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「あー。……結論から言うと、殿下がマーリィ嬢を妃にするのはどのみち無理ですね」
「なんだとっ!? 貴様もあの女と同じでマーリィを格下と思って虐げる気か!?」
「いえ、事実を申し上げただけです。我が国では法律で王族の正妃として迎えられるのは、侯爵家、公爵家、及び王族の令嬢のみと決まっておりますので」
「ふん、なんだそんな事か。そんなものは何処かの侯爵家辺りに養女に迎えさせればいい。適当に金か何かを握らせれば問題ない。そんな事もわからんのか」
「まあ、確かに養女となれぱ資格は得られますね。最短五年後ですが」
「はっ!? 五年……? ってなんだそれは!?」
やっぱり知らなくてこんなこと言い出してんのか。全く……教育係はなにやってたんだ?
「何だもくそもありません、言葉通りですよ。王妃となる者に必要なのは知性と深い教養、鋭い感性、それに国民全ての上に立つ覚悟です。癒しでも愛嬌でも、誰もが目を見張るような美貌でもありません。諸外国語を習得し、マナーもダンスも完璧、常に冷静沈着に大局を見る目が求められます」
それこそシェリア嬢が認められているのは、そういう部分だ。シェリア嬢はきちんと理解し努力をしていた素晴らしい女性だと思う。
「侯爵令嬢ですら、必死で努力をしないと身に付かないそれを、正妃に迎えたいからといって下級貴族や平民の娘を養女として教育させたとしても、付け焼き刃にしかなりません。しっかりと身に付くにはそれなりの年月が必要となります。その為実子でない場合は養女としてから五年間の教育期間を要す、と王室典範に定められているのです」
俺も詳しくは知らないが、何代か前の王太子がやらかしたらしく、婚約者だった侯爵令嬢を冤罪で追放し、平民の娘を公爵の養女にさせた後に正妃に迎えたらしいのだが、簡単なマナーすらなかなか身に付かず傍若無人な振る舞いで何度も問題を起こした為、王太子を廃嫡、国のすみっこにある小さな伯爵領を与えて妃もろとも放逐した、という事件があったらしい。……どっかで聞いた話と似てるよな。で、それを教訓にその後王太子から国王となった第二王子と司法局が話し合い、王室典範に付け加えたそうだ。
「それだけではありませんよ。生まれが上位貴族でない娘を婚約者にしたい場合は、貴族院が行う定期試験に規定回数合格し続けなければなりませんね」
流石に受けたことないんで細かい内容までは知らないが、定期なのは期間だけで中身は毎回お題が違うとの噂だ。例えばマナーを見る回もあれば刺繍の出来を見る回、芸術作品を見て解説を行う、他国の者とどれだけ流暢に会話が出来るか、など多岐にわたるらしい。毎回内容が変わるのは試験官の買収を防ぐ為とか聞いた日にゃ、どうせそれで合格したところですぐバレるだろうにと呆れたもんだが。
「確かマーリィ嬢は殿下と同じ十九歳でしたね」
殿下が十九歳、シェリア嬢が十七歳。シェリア嬢が十八歳になったら結婚式を挙げる予定だった。正直、令嬢が十九にもなってから行儀見習いに王宮へ上がってくる様では、本人か家に問題があって良い縁談が難しいので職業婦人になる為か、それこそどっかのハゲジジイの愛妾にでもする為、と言ってる様なもんなんだがな。あとは誰か身分と金のある男を王宮でひっかけさせる為か。……そういや引っ掛かってる阿呆が四人も居たわ。
「今から養女に迎えてもらったとしても、早くて二十四歳。貴族教育の進捗次第では更に延びます。それまでお待ち頂けるのでしたらどうぞどちらかのお家に相談して下さい。あ、その場合、マーリィ嬢が正式に婚約者となるまでにかかる費用は、殿下のポケットマネーから出して下さいね。それもそう決められてますので」
「なっ、なんだと!? そ、それは……う……」
普段からふらふら遊び歩いたり、女性にほいほい渡してるプレゼントの費用は、国民から徴収した税金から分けられたこいつの小遣いだ。庶民からすればとんでもない金額だが、令嬢一人に最高級の教育を施す為の費用となると、恐らくまるっと無くなるだろう。流石にそれはわかるのか、サーヴァルトは冷や汗をかきながら、目を泳がせる。
「なんだとっ!? 貴様もあの女と同じでマーリィを格下と思って虐げる気か!?」
「いえ、事実を申し上げただけです。我が国では法律で王族の正妃として迎えられるのは、侯爵家、公爵家、及び王族の令嬢のみと決まっておりますので」
「ふん、なんだそんな事か。そんなものは何処かの侯爵家辺りに養女に迎えさせればいい。適当に金か何かを握らせれば問題ない。そんな事もわからんのか」
「まあ、確かに養女となれぱ資格は得られますね。最短五年後ですが」
「はっ!? 五年……? ってなんだそれは!?」
やっぱり知らなくてこんなこと言い出してんのか。全く……教育係はなにやってたんだ?
