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二周目

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次の日。空はまだ薄暗く、これから徐々に日が昇ってゆくといった時刻だ。黒いジャージ姿の貴一は校門前で奥山を待っていた。
 白液学園の校舎裏には小さな山がある。その道端にはオオイヌノフグリが咲いており綺麗なのだと、奥山にジョギングがてらデートに誘われたのだ。

「早いな貴一」

「おはようございます奥山風紀委員長! 自分も今来たところです!」

「二人きりの時ぐらい、名前で呼んでくれないか?」

 少しだけ拗ねたような表情を見せる奥山に、貴一は困ったような笑みを作る。元強豪野球部員である貴一は上下関係に対して厳しく躾けられてきた。
 
「……庵先輩」

 ここでだけですからね、と貴一が誰かに聞かれてやしないだろうかときょろきょろした隙を見計らって、奥山は貴一を抱きしめた。

「先輩」

「もう少しだけ、頼む」

 「ここでだけ」の出来事にはしたくないが。肩に顔を埋めてそう切なそうに呟く奥山の様子に、貴一は何も言えなくなった。この世界が仮に白液学園という最低なネームのBLゲームであったとしても、早朝の冷たい空気と相反する、抱きしめられた身体に伝う熱は切ないぐらいにリアルだった。

「わあ、先輩すごいですねえ」

「だろう、貴一に見せたかった」

 道端に咲く薄青色の花たちはその身に乗せた朝露をきらめかせて、誰にも見られずひっそりと美しく、ただそこに咲いている。

「貴一に似てて、好きなんだ」

「フグリがですか」

 どうせ青い花なら勿忘草でも青リンドウでも色々あるだろうがと、貴一は白プロ♡ (貴一が考えた私立白液学園~青春プロテインを沢山飲ませて♡ 僕のえくすたしー性活~の略称)を呪った。
 白液学園もとい糞雄ビッチ+糞ヤリチン学園(貴一談)の生徒たちは、自分の見目や魅力を自覚している者が多いので、自ずと媚びを売るような態度を取るものが多いという。
 その中の貴一は、奥山にとって野道に咲く花のように楚々としており、けれども芯が強く誰にも屈しない凛々しさがあるのだと奥山は言う。

「貴一、ほら」

「……」

 手を繋ごうと奥山が差し出した手を、貴一は取ることができなかった。彼に手を引かれて庇護されるほど自身は脆い人間ではない。そうフルフルと申し訳なさそうに首を横に振る貴一の姿に、少しだけ残念そうに手を引っ込めた奥山は、貴一の道しるべになるように山道を先に進んでゆく。
 差し出されたその手を掴んでおけば、またこの後の展開も変わって来ただろうか。

「あ、これは」

 道端に生えているオオイヌノフグリは確かに美しいが、少し外れたところにオオイヌノフグリよりも小ぶりな青色の花が咲いているのを、貴一は見つけた。
 それは、イヌノフグリと呼ばれる日本に古くからある在来種だ。繁殖力の強いオオイヌノフグリ生育地を奪われており、今では絶滅危惧二類にも分類されている。

「これ普通に報告すべき案件では」

 奥山を呼ぼうと振り返ろうとした瞬間、ドンと背中を強く押され貴一は山道を反れて崖に転がり落ちた。
 崖の高さと地面の岩から、貴一はこれは死ぬと瞬時に判断をする。奈落に落ちるその刹那、目の前には前にも見た黒ずくめの男の姿が一瞬映った。
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