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二周目
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その日から、貴一は昼休憩の後半や下校前などに、花壇に通ってはオオイヌノフグリやそのほか花壇の花たちの面倒をみることにした。昼時間に抜け出すと東頭が拗ねるが、雑に青チンちゃんと東頭の頭を交互に撫でてやれば、たちまち機嫌を直す。
本当であれば貴一だって誰彼構わずいい顔をするタラシのような学生生活を歩みたくはないのだが、ゲーム攻略のためには心を逆に鬼にして、対象キャラの心象は良くしておかなければならないのだ。
恋愛ゲームの主人公というやつは、誰に対してもどっちつかずの思わせぶりな態度取る最低野郎なのかもしれない。あと、タスク管理が異常すぎると貴一は考える。
朝は東頭、昼は奥山、それから唯一の癒し枠であるマイフェイバリットヤマザキと心の安寧を保つために交流を深めつつ、クラスメイトにも媚びを売る。攻略対象が増えれば、これ以上の緻密なスケジュール管理が必要となるであろう。
貴一はすっかり恋愛ゲームの主人公に対して、尊敬とアンチというアンビバレントな感情を抱いていた。
「奥山風紀委員長」
「貴一」
花壇には、少し前までは枯れ果てていたオオイヌノフグリが咲き誇っていた。辛い環境でも自身の生命力を疑わずに生き延びたフグリ達の姿に、貴一と奥山の目にも熱いものが滲み出る。
「ありがとう、貴一のおかげでフグリ達が息を吹き返した」
「いいえ、再び咲くことができたのはフグリ達自身の力です」
奥山はそっと貴一の肩に手をかけると、そのまま抱き寄せる。これが節操のない美化委員の男のつまみ食い目的や、東頭の行き過ぎた求愛行動のようなものであれば即座に突き飛ばすところだが、今の奥山からはフグリ達に対する感謝の念が上回っていると判断した貴一は、そのまま身を任せた。
これがフグリフグリと音声だけで聞けば、睾丸の生命力を湛え呼び合う状況でなければ、こういうのもまあ良き青春なのだろうと貴一の脳は錯覚を起こしかけている。これは正常性バイアスというものだろうか。
奥山は優し気な笑みを湛えると、貴一の短い黒髪をさらりと指で梳くようにして撫でる。
「貴一からいい香りがする」
「……そうですか?」
特に香水もデオドラントスプレーも使ってはいないがと貴一は軽く首を傾ける。
奥山はきっと、花のような爽やかな飾り気のない、けれどもとても良い匂いだ、とでも言いたかったのだろう。
「フグリの香りかな」
「やめてください」
フラグは解体作業の木材の如く、瞬時にへし折られた。
白液学園では特にイケてる生徒に関しては、東頭のような一般生徒でも親衛隊がつくものらしいが、風紀委員はそういったものを取り締まるために存在しているため親衛隊を作ることは禁止されている。また、風紀委員会のメンバーはゲイやバイセクシュアルであっても可愛い男子たちの誘惑を回避できるすべを持つ者や自制心の強い者、ノンケと呼ばれる異性愛者が多いことでも知られている。
この異様な学園の中で皆それぞれ安穏を求めて同じ境遇、認識、常識を持つ者たちが自然と同じ場所へ集まるのかもしれない。
白液学園の風紀委員たちは、一部のノンケ好きを除いて変わり者カテゴリに分類されていた。社会に出れば変わり者どころか、一歩間違えれば異常者もしくは犯罪者となりえるのは、性に対してモラルが少々破綻しすぎている白液学園の一般的な生徒たちなのだが。
爛れた学園内の数少ない良心、それが風紀委員会と呼べるかもしれない。
「(つくづく少子化に拍車をかけているなこの学園)」
薔薇の園に強制転校をさせられた貴一は、己の悲惨な境遇を思い返しては、はあとため息をついた。
「ところで先輩、最近は少し顔色良いみたいですね」
「ああ、ようやく一仕事終えたからな。睡眠もとれるようになったんだ」
「美化委員の件、解決したんですか」
新入生を食い荒らしていた美化委員たちの取り締まりならびに指導に成功したのだと奥山は言う。あの下半身の命ずるまま欲求を解消してきた獣たちをどう沈静化させたのか、貴一は風紀委員会の手腕に大変興味があった。
「次は去勢だと念書を書かせて、親元に送りつけた」
「ひえ」
「特に反抗的なものに対しては、二度と男を抱けないようにして精神的去勢をしてやった」
「治外法権かよ」
どうやら性的な拷問役も兼ね備えており、正義のためであればモラルや道徳もかなぐり捨てて制裁を加えるのが、白液学園の風紀委員会のようだ。期待を裏切ることなく、この学園の人間は皆一様におかしいと貴一は再確認させられたのであった。
本当であれば貴一だって誰彼構わずいい顔をするタラシのような学生生活を歩みたくはないのだが、ゲーム攻略のためには心を逆に鬼にして、対象キャラの心象は良くしておかなければならないのだ。
恋愛ゲームの主人公というやつは、誰に対してもどっちつかずの思わせぶりな態度取る最低野郎なのかもしれない。あと、タスク管理が異常すぎると貴一は考える。
朝は東頭、昼は奥山、それから唯一の癒し枠であるマイフェイバリットヤマザキと心の安寧を保つために交流を深めつつ、クラスメイトにも媚びを売る。攻略対象が増えれば、これ以上の緻密なスケジュール管理が必要となるであろう。
貴一はすっかり恋愛ゲームの主人公に対して、尊敬とアンチというアンビバレントな感情を抱いていた。
「奥山風紀委員長」
「貴一」
花壇には、少し前までは枯れ果てていたオオイヌノフグリが咲き誇っていた。辛い環境でも自身の生命力を疑わずに生き延びたフグリ達の姿に、貴一と奥山の目にも熱いものが滲み出る。
「ありがとう、貴一のおかげでフグリ達が息を吹き返した」
「いいえ、再び咲くことができたのはフグリ達自身の力です」
奥山はそっと貴一の肩に手をかけると、そのまま抱き寄せる。これが節操のない美化委員の男のつまみ食い目的や、東頭の行き過ぎた求愛行動のようなものであれば即座に突き飛ばすところだが、今の奥山からはフグリ達に対する感謝の念が上回っていると判断した貴一は、そのまま身を任せた。
これがフグリフグリと音声だけで聞けば、睾丸の生命力を湛え呼び合う状況でなければ、こういうのもまあ良き青春なのだろうと貴一の脳は錯覚を起こしかけている。これは正常性バイアスというものだろうか。
奥山は優し気な笑みを湛えると、貴一の短い黒髪をさらりと指で梳くようにして撫でる。
「貴一からいい香りがする」
「……そうですか?」
特に香水もデオドラントスプレーも使ってはいないがと貴一は軽く首を傾ける。
奥山はきっと、花のような爽やかな飾り気のない、けれどもとても良い匂いだ、とでも言いたかったのだろう。
「フグリの香りかな」
「やめてください」
フラグは解体作業の木材の如く、瞬時にへし折られた。
白液学園では特にイケてる生徒に関しては、東頭のような一般生徒でも親衛隊がつくものらしいが、風紀委員はそういったものを取り締まるために存在しているため親衛隊を作ることは禁止されている。また、風紀委員会のメンバーはゲイやバイセクシュアルであっても可愛い男子たちの誘惑を回避できるすべを持つ者や自制心の強い者、ノンケと呼ばれる異性愛者が多いことでも知られている。
この異様な学園の中で皆それぞれ安穏を求めて同じ境遇、認識、常識を持つ者たちが自然と同じ場所へ集まるのかもしれない。
白液学園の風紀委員たちは、一部のノンケ好きを除いて変わり者カテゴリに分類されていた。社会に出れば変わり者どころか、一歩間違えれば異常者もしくは犯罪者となりえるのは、性に対してモラルが少々破綻しすぎている白液学園の一般的な生徒たちなのだが。
爛れた学園内の数少ない良心、それが風紀委員会と呼べるかもしれない。
「(つくづく少子化に拍車をかけているなこの学園)」
薔薇の園に強制転校をさせられた貴一は、己の悲惨な境遇を思い返しては、はあとため息をついた。
「ところで先輩、最近は少し顔色良いみたいですね」
「ああ、ようやく一仕事終えたからな。睡眠もとれるようになったんだ」
「美化委員の件、解決したんですか」
新入生を食い荒らしていた美化委員たちの取り締まりならびに指導に成功したのだと奥山は言う。あの下半身の命ずるまま欲求を解消してきた獣たちをどう沈静化させたのか、貴一は風紀委員会の手腕に大変興味があった。
「次は去勢だと念書を書かせて、親元に送りつけた」
「ひえ」
「特に反抗的なものに対しては、二度と男を抱けないようにして精神的去勢をしてやった」
「治外法権かよ」
どうやら性的な拷問役も兼ね備えており、正義のためであればモラルや道徳もかなぐり捨てて制裁を加えるのが、白液学園の風紀委員会のようだ。期待を裏切ることなく、この学園の人間は皆一様におかしいと貴一は再確認させられたのであった。
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