「何だもくそもありません、言葉通りですよ。王妃となる者に必要なのは知性と深い教養、鋭い感性、それに国民全ての上に立つ覚悟です。癒しでも愛嬌でも、誰もが目を見張るような美貌でもありません。諸外国語を習得し、マナーもダンスも完璧、常に冷静沈着に大局を見る目が求められます」
それこそシェリア嬢が認められているのは、そういう部分だ。シェリア嬢はきちんと理解し努力をしていた素晴らしい女性だと思う。
「侯爵令嬢ですら、必死で努力をしないと身に付かないそれを、正妃に迎えたいからといって下級貴族や平民の娘を養女として教育させたとしても、付け焼き刃にしかなりません。しっかりと身に付くにはそれなりの年月が必要となります。その為実子でない場合は養女としてから五年間の教育期間を要す、と王室典範に定められているのです」
俺も詳しくは知らないが、何代か前の王太子がやらかしたらしく、婚約者だった侯爵令嬢を冤罪で追放し、平民の娘を公爵の養女にさせた後に正妃に迎えたらしいのだが、簡単なマナーすらなかなか身に付かず傍若無人な振る舞いで何度も問題を起こした為、王太子を廃嫡、国のすみっこにある小さな伯爵領を与えて妃もろとも放逐した、という事件があったらしい。……どっかで聞いた話と似てるよな。で、それを教訓にその後王太子から国王となった第二王子と司法局が話し合い、王室典範に付け加えたそうだ。
「それだけではありませんよ。生まれが上位貴族でない娘を婚約者にしたい場合は、貴族院が行う定期試験に規定回数合格し続けなければなりませんね」
流石に受けたことないんで細かい内容までは知らないが、定期なのは期間だけで中身は毎回お題が違うとの噂だ。例えばマナーを見る回もあれば刺繍の出来を見る回、芸術作品を見て解説を行う、他国の者とどれだけ流暢に会話が出来るか、など多岐にわたるらしい。毎回内容が変わるのは試験官の買収を防ぐ為とか聞いた日にゃ、どうせそれで合格したところですぐバレるだろうにと呆れたもんだが。
「確かマーリィ嬢は殿下と同じ十九歳でしたね」
殿下が十九歳、シェリア嬢が十七歳。シェリア嬢が十八歳になったら結婚式を挙げる予定だった。正直、令嬢が十九にもなってから行儀見習いに王宮へ上がってくる様では、本人か家に問題があって良い縁談が難しいので職業婦人になる為か、それこそどっかのハゲジジイの愛妾にでもする為、と言ってる様なもんなんだがな。あとは誰か身分と金のある男を王宮でひっかけさせる為か。……そういや引っ掛かってる阿呆が四人も居たわ。
「今から養女に迎えてもらったとしても、早くて二十四歳。貴族教育の進捗次第では更に延びます。それまでお待ち頂けるのでしたらどうぞどちらかのお家に相談して下さい。あ、その場合、マーリィ嬢が正式に婚約者となるまでにかかる費用は、殿下のポケットマネーから出して下さいね。それもそう決められてますので」
「なっ、なんだと!? そ、それは……う……」
普段からふらふら遊び歩いたり、女性にほいほい渡してるプレゼントの費用は、国民から徴収した税金から分けられたこいつの小遣いだ。庶民からすればとんでもない金額だが、令嬢一人に最高級の教育を施す為の費用となると、恐らくまるっと無くなるだろう。流石にそれはわかるのか、サーヴァルトは冷や汗をかきながら、目を泳がせる。
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