2 / 7
2
しおりを挟む
そんな中、最近いつも一緒に居るマーリィ嬢は、王宮に侍女として行儀見習いにあがってきている男爵令嬢だ。これまで侍らせている女性の中では珍しく期間が長い。それに殿下だけじゃなく、役立たず三人衆の側近達もどうやら入れ揚げている様だ。俺の所にも何回か来てなんか甘っちょろい事言ってたけど、聞く価値無いんで左から右に聞き流してたら来なくなったっけ。
確かに見目はいい。金色のふわふわした髪に、エメラルドみたいな瞳。『ウチにはあんまりお金が無いから……』って言ってヒールのないぺったんこの革靴履いてるのは、絶対わざとだと思う程度には態度があざとい。ちょくちょく上目使いで四人にそれぞれおねだりしてるのを見掛けた。あのいかにもか弱いですぅ、って商売女みたいな態度にコロッと引っ掛かったんだろう。阿呆だ。
女を侍らしてはいても、人目を気にしてか複数人同時に置いていた事は無いこいつと違い、あの女は殿下ら四人同時に粉をかけていた。自分が侍らせているつもりだが、侍らされている事に気付いて居ない。やっぱり阿呆だ。
そんな阿婆擦れにあの完璧令嬢シェリア様が虐め? ……天地がひっくり返ってもあり得ねぇ。なにせこのぼんくらとの婚約は王命で殿下を王位に就ける為のものだ。罰ゲームかよ、ってくらいフレイム家にメリットは薄い。虐めを行う理由が全く見当たらない。
シェリア嬢はちゃんと教育を受けていて、貴族令嬢とはどういうものか、王妃になるとはどういう事かをきちんと弁えている。が、そこには王太子への愛は無いっぽい。彼女の殿下への態度は慇懃無礼と言えなくもない時があるんで。多分殿下は全く気付いてなくて、単にへりくだって媚を売っているだけだと思ってるみたいだけど。あのシェリア嬢の態度で、自分が好かれていると思える脳内がおめでたすぎて頭を抱えたくなるが。下手に阿呆に権力があると、こういうことになるんだ、という見本の様だ。
「あのシェリア嬢が虐め……って、一体何やったって言うんですか?」
「ふん。事もあろうに身分差を持ち出してマーリィを貶めたのだ」
え。……身分差はしょうがないっしょ。あんただって王太子の身分振りかざして嫌々な俺を取り立てたし。そもそもマナーのなってない下の者を注意するのは普通だろ? あのマーリィ嬢は『行儀ってなに?』を地で行く女で、何のために王宮来てんだよ、って言いたくなる程無作法だ。取り澄ました貴族令嬢にちやほやされるだけじゃ飽きたらなくなったこいつらの目には随分と新鮮に映った様だが。結局あのあからさまな褒め言葉にいい気になってるだけなのだ。
「それから、紅茶をドレスにかけた!」
それ、俺が聞いたの逆だなあ。シェリア嬢が王太子妃教育の一環で開いたお茶会に侍女としてお茶を供するときに、カップひっくり返して危うく火傷させるとこだったって聞いたぞ? 見習いだからって事で注意だけですんだのはシェリア嬢が取りなしたからだし。
「それに母の形見の品を取り上げて壊したとも聞いた」
ん? マーリィ嬢が殿下の周りをうろちょろするようになった時に彼女の家庭環境も調べさせたけど、俺の記憶が正しければ、彼女の両親である男爵夫妻は二人とも健在だった筈だぞ? 夫人が後妻って話もなかった筈だし、マーリィ嬢が養子って話も無かったと思ったけどな。……となると殿下の気を引くための嘘か?
「挙げ句に階段の途中ですれ違いざま突き落とそうとしたと聞いたぞ!」
いや、まずそれ前提としてマナー違反。身分が上の者と階段でかち合った時、身分が下の者は一旦踊り場まで戻って通りすぎるまで頭を下げないと駄目だろ。何せ侍女なんだから。その上王太子の婚約者が一人で王宮をうろつく訳がない。必ず専属侍女と護衛騎士が付いてんのこいつわかってねぇの? そもそも『落とした』じゃなく『落とそうとした』だけで罪になる訳ねぇし。
確かに見目はいい。金色のふわふわした髪に、エメラルドみたいな瞳。『ウチにはあんまりお金が無いから……』って言ってヒールのないぺったんこの革靴履いてるのは、絶対わざとだと思う程度には態度があざとい。ちょくちょく上目使いで四人にそれぞれおねだりしてるのを見掛けた。あのいかにもか弱いですぅ、って商売女みたいな態度にコロッと引っ掛かったんだろう。阿呆だ。
女を侍らしてはいても、人目を気にしてか複数人同時に置いていた事は無いこいつと違い、あの女は殿下ら四人同時に粉をかけていた。自分が侍らせているつもりだが、侍らされている事に気付いて居ない。やっぱり阿呆だ。
そんな阿婆擦れにあの完璧令嬢シェリア様が虐め? ……天地がひっくり返ってもあり得ねぇ。なにせこのぼんくらとの婚約は王命で殿下を王位に就ける為のものだ。罰ゲームかよ、ってくらいフレイム家にメリットは薄い。虐めを行う理由が全く見当たらない。
シェリア嬢はちゃんと教育を受けていて、貴族令嬢とはどういうものか、王妃になるとはどういう事かをきちんと弁えている。が、そこには王太子への愛は無いっぽい。彼女の殿下への態度は慇懃無礼と言えなくもない時があるんで。多分殿下は全く気付いてなくて、単にへりくだって媚を売っているだけだと思ってるみたいだけど。あのシェリア嬢の態度で、自分が好かれていると思える脳内がおめでたすぎて頭を抱えたくなるが。下手に阿呆に権力があると、こういうことになるんだ、という見本の様だ。
「あのシェリア嬢が虐め……って、一体何やったって言うんですか?」
「ふん。事もあろうに身分差を持ち出してマーリィを貶めたのだ」
え。……身分差はしょうがないっしょ。あんただって王太子の身分振りかざして嫌々な俺を取り立てたし。そもそもマナーのなってない下の者を注意するのは普通だろ? あのマーリィ嬢は『行儀ってなに?』を地で行く女で、何のために王宮来てんだよ、って言いたくなる程無作法だ。取り澄ました貴族令嬢にちやほやされるだけじゃ飽きたらなくなったこいつらの目には随分と新鮮に映った様だが。結局あのあからさまな褒め言葉にいい気になってるだけなのだ。
「それから、紅茶をドレスにかけた!」
それ、俺が聞いたの逆だなあ。シェリア嬢が王太子妃教育の一環で開いたお茶会に侍女としてお茶を供するときに、カップひっくり返して危うく火傷させるとこだったって聞いたぞ? 見習いだからって事で注意だけですんだのはシェリア嬢が取りなしたからだし。
「それに母の形見の品を取り上げて壊したとも聞いた」
ん? マーリィ嬢が殿下の周りをうろちょろするようになった時に彼女の家庭環境も調べさせたけど、俺の記憶が正しければ、彼女の両親である男爵夫妻は二人とも健在だった筈だぞ? 夫人が後妻って話もなかった筈だし、マーリィ嬢が養子って話も無かったと思ったけどな。……となると殿下の気を引くための嘘か?
「挙げ句に階段の途中ですれ違いざま突き落とそうとしたと聞いたぞ!」
いや、まずそれ前提としてマナー違反。身分が上の者と階段でかち合った時、身分が下の者は一旦踊り場まで戻って通りすぎるまで頭を下げないと駄目だろ。何せ侍女なんだから。その上王太子の婚約者が一人で王宮をうろつく訳がない。必ず専属侍女と護衛騎士が付いてんのこいつわかってねぇの? そもそも『落とした』じゃなく『落とそうとした』だけで罪になる訳ねぇし。
49
お気に入りに追加
790
あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。



