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「ああ、あとそれと、じゃあ正妃は諦めて愛妾に、と思われるのは構いませんが、愛妾も迎えられるのは婚姻後三年経ってからですよ?」
我が国では、国民全て一夫一妻と定められている。勿論王族もだ。ただ、血を残す事を重んじる貴族王族は、結婚してから三年経っても嫡子が得られなかった場合のみ、正妻の同意を得て貴族院に申請し認められた後のみ、愛妾として第二夫人を迎える事が許されている。
諸外国には側妃愛妾わんさかいてハーレム? 後宮? を作ってる王族とかも居るらしいが、この国では百年くらい前に当時の王妃様が、滅茶苦茶反対やら妨害に遭いながらも女性の地位向上を掲げ、改革を進めたのだ。その頃までは政略結婚で妻を迎えたにも拘らず放置し、愛人を何人も囲うようなクズも多かったらしいが、貴族院で認められないと愛妾を迎える事が出来なくなり、それも妻を不当に虐げていないかとか厳しく調べてからでないと許可が下りなくなった。
貴族の怖いとこは、閨を共にしているのかどうかが、他人にまるわかりだと言う事だ。おかげでその辺りまでしっかりと決められていて、理由無く三ヶ月以上閨を共にしていない場合は、妻を不当に扱っているとされ許可が下りない。愛妾を迎えるのはあくまで嫡子が出来ない時のみの措置とされているのだ。
勿論許可を得ず愛人を囲う事も出来るが、その愛人に何人子が出来ようが実子と認められず、継承権も無い。
妻の同意が無い内に妻が亡くなった場合とか、愛妾ではなく養女にしてその後に正妻に、とか問題やら抜け道やらがいろいろあるらしいが、 その辺は今は関係ないのでスルーだ。
まあ要するに、殿下がマーリィ嬢を正妃として迎えるなら後ろ楯のフレイム家を失った状態で五年必要だし、愛妾にするにしても正妃として迎えるだろうシェリア嬢を蔑ろにせず、尚且つ嫡子が居ない状態、更にシェリア嬢の同意を得た上で三年必要だ。
……堪え性の無いこいつに待てんの? 無理でしょ。その上どう考えても既に行き遅れ気味のあの女が、死ぬ程大変な努力を五年間してくれ、って言われて喜んですると思えねぇし。間違いなくなんだかんだ理由をつけて逃げると思うね。
「という事です。お分かりいただけましたか?」
「な、何か方法は無いのか!? 貴様の脳みそはこういう時に役立てる物だろう!?」
酷ぇ言い草だな、仕事たんまり押し付けてる癖に。俺の脳みそは法律の抜け穴を探すためにあるんじゃねぇよ、と思わず冷めた目でサーヴァルトを見つめると、ちょっと気不味いのかサーヴァルトが怯んだ。
「さあ? 私にはわかりかねますね。殿下の優秀な方の側近に考えていただいたらどうです? 書類仕事しか任せられない優秀でない方の私ではなく」
こいつの俺以外の側近三人は皆伯爵以上の家の嫡男だ。俺が口酸っぱく苦言を申し立てていたせいで、格下の俺を排除しようとこいつに進言していたのは知っている。ならこういう時に役立ってもらいましょうよ。
こいつも前はもうちょっとマシだったんだけどなあ。なんていうか……負の相乗効果っていうの? ちょっとずつ足りない同士が集まって補いあえばいいものを、マイナス面を増長させただけ、ってのはなんだかなあと思う。将来国を背負わせていくつもりなら、もうちょっとちゃんとした大人に面倒見させないと駄目だろ。……って俺って年寄り臭いかな。
「お話はそれだけですか? なら、あとは彼らとご相談ください。私はまだまだ書類仕事残ってますんで。あ、それか殿下も今日は執務なさいますか? あの辺りの書類を片付けて頂けると助かりますね」
本来は殿下と俺を含めた側近四人で片付けるべき量の書類仕事だ。出来るだけ緊急の物から捌いてるつもりだが、増えるペースが早いので余裕をもって仕事が出来ない。実は今までも会話をしながら手を動かしていた。
ここで『わかったじゃあ今日は』……となるならちょっとは見直すんだが、机に積まれた書類を見て若干顔を青くさせたサーヴァルトは、あいつらと相談する、と言ってそそくさと執務室から逃げ出した。
その後ろ姿を見て俺は思った。ここいらが潮時かな、と。
我が国では、国民全て一夫一妻と定められている。勿論王族もだ。ただ、血を残す事を重んじる貴族王族は、結婚してから三年経っても嫡子が得られなかった場合のみ、正妻の同意を得て貴族院に申請し認められた後のみ、愛妾として第二夫人を迎える事が許されている。
諸外国には側妃愛妾わんさかいてハーレム? 後宮? を作ってる王族とかも居るらしいが、この国では百年くらい前に当時の王妃様が、滅茶苦茶反対やら妨害に遭いながらも女性の地位向上を掲げ、改革を進めたのだ。その頃までは政略結婚で妻を迎えたにも拘らず放置し、愛人を何人も囲うようなクズも多かったらしいが、貴族院で認められないと愛妾を迎える事が出来なくなり、それも妻を不当に虐げていないかとか厳しく調べてからでないと許可が下りなくなった。
貴族の怖いとこは、閨を共にしているのかどうかが、他人にまるわかりだと言う事だ。おかげでその辺りまでしっかりと決められていて、理由無く三ヶ月以上閨を共にしていない場合は、妻を不当に扱っているとされ許可が下りない。愛妾を迎えるのはあくまで嫡子が出来ない時のみの措置とされているのだ。
勿論許可を得ず愛人を囲う事も出来るが、その愛人に何人子が出来ようが実子と認められず、継承権も無い。
妻の同意が無い内に妻が亡くなった場合とか、愛妾ではなく養女にしてその後に正妻に、とか問題やら抜け道やらがいろいろあるらしいが、 その辺は今は関係ないのでスルーだ。
まあ要するに、殿下がマーリィ嬢を正妃として迎えるなら後ろ楯のフレイム家を失った状態で五年必要だし、愛妾にするにしても正妃として迎えるだろうシェリア嬢を蔑ろにせず、尚且つ嫡子が居ない状態、更にシェリア嬢の同意を得た上で三年必要だ。
……堪え性の無いこいつに待てんの? 無理でしょ。その上どう考えても既に行き遅れ気味のあの女が、死ぬ程大変な努力を五年間してくれ、って言われて喜んですると思えねぇし。間違いなくなんだかんだ理由をつけて逃げると思うね。
「という事です。お分かりいただけましたか?」
「な、何か方法は無いのか!? 貴様の脳みそはこういう時に役立てる物だろう!?」
酷ぇ言い草だな、仕事たんまり押し付けてる癖に。俺の脳みそは法律の抜け穴を探すためにあるんじゃねぇよ、と思わず冷めた目でサーヴァルトを見つめると、ちょっと気不味いのかサーヴァルトが怯んだ。
「さあ? 私にはわかりかねますね。殿下の優秀な方の側近に考えていただいたらどうです? 書類仕事しか任せられない優秀でない方の私ではなく」
こいつの俺以外の側近三人は皆伯爵以上の家の嫡男だ。俺が口酸っぱく苦言を申し立てていたせいで、格下の俺を排除しようとこいつに進言していたのは知っている。ならこういう時に役立ってもらいましょうよ。
こいつも前はもうちょっとマシだったんだけどなあ。なんていうか……負の相乗効果っていうの? ちょっとずつ足りない同士が集まって補いあえばいいものを、マイナス面を増長させただけ、ってのはなんだかなあと思う。将来国を背負わせていくつもりなら、もうちょっとちゃんとした大人に面倒見させないと駄目だろ。……って俺って年寄り臭いかな。
「お話はそれだけですか? なら、あとは彼らとご相談ください。私はまだまだ書類仕事残ってますんで。あ、それか殿下も今日は執務なさいますか? あの辺りの書類を片付けて頂けると助かりますね」
本来は殿下と俺を含めた側近四人で片付けるべき量の書類仕事だ。出来るだけ緊急の物から捌いてるつもりだが、増えるペースが早いので余裕をもって仕事が出来ない。実は今までも会話をしながら手を動かしていた。
ここで『わかったじゃあ今日は』……となるならちょっとは見直すんだが、机に積まれた書類を見て若干顔を青くさせたサーヴァルトは、あいつらと相談する、と言ってそそくさと執務室から逃げ出した。
その後ろ姿を見て俺は思った。ここいらが潮時かな、と。
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