私立白液学園~青春プロテインを沢山飲ませて♡ 僕のえくすたしー性活~というBLゲームに飛ばされた男の話

雷尾

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四周目

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「頼もう!」

「道場破り?」

 突然生徒会室に麻薬探知犬をジャンルの違うイケメン二人を引き連れ、片手にはスタンバトンを掲げてやってきた屈強な男に小首を傾げたのは生徒会会計の上杉だ。

「あ、上杉先輩。いつぞやは大変お世話になりました」

「うん、大したことしてないし全然いいんだけどねー。じゃなくてどした突然」

 ぎょろりとした目で周囲を見渡すと、生徒会メンバーは勢揃いしておりどのメンバーも真面目に業務に勤しんでいるようだ。手元の書類を見るに皆平等に仕事が割り振られているように見える。
 その様子に、貴一は目に涙を溜めながら上杉に駆け寄ると、両手を包み込むようにして握りしめた。

「仕事、みんなちゃんと仕事してるじゃないですか……! よかったですね、よかった……」

 俺の死は無駄じゃなかったと貴一は涙を流す。そんな彼の様子に上杉はこの上ない優しい笑みを向けるとウェーイとふざけた調子で手を差し出し、それに気づいた貴一と一緒にパチンとハイタッチをした。

「貴一君のおかげだよ」

「へへっ、焼きそば目玉焼きソーセージパンのご恩、身体で返すって言ったじゃないですか。 でも私刑された甲斐がありました」

 リンチという言葉に、生徒会長の山久、副会長の樋山、書記の犬飼がビクリと硬直させ、東頭と奥山は表情を鋭くする。犬飼は顔面蒼白でカタカタ震えながらも上目遣いでこちらを見ており、山久と樋山はバツが悪そうにゆっくり貴一の方を向いてた。

「先輩方どうぞ、そのままで業務しててください」

 貴一は上杉含めて生徒会のメンバー一人一人に麻薬探知犬を近づけ、異常がないことを確認する。それから、これまで使ったことのなかったアイテム「きつけ薬」をポケットから取り出す。ちょっと見たところではスプレータイプの消毒液のようなそれを、貴一は「このご時世ですからね」と、この部屋にいる全員の手元に噴射して回る。

「例の件は、先輩方はある意味被害者だと思ってます。俺も責めに来たわけじゃないんです」

「……何か聞きたいことがあるんですか?」

「流石、樋山副生徒会長。話が早くて助かります」

「わかった。俺たちが知ってる事であれば、何でも答える」

 償いの意味もあるのだろう、山久は仕事の手を止めると貴一をソファに座らせ、面談のように向かい合わせるようにして全員椅子に座った。

「貴一、聞きたい事って何~?」

「何―?」

 生徒会庶務の赤穂美羽と詩羽の双子が、対照的になるようにコテンを首を傾げた。

「聞く前に、俺から話さなきゃいけないことがある」

 貴一は、自分には前世の記憶がありトラックに跳ねられてどうやら死に、この糞みたいなBLゲームの世界に飛ばされたのだ、ということを説明した。

『…………』

「うん、突然こんなこと話しても、とても信じてもらえないと思うんだけど……」

「……俺は、死んでないぞ」

 最初に口を開いたのは生徒会長の山久だった。そりゃこのゲームの住人なんだからお前は前世も何もないだろうと口を挟もうとしたが、彼の様子を見るにそういった意味合いでは無いようだ。

「恐らくですが、僕も」

「……おれ、も」

 生徒会長、副会長、書記の口ぶりにますます貴一は困惑する。意味が解らず思わず東頭や奥山の方を振り向くと、彼らはハッとした表情を隠さず、奥山は明らかに何か心当たりがあるように口元を押さえている。

「貴一、多分おなじ~」

「うん、僕らもおなじー」

「あーみんな、言葉が足りないけど多分一緒だよねぇ。俺の状況から説明しようかな」

 上杉が口を開く。

「……俺、精子ドナーのバイトで病院に入院してたんだ」

 こういう時って入院というのかわからないけど、と上杉は続ける。精子ドナーとは精子バンクに必要な精子を提供してもらう提供者のことである。提供者から採取された精子は、凍結して然るべき機関に保管、管理される。
 精子バンクの本来の目的は、無精子症や受精能力がないもの、同性愛者が子を成したい時など様々な理由で、生殖補助医療を行うために利用される。

「俺は、スカウトが来た」

「スカウト」

 東頭曰く、容姿や頭脳運動能力に非情に優れた精子を集めている機関があり、それにスカウトされたのだという。なるほどと言うべきか、白液学園というトチ狂った名前ではあるが、ここにいる生徒は皆容姿はもとより運動神経、頭脳も優れている。

「俺もスカウトだが、精子ドナーの他に治験目的で来た」

 こんな俺でも人の役に立てるのならと勇んでやって来たのは、奥山の人柄らしい理由だ。山久と樋山もほぼ奥山と同じ理由だが、彼らがドナーと治験の話まで説明されたのは、正義感や知識の高さから「ただの割のいいバイト」だけでは協力してもらえないだろう、という理由からではないかと山久は考えを口にする。

「逆に言うと、みんな今の今までドナーのこと忘れてたの~」

「すっかりこの世界が日常だと思ってたのー」

 双子がなんでこんな世界が普通だと思っていたのかわからない、という風に首を横に振ると、山久は貴一の持っていた「きつけ薬」を指さし、それを手に吹き付けられてから正気を取り戻せたようだと答えた。

「これに記憶を取り戻すための効果があったのか」

 皆の話を取りまとめるに、貴一だけがイレギュラーな方法でこの卑猥な名前の学園にやってきたということになる。そして、貴一以外の者たちは少なくとも明確には死んでいないということにもなる。

「……そうなると、この世界が意識だけだとしたら、俺はわからないけど、他のみんなはどこかに身体があるかもしれないってことですか」

 これがドナーや治験の延長線上であれば、意識だけこのわけのわからないゲームに飛ばされているのだとしたら、身体はどこかにまだ存在する可能性が高い。

「……俺、見た」

 おずおずと手を上げ口を開いたのは犬飼だ。彼は最後にその病院にやってきて、部屋に連れていかれる最中にほかのメンバーの姿を目撃したのだという。

「本当は、見ちゃいけないもの、だったのかも。ドアが少し開いてて。広い部屋。みんなCTスキャンみたいなところで一人一人、横たわってた」

 犬飼が見た部屋に寝かされていた人の数は「8人」だったという。

「俺が、見た部屋は一部屋だけ。でも、少なくても……人数」

 また、一番手前にいた人は手や腹に包帯が巻かれており、ケガをしているようだった。

「貴一、お前生きているかもしれないぞ!」

 東頭は貴一を乱暴に抱きしめる。それを割って入るように奥山も貴一の肩を抱こうと手を伸ばした。
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