに困らない」と顔をほくほくとさせている。

「……ああ。俺、お前は興味ねえや」

 祥吾の肩に手を回したまま、忠臣は麻実に対しては関心がないという様子で、まるで興味のないインテリアにでも向けるような目線を投げつける。
お前は腕を捥がれても強姦されてもたぶん表情がよくない、不味い。つまらないと散々な言われようだ。彼は認めたくないのだろうが、祥吾にしてみれば麻実も忠臣も同族の臭いがした。忠臣が麻実に対して興味がないどころか好感が持てないのも、恐らくは同族嫌悪というものなのだろう。

「こっちも貴志くんみたいのに好かれなくてせいせいするわ~」

 そこには男女間のよくある互いが素直になれないが故のやり取り、という風は微塵もなく今は利害関係が一致しているだけの同種類の化け物たちの会話に祥吾は感じた。
祥吾には処女を狙う卑劣な強姦魔という性質があるかもしれないが、それでもこのような異様な空間に引きずり出されていなければ、彼の内に存在する良くない才能が開花されることもなく、至極真っ当な人生を歩むことができたかもしれない。

けれども、この二人には人間として根本的に備わっているはずの何かが欠けている。人という群れの中で生きるには、持っていなければいけないものと、それから持っていてはいけない何かを取り違えたかのように、そばに居るだけで狂気が当てられるような空間が捻じ曲がるような、そんな違和感と異様さがオーラのように充満している。

「……」

「ん、どうしたの里井くん?」

 健剛が無言で沙織の死体を指さす。ああそっかと彼女は健剛に死体を移動させるように命じた。彼女の亡骸は、購買部の入り口すぐの一番目立つソファに座らされる。麻実が指示するように、両脚を開かせてスカートをたくし上げ、足首にひっかかった下着は敢えてそのままにしている。人としての尊厳もないその姿は目も当てられないぐらいに無様で酷い姿だ。

「……これじゃわかりにくいかな」

 彼女は自販機で小さいペットボトルの飲料を買うと「もったいないから」とそのまま一気に飲み干し、そしてカラになったボトルの置き場所に「彼女」を使った。

「っいや、いやぁいやぁあ!やめて、やめてよぉ!」

「やめて、やめてください、俺が何をしたんですが、痛い、痛いです!!」

 祥吾は女子生徒を犯し、忠臣は男子生徒に馬乗りになり顔面を殴りつけている。犯されている女子生徒を拘束して手伝ってやっている健剛は、やはり無表情のままただただ女子生徒の手首が鬱血して紫色になっても、行為が終わるまで何の表情も映さずに目の前の惨劇を見ているだけだ。

 祥吾は女子生徒に自身の肉棒を突き刺した瞬間、太ももに滴り落ちる血に満足し興奮した。沙織の口直しとでもいうように女子生徒のブラウスを引き千切り、ブラジャーを無理やりたくし上げ乳房にかぶりつき、舌を這わせる。いやいやと首を振る姿にも欲情し泣きじゃくる顔を飽くことなく眺めながら腰を振り続けている。

 そんな祥吾の様子に当てられたのか、忠臣は男子生徒の腕をへし折り鼻も折り、顔が腫れ上がり人相が変わってしまっても、場違いに美しく歪んだ笑みを浮かべながら暴力を続けた。すっかり勃起したそこに気付いてしまった祥吾は一瞬顔を青ざめ正気を取り戻しかけるが、目の前の肉欲にまた赤いフィルターでもかかったかのように行為に没頭する。

「……可愛い」

 ちらりとこちらを見て怯えた祥吾の表情にも欲情した忠臣は、気を良くしたのか男子生徒の足もへし折り、絶叫しのたうち回っている様を存分に堪能した後に、べきりと男子生徒の首をへし折ってようやく地獄から最悪の形で解放してやった。

