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「貴一、一緒に昼食おうぜ」
「この後遊びに行かねえ? あのゲーセンにお前の好きなソシャゲのキャラいるらしいぜ」
東頭という男は貴一と仲良くなりたいらしく、事あるごとに声をかけて来た。というよりも、貴一が他のクラスメイトに声をかけようとすると、どこからともなく現れて割って入って来る始末だ。友人に対するそれとしては、束縛が強すぎると貴一は思う。
けれども貴一がゲーム操作と世界観にまごついているうちに、東頭の機嫌はみるみるうちに悪くなってゆき、そのうちにつっけんどんな態度を見せる様になった。
「(好感度でも下がったか)」
貴一が薄目で東頭を見ると、意外なことに好感度のゲージがわかるバーはマックスに近い状態だ。どうやらこのゲーム(名前を出すのも憚られるあのゲームと貴一は呼ぶ)に転生した際にほぼ「強くてニューゲーム状態」でゲームを始められたのだと悟る。
……このようなゲームに転生したのならば、順応力の高さと察する能力がないととてもとても生きてはゆけないのだ。
ある日、授業の終わりに珍しく東頭に絡まれなかった貴一は、クラスメイトと一言二言ほど言葉を交わすと、そのまま校門を出て街をぶらつくことにする。理由としては少々の気晴らしもあるが、無論攻略と情報収集のためである。
このゲーム(私立白液学園~青春プロテインを沢山飲ませて♡ 僕のえくすたしー性活~)は、生前BL好きでマイナーゲームも手を出し尽くした貴一の妹ですら、タイトルを口にしたことがなかった。
よっぽどマイナーなゲームか、あるいはどこかの同人ゲームであるか。いずれにせよこの世界をエンジョイするつもりは毛頭ないが、平和に生き残るためにも情報というものは大切である。
「(あれは)」
ゲーセンに立ち寄ろうとしたところ、見知った姿があった。一人は東頭、もう一人は同じ学校の生徒のようだ。東頭よりも頭一つ分ぐらい小さい小柄な男の子で、ふわふわしたミルクティ色の柔らかい毛やうるうるした大きな目、小さくも形の良い鼻梁や唇は美少年といって差し支えないだろう。
守ってあげたくなるようなその華奢な姿は、この手のゲームや小説を読んだものなら瞬時にこう思うであろう。
「ああ、この当て馬は受けだ」と。
東頭の手を控えめにつなごうとする当て馬は健気で、ようやく気付いたといった風に乱暴に指を絡められると、目に見えるほど顔を真っ赤にさせてもじもじしている。
そんな様子に攻め(東頭)はフハッと笑うと、当て馬の頭をぽんぽんごく軽く叩くように撫でる。当て馬はきゅうんと胸を高鳴らせると(小説の比喩的表現ではない。ゲームの仕様上、文字通りテロップと効果音が付く)つま先立ちで東頭の首に両腕を絡ませ、その唇を東頭の唇に押し付けた。
「…………」
で、これを見せられた自分はどうしろと言うのだろう。
貴一は自身がゲームの主人公であることを忘れ「うわぁ」とげんなりした様子を隠そうともせず、目の前の男たちのラブシーンを無の感情と表情で眺めていた。眺めたくはないのだが、初めてのイベントシーンなので仕様上すっ飛ばすこともできないようだ。
これが東頭に恋をしている主人公であれば、ショックを受けてこの場から走って立ち去るのが正解かもしれないが、貴一は性嗜好についてはノンケである。今はダイバーシティ&インクルージョン(簡単に言うと多様性という意味だ。漢字なら3文字で済むのに)の時代なので同性愛などに偏見はないが、これまで知識以上の関心もなく学生時代にできた元恋人も「元彼女」であった。
社会人になってからは仕事に忙殺され、23歳独り身絶賛恋人募集中だった自分がトラックに跳ねられこのようになるとは、神はこの世にいるのだろうか。
「せめて、ギャルゲーだったらなぁ」
いかに可愛く見えても、東頭と一緒にいるあの子やクラスメイトのかわいい子はもれなくすべて「男子」だ。このゲーム(貴一は白プロ♡ と略すことにした)の学校は山奥に建てられた閉鎖された寄宿学校などではない。
そこそこ都会にある進学校であり、何故かイケメンや可愛い子(皆等しく男)だらけなのだが、他所で女を作ろうという考えはこの生徒たちには無いようだ、というレベルでとにかく男×男のカップルが多かった。
「何故だ。この世界の女性は死に絶えたのか?」
問いかけども問いかけども誰も反応してくれない。学校は引くほど男ばかりだが、街中には店員さんや他校の女子高生やスーツ姿のお姉さんや子供たちなどを見かけるのに。
不思議と彼女らの顔を思い出すことができない。それがたとえゲームの中の話とはいえ、主人公自身の母親であっても。
「あ」
そういえば、俺の好きなソシャゲのゲームキャラがゲーセンにいると言っていた。貴一自身は知らなかったが「主人公」が好きなソシャゲ「精液物語(タイトルセンスをいい加減にしてほしいとは貴一の談だ)」に出てくるチンアナゴのキャラマスコットは普通に可愛かったので、貴一はコインを何度か投下してマスコットをゲットし、さっそく学生鞄に取り付けてから家路についた。
