私立白液学園~青春プロテインを沢山飲ませて♡ 僕のえくすたしー性活~というBLゲームに飛ばされた男の話

雷尾

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 都心とはいえ学校と家までの通学路は、基本的に人気がなく昼でもどこか寂しい場所だ。今日はいろいろあり過ぎて、貴一も疲れていたのだろうか。一瞬の判断ミスと油断が彼を襲う。

「え」

 間の抜けた一言を上げたのと、後頭部を強く殴られたのはほぼ同時で、脳がぐわんぐわん揺れ立ち上がることができなくなった後も、集中的に頭部を殴られ続けた。
 赤く染まった視界が次第に黒くなり、ジジッとブラウン管が壊れる様に、彼はそのまま意識を飛ばす。このまま目覚めることはないであろう予期せぬ終焉、転生先の人生もこんなものなのかと、絶望する暇もなく彼はこと切れた。

 ……はずなのだが。気が付いたら貴一は自分の身体を見下ろす形でそこに意識だけがあった。死んだ貴一の横には、先ほど自分を襲った人間がいる。黒づくめでマスクとボード用ゴーグルをつけており、その表情を窺い知ることはできない。男であるということだけは、肩回りなどの身体付きで辛うじてわかる。

『実は最近このあたりに変質者が出るらしくてな』

 ヤマザキの言っていたこいつがそれだろうか。ゴーグルの男は金属バットをケースにしまい込んでから背負うと、貴一の亡骸を担いでどこかへ歩いてゆく。行き着く先は白液学園で、奇しくもそこは貴一の教室だった。

『こいつ、何してんだ』

 意識だけになった貴一は男を止めることも、誰かを呼ぶことももうできない。男はどこから用意したのか脚立をかけると、教室の天井に首吊り用の縄をぶら下げた。さぞかし重労働だっただろう。それから貴一の死体を東頭の席の上に首吊りの状態で吊り下げて、ちょうど椅子の辺りに貴一の足がぶらんぶらん揺れる位置に調整した。それから東頭の机のうえで何かを書いている。
 それは手紙……いや、偽装された遺書だろうか。

 東頭君、好きでした。でも貴方は他の人を選びました。浮気をされて僕はもう生きていけません。いままでありがとう、さようなら。一宮 貴一

『……学が足りんのか?』

 どう見ても俺とは異なる筆跡、いろいろツッコミたいところではあるが、それは朝にみんなが来てからにするかと貴一は目を閉じる。

「お」

 衝撃のあまり忘れていたが、目を薄めたり閉じたりすると会話ログの画面などが見えることより、物語はまだ終わりではないのだろう。スキップ機能を駆使し、貴一は早朝を待った。

 朝、虫の知らせというやつだろうか、日直や朝早い生徒たちに紛れて、東頭がやってきた。自身のクラスに死体があるのだから、それはもう騒ぎとなった。

「え、きいち、なんで?」

 東頭は貴一の元へ走り寄ると、そのまま死体を降ろそうとするが周囲の人間に止められる。警察が来るまで現場を荒らしてはならないからだ。半狂乱になりながらも、東頭は自身の机に置いてある手紙を見つけ、それを読むと人目を憚ることなく大粒の涙を流した。

「俺のせいだ、俺のせいで、貴一が、貴一が自殺した……きいち、きいちぃいい!」

「そんな、まさか自殺なんて」

「そこまで東頭の事が好きだったなら、なんで!」

「僕たちのせいだ、嫉妬で彼を追い詰めてしまったからぁ!」

『学が足りんのか?』

 当事者(霊体)は至って冷静である。まあいいでしょう、昨日の変質者みたいに俺は脚立を持ってきてここに縄をかけて、また脚立を元の場所に戻して頑張って教室で首を釣って死んだということにしましょう。こいつらには俺の頭から零れ落ちる血にも気づかないのかね、と頭を抱える。

 貴一の身体には致命傷となった頭部の傷や、引きずられた際に着いた擦り傷や泥の汚れなど、首吊りにしてはおかしい点が多々あるというのに。
 こいつら恋愛ゲームばかりやっててミステリーやホラーには興味ないのかねと貴一は思う。なんなら筆跡比べのヒントとして、俺の国語のノートでもその辺に放り投げといてやろうかと親切心まで出してやりたくなる。

 その後は警察が来て調査が入り、無論授業は中止となった。変質者が人を殺したのである、生徒を返すのは当然だろうと貴一は思うが。
 調査の結果、貴一は自殺と判断された。

『この世界の警察は無能か?』

 警察なら検死ぐらい呼びなさいよと、2時間ドラマが大好きだった貴一は激怒した。その後の展開は、(なった覚えはないが)恋人の貴一を死なせてしまった東頭は、人が変わったように他の男に手を出さなくなり、生涯貴一を思い、贖罪に人生を捧げるという鬱展開で終わった。
 アホらしい、貴一は目を引ん剝くと、そのまま意識を失った。

『……いち、きいち』

誰かの呼ぶ声が聞こえる。うっすら目を開くと貴一はあの白い部屋にいた。

「おい」

『初エンディングおめでとう。攻略が難しかったかな。ヒント欲しいよね』

「いや、おい」

 おかしいだろう。貴一は抗議する。ゲームとはいえ彼は死んだのだ。死んだ人間が二度もほいほい生き返るのはおかしいだろうと、彼はオブザーバーに訴えかける。

『東頭君に飽きたんなら、次は他のキャラクターにしてみる? 』

「……」

 彼が白液学園、つまりはゲーム内にいる間、メニュー画面にあるものを見つけた。気にも留めていなかったそれはエンディングリストだ。エンディングリストは枠ブチがそれぞれ「キャラごとに」色分けされていた。

「……して」

『うん? どうしたの』

「何をもってして、クリアなんだ?」

 このゲームは、この終わりは。俺の人生は。

『……沢山楽しんで、この世界を』

 このゲームを。時間は沢山あるよ。

貴一は思う、どうやら死ぬよりひどい場所に連れてこられたかもしれないと。
それがどんな形であれ、必ずこの世界から抜け出さねばならない。それが本当の死でもそれ以外の何かでも、ここは俺のいる場所ではない、逃げなくてはならない。けれども白い悪意は優しい善意で招き入れる。
孤軍奮闘、貴一は終わりの見えない戦いに身を投じることを、決意した。
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