「お疲れさん、祥吾のおかげで俺機嫌がいいから。この辺にしてあげる」

 口から血の泡を吹いて事切れた男子生徒の顔の前にペニスを突き出した祥吾は、びゅるりとその顔に白濁を振りかけた。

「あはぁ♡見て祥吾、俺こすらなくてもイケちゃった......もう、そんな顔するなって言っただろ?ああ、また出る、でるでる」

 白濁を数回、散々蹂躙した男子生徒の顔にかけると「あーあ。死んじゃったらつまんないな」と落ち着きを取り戻したペニスをズボンにしまい込む。
 彼は、対象者が苦痛に歪みそして断末魔を上げながら事切れることに興奮を覚えるが、死後の抜け殻のような顔には興味が持てないようだ。

「はいはい、そこまで」

 次行くよと手を叩いているのは麻実だ。嬲り殺された男子生徒はそのままで、彼女は犯された女生徒の首輪を狙って金属バッドを叩き込んだ。
 痛みと衝撃を感じる間もなく、首輪が作動し彼女の頭部は爆散して肉の塊になってしまった。

「さゆらさん、ようやくコツが掴めてきたかも」

 首輪はある程度の衝撃で無理やり解除をしようとしたと見なされるらしく、その時点で今のように作動するようだ。その際に首輪が爆発するのか、もしくは首を切り落とすように動作するのかまでは掴めないが、後者は麻実が狙っても思うようにいかず恐らくは何者かが遠隔で操作をしないと、爆発をさせずに首が飛ぶことはないのだろう。
 そう、麻実たちはすでに片手に余るぐらいの生徒たちを蹂躙し殺していた。

「里井くん、これの配置手伝ってね」

「……」

 健剛は無言で頷くと、また彼らを目立ちやすい場所に、そしてもっとも惨めで惨たらしい恰好をさせてその場に転がした。

「ありがとー。里井くんは黙ってさゆらさんのお手伝いしてくれるけど、さゆらさんが怖いから手伝ってくれるの?」

「……楽だから」

「うん?」

 健剛は、身体を動かすことが苦ではないしどんな肉体労働にも耐えうる強い力を持ってはいるが、自分の意志で何かをするということが苦痛な青年だった。
 人に使われるのが最も楽で、そのように使ってくれる者を彼も無意識のうちに、心のどこかで求めていたのかもしれない。

「そっかそっか。じゃあ里井くんはゴーレムになってね。可愛いくて強いさゆらさんのゴーレムさん」

 ゴーレムとはユダヤ教の伝承に登場する自立する泥人形だが、ヘブライ語で未完成のものという意味合いがある。魔法を吹き込み自分の意のままに操られるそれは傀儡でしかないが、自らそれを望む健剛を、麻実は手放そうとは思わなかった。

 もし健剛が麻実に恋愛感情を抱いている、或いは性的欲求を覚えているということであればこの場で切り捨てるつもりであったが、どうもそうではなさそうだ。
 こくりと無言で頷く巨漢の健剛に対して、麻実は少なからず好感を抱いたのかもしれない。彼女もまた、人から好意や欲を孕んだ目を向けられるのが嫌いな人間だったが、自分から一方的に行為を向ける分には問題がないようだ。

「りんりん喉が渇きました」

 ―図書室にいた李流伽たちは、校内を一通り探索したあと凛成の一声で購買部へと向かっていた。
いともたやすく人前で全裸になる凛成が、せめて股間の部分だけでも視界に入らぬよう発光でもすればいいのにという意味合いでの、薄幸もとい発光の美青年の要望を李流伽たちが聞き入れたわけではないが、食料を手にしたいという意見は皆同じだったからだ。

「自販機には飲み物は勿論、パンやカップ麺なんかもある……売り切れていなければ」

 大河の言葉に小春と芳樹も頷くと、購買部に足を踏み入れた。
 そこには異様な光景が広がっていた。嫌と言う程に嗅ぎ慣れてしまった鉄錆臭い匂いとアンモニア臭。昼休憩には沢山の生徒たちに腰かけられていただろう座りごこちのよさそうなソファに、それは居た。

 一目で死んでいるのがわかるが、問題なのはその死にざまだ。生前顔立ちは整っており清楚な生徒だったのだろうその死体の頭部からは血が流れており、どす黒くなった瘡蓋のように乾燥して、ところどころに固まった血が張り付いている。
上半身の着衣の乱れはあまり見られないが、下半身は酷いことになっており、無理やり開かされた両足、たくし上げられたスカート、ずらされた下着、そして。