「この後遊びに行かねえ? あのゲーセンにお前の好きなソシャゲのキャラいるらしいぜ」
東頭という男は貴一と仲良くなりたいらしく、事あるごとに声をかけて来た。というよりも、貴一が他のクラスメイトに声をかけようとすると、どこからともなく現れて割って入って来る始末だ。友人に対するそれとしては、束縛が強すぎると貴一は思う。
けれども貴一がゲーム操作と世界観にまごついているうちに、東頭の機嫌はみるみるうちに悪くなってゆき、そのうちにつっけんどんな態度を見せる様になった。
「(好感度でも下がったか)」
貴一が薄目で東頭を見ると、意外なことに好感度のゲージがわかるバーはマックスに近い状態だ。どうやらこのゲーム(名前を出すのも憚られるあのゲームと貴一は呼ぶ)に転生した際にほぼ「強くてニューゲーム状態」でゲームを始められたのだと悟る。
……このようなゲームに転生したのならば、順応力の高さと察する能力がないととてもとても生きてはゆけないのだ。
ある日、授業の終わりに珍しく東頭に絡まれなかった貴一は、クラスメイトと一言二言ほど言葉を交わすと、そのまま校門を出て街をぶらつくことにする。理由としては少々の気晴らしもあるが、無論攻略と情報収集のためである。
このゲーム(私立白液学園~青春プロテインを沢山飲ませて♡ 僕のえくすたしー性活~)は、生前BL好きでマイナーゲームも手を出し尽くした貴一の妹ですら、タイトルを口にしたことがなかった。
よっぽどマイナーなゲームか、あるいはどこかの同人ゲームであるか。いずれにせよこの世界をエンジョイするつもりは毛頭ないが、平和に生き残るためにも情報というものは大切である。
「(あれは)」
ゲーセンに立ち寄ろうとしたところ、見知った姿があった。一人は東頭、もう一人は同じ学校の生徒のようだ。東頭よりも頭一つ分ぐらい小さい小柄な男の子で、ふわふわしたミルクティ色の柔らかい毛やうるうるした大きな目、小さくも形の良い鼻梁や唇は美少年といって差し支えないだろう。
守ってあげたくなるようなその華奢な姿は、この手のゲームや小説を読んだものなら瞬時にこう思うであろう。
「ああ、この当て馬は受けだ」と。
東頭の手を控えめにつなごうとする当て馬は健気で、ようやく気付いたといった風に乱暴に指を絡められると、目に見えるほど顔を真っ赤にさせてもじもじしている。
そんな様子に攻め(東頭)はフハッと笑うと、当て馬の頭をぽんぽんごく軽く叩くように撫でる。当て馬はきゅうんと胸を高鳴らせると(小説の比喩的表現ではない。ゲームの仕様上、文字通りテロップと効果音が付く)つま先立ちで東頭の首に両腕を絡ませ、その唇を東頭の唇に押し付けた。
「…………」
で、これを見せられた自分はどうしろと言うのだろう。
貴一は自身がゲームの主人公であることを忘れ「うわぁ」とげんなりした様子を隠そうともせず、目の前の男たちのラブシーンを無の感情と表情で眺めていた。眺めたくはないのだが、初めてのイベントシーンなので仕様上すっ飛ばすこともできないようだ。
これが東頭に恋をしている主人公であれば、ショックを受けてこの場から走って立ち去るのが正解かもしれないが、貴一は性嗜好についてはノンケである。今はダイバーシティ&インクルージョン(簡単に言うと多様性という意味だ。漢字なら3文字で済むのに)の時代なので同性愛などに偏見はないが、これまで知識以上の関心もなく学生時代にできた元恋人も「元彼女」であった。
社会人になってからは仕事に忙殺され、23歳独り身絶賛恋人募集中だった自分がトラックに跳ねられこのようになるとは、神はこの世にいるのだろうか。
「せめて、ギャルゲーだったらなぁ」
いかに可愛く見えても、東頭と一緒にいるあの子やクラスメイトのかわいい子はもれなくすべて「男子」だ。このゲーム(貴一は白プロ♡ と略すことにした)の学校は山奥に建てられた閉鎖された寄宿学校などではない。
そこそこ都会にある進学校であり、何故かイケメンや可愛い子(皆等しく男)だらけなのだが、他所で女を作ろうという考えはこの生徒たちには無いようだ、というレベルでとにかく男×男のカップルが多かった。
「何故だ。この世界の女性は死に絶えたのか?」
問いかけども問いかけども誰も反応してくれない。学校は引くほど男ばかりだが、街中には店員さんや他校の女子高生やスーツ姿のお姉さんや子供たちなどを見かけるのに。
不思議と彼女らの顔を思い出すことができない。それがたとえゲームの中の話とはいえ、主人公自身の母親であっても。
「あ」
そういえば、俺の好きなソシャゲのゲームキャラがゲーセンにいると言っていた。貴一自身は知らなかったが「主人公」が好きなソシャゲ「精液物語(タイトルセンスをいい加減にしてほしいとは貴一の談だ)」に出てくるチンアナゴのキャラマスコットは普通に可愛かったので、貴一はコインを何度か投下してマスコットをゲットし、さっそく学生鞄に取り付けてから家路についた。
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