転生者だからって無条件に幸せになれると思うな。巻き込まれるこっちは迷惑なんだ、他所でやれ!!
柊
ファンタジー
「ソフィア・グラビーナ!」
卒業パーティの最中、突如響き渡る声に周りは騒めいた。
よくある断罪劇が始まる……筈が。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!

【短編】国王陛下は王子のフリを見て我がフリを反省した
宇水涼麻
ファンタジー
国王は、悪い噂のある息子たちを謁見の間に呼び出した。そして、目の前で繰り広げられているバカップルぶりに、自分の過去を思い出していた。
国王は自分の過去を反省しながら、息子たちへ対応していく。
N番煎じの婚約破棄希望話です。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた
月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」
高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。
この婚約破棄は数十分前に知ったこと。
きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ!
「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」
だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。
「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」
「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」
「憎いねこの色男!」
ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。
「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」
「女泣かせたぁこのことだね!」
「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」
「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」
さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。
設定はふわっと。
『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

乙女ゲームは始まらない
まる
ファンタジー
きっとターゲットが王族、高位貴族なら物語ははじまらないのではないのかなと。
基本的にヒロインの子が心の中の独り言を垂れ流してるかんじで言葉使いは乱れていますのでご注意ください。
世界観もなにもふんわりふわふわですのである程度はそういうものとして軽く流しながら読んでいただければ良いなと。
ちょっとだめだなと感じたらそっと閉じてくださいませm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる