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四周目

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 ヤマザキの家は学校のすぐ近くにあり、突然9人もの客人がやってきても何ら困らない程度には、立派な家に住んでいた。
 両親は海外出張で家を空けているから遠慮なくくつろいでくれと、ヤマザキは言う。各々椅子や床に座ると貴一の方を見た。

「俺たち、この世界から脱出したいんだ」

 開口一番貴一がそう告げるとヤマザキは一瞬目を鋭く細め、それからノートPCを持ち出すと、何やらカタカタキーボードを叩き画面を見入っている。

「……うん、うん。パラメーターもフラグ回収も問題ないと思う。条件は満たしているんだけど。でも、このままだと全員バッドエンドだなぁ」

「バッドエンド?」

「平たく言うとジェノサイドエンド」

「た、大量殺戮エンド」

 具体的にどうジェノサイドなんだと山久が尋ねると、ヤマザキは至極真面目な顔で説明を始める。

「禁断の香合、過去に生徒会メンバーの一部が狂わされた魔薬のデカい奴が学園に設置されて、生徒も教師もみんな薬にヤラれて殺し合いが始まる」

 その光景はカタストロフな世紀末を百万回酷くしたような光景で、白液学園の生徒や教師が誰彼構わず交じり合い、互いに白濁と血を飛ばし合って生死を問わない過激なSMのような惨劇が、全ての者が息絶えるまで繰り広げられるのだという。
 その悲劇を引き起こす人物は、サイオンジユウだとヤマザキは語った。

「はぁ!? 」

 怒りのあまり東頭のこめかみには血管が浮いている。思えば彼は、一番貴一の死に立ち会っている。東頭の怒りとは裏腹に、このゲームがR18G(グロ)にも対応しているとはと貴一は内心感心していた。

「……」

「貴一」

「何だよ、東頭」

「お前、ちょっとジェノサイドエンドも見てみたい、とか思ってただろ」

「……」

「俺は嫌だからな! これが仮想現実でも、ゲームだとしても、なんで何度も何度もお前が死ぬところ見ていなくちゃいけないんだよ……」

 流石は一周目からの長い付き合いだ、彼はヤマザキに次いで貴一と長い時間を接してきた友と呼べる男かもしれない。その感情が恋愛であるかは置いといて、何度か最低なエンディングを繰り返していくうちに強くそして素直になった東頭に、貴一にもデカい犬ぐらいの愛着はある。

「しないよ。……お前の泣き顔見るのもいい加減しんどくなってきたし」

 お前に泣かれると弱いんだと、貴一は東頭の頭と胸ポケットの青チンちゃんマスコットを交互にナデナデしてやる。調子に乗って人懐こい犬のように擦り寄る東頭を、それをナイトのようにスマートな動きで止めるのは奥山で、ちゃっかり逆側から貴一に抱き付いているのは何故か犬飼だった。

「犬飼先輩、俺らそんなに接点ありましたっけ……」

「……好きになるの、理由いる?」

 彼はリンチの件に関してごめんなさいと何度も謝った後に「もう酷い事しない、から……意地悪言わないで」と、貴一に頭を摺り寄せて来た。
 
「貴一君……」

 モジモジしながら遠巻きにこちらを見つめているのは上杉だ。彼には目玉焼きソーセージパンとデザートのリンゴとジッ○ロックの恩があるので、貴一の邪険にせず空いている方の手を上杉に差し出す。ふわりと匂う香水が近いなと思った瞬間、頬にキスを落とされた。
 その光景を「ずるいー」「ずるい~」と見つめた後に、自らも貴一に愛のタックルをかましたのは美羽と詩羽の双子である。

「糞、つくづくこれが男性向け恋愛ゲームだったらなぁ……っ」

 もしこの世界がギャルゲーであれば。色とりどりとでも表現をすればよいか、とにかく多種多様な美少女たちが「貴一」と主人公の名を呼び、そして貴一が特に何もしなくても雑な恋愛展開が始まり、自らその身を摺り寄せてくるのだ。
 せめて目を閉じて上杉の香水の香りと、双子のユニセックスな身体や声に女の子たちのハーレムを妄想してみるが、現実とは残酷でごりりと貴一の下半身に硬いものが当たり、耳にはイケボと呼ばれるどう聞いても魅力的ではあるが、男性の声で愛を囁かれる。

「……おい貴一、よせ。妬ける」

「狡いですよ、皆さん……貴一さん」

 この件に関してはマトモだと思っていた生徒会長と副会長も、どことなく頬を赤らめじっと貴一に熱いまなざしを送りつけていた。
 もう駄目なぐらい雑なBLなのだこの世界はと、貴一は全てを諦めた。
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