「だれか、タオルかなにかを……」

「そんなもん、ここには」

「何て、酷い……」

 小春が耐えきれなくなったのか、せめてもの配慮に彼女のスカートを降ろして局部が見えないようにしてやっている。死後硬直が始まったのか、両脚を動かすことは叶わなかった。
 ……死体の局部には、ペットボトルの飲み口がむりやり挿入されており、性的暴行の末に殺されていたのは誰が見ても明白だった。

「……恐れていたことが、起きてしまったようです」

 李流伽の顔色も優れず、体調を気遣う凛成に背中を擦られても、もうイケメンへの拒否反応を示す余裕も無いのか黙って成すがままにされていた。
 幸いにもというべきか、彼らが目指していた購買部のカウンターや自販機と死体との間には距離があり、すっかりなくなった食欲に鞭打ち水分や食料を購入する。

 購買部の隣、壁を挟んだ先には飲食スペースがあるため李流伽たちはそこへ退避をした。これまでにも死体はあった。虫けらのように人が殺される瞬間も何度も目にしてきた。しかし、これは今までとは違う。あまりにも死の状況が違いすぎると誰もが感づいている。

「彼女はあまりにも……酷いのはもちろん、ある意味とても、原始的な殺され方をしている。遠隔操作でいつでも首輪が作動して殺すことができる人間が、よっぽどのことがない限り直接あのようなことをするとは思えないんです」

「じゃあ、あれは復讐ゲームの主催以外がやったって言いたいのかな?」

 凛成の言葉に李流伽は「おそらく」と頷いた。凛成もこの件に対しては異論がないようで、大人しく頷いている。強姦と頭部の損傷、どちらが先かは専門家ではない彼女たちにはわからないが、例えどちらが先であっても、主催がいじめの主犯格でもない脇役の生徒の親族に対して、あのように自ら手を下すだろうか。

「凛成君」

「なあに?南条君」

「……緊急事態だ、ぼかさずに思ったこと言ってくれていい」

 それはあの死体を見た凛成の見解を知りたい、ということだろう。李流伽では気づかない、あるいは言葉にするのが憚られるような内容も、変態の凛成であれば問題がないというある種の信頼を得ているのだろうか。小春を引き寄せて胸に抱きかかえた大河と、それを横目で何とも言えない様子で見ている芳樹の姿を見なかったことにして、彼は言葉を紡ぐ。

「……局部に精液が付着してたことより、ゴムも使わずに犯されていたのだと思う。
多分ペットボトルは死んでから挿れられたんだろうね。そしてわざと誰かの目に止まるように、酷い恰好をさせられて目立つように放置されたんだろう。
レイプと暴力で残虐に殺さなければならない理由が、殺した側にはあったんだと思う。でも、怨恨というにはどこか事務的というか淡々とされているように俺は思った。

フェイクならさっさと殺してから暴力でもレイプの跡でも偽装すればいいと思ったけど、少なくてもレイプに関しては誰かが望んでやっていたとも考えられる。
 それから彼女が酷い目に合う様を、死に至るまでの経過も事細やかに実演してみせてその様子が「誰かに」見られなくてはいけなかったという理由……意志というか、そんなものを感じた。

 ……ちょっと不思議なのは、レイプにしてはそっちの損傷があまり見られなかったことなんだけどね。もちろん合意だったとは言わないけど」

「……見せしめ」

 李流伽の言葉に、凛成は「ああ、それかな。でもちょっとだけ違うかもな」と首を傾けた。殺人犯の「誰かに、あの惨たらしい様を見てもらいたい」という意思は確実なのだろうと李流伽も凛成も、他の者たちも同意見だった。
しかし、「誰に」と「何のために」だけが思いつかなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える

恋愛 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:824

【完結】海の見える坂道(作品240518)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:2,526

【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから

BL / 完結 24h.ポイント:745pt お気に入り:2,419

軽はずみで切ない嘘の果て。【完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:46

【完結】お姉様の婚約者

恋愛 / 完結 24h.ポイント:674pt お気に入り:1,978

処理中です...