【完結】止めろ婚約破棄!

瀬織董李

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 そんな中、最近いつも一緒に居るマーリィ嬢は、王宮に侍女として行儀見習いにあがってきている男爵令嬢だ。これまで侍らせている女性の中では珍しく期間が長い。それに殿下だけじゃなく、役立たず三人衆の側近達もどうやら入れ揚げている様だ。俺の所にも何回か来てなんか甘っちょろい事言ってたけど、聞く価値無いんで左から右に聞き流してたら来なくなったっけ。

 確かに見目はいい。金色のふわふわした髪に、エメラルドみたいな瞳。『ウチにはあんまりお金が無いから……』って言ってヒールのないぺったんこの革靴履いてるのは、絶対わざとだと思う程度には態度があざとい。ちょくちょく上目使いで四人にそれぞれおねだりしてるのを見掛けた。あのいかにもか弱いですぅ、って商売女みたいな態度にコロッと引っ掛かったんだろう。阿呆だ。

 女を侍らしてはいても、人目を気にしてか複数人同時に置いていた事は無いこいつと違い、あの女は殿下ら四人同時に粉をかけていた。自分が侍らせているつもりだが、侍らされている事に気付いて居ない。やっぱり阿呆だ。

 そんな阿婆擦れにあの完璧令嬢シェリア様が虐め? ……天地がひっくり返ってもあり得ねぇ。なにせこのぼんくらとの婚約は王命で殿下を王位に就ける為のものだ。罰ゲームかよ、ってくらいフレイム家にメリットは薄い。虐めを行う理由が全く見当たらない。

 シェリア嬢はちゃんと教育を受けていて、貴族令嬢とはどういうものか、王妃になるとはどういう事かをきちんと弁えている。が、そこには王太子への愛は無いっぽい。彼女の殿下への態度は慇懃無礼と言えなくもない時があるんで。多分殿下は全く気付いてなくて、単にへりくだって媚を売っているだけだと思ってるみたいだけど。あのシェリア嬢の態度で、自分が好かれていると思える脳内がおめでたすぎて頭を抱えたくなるが。下手に阿呆に権力があると、こういうことになるんだ、という見本の様だ。

「あのシェリア嬢が虐め……って、一体何やったって言うんですか?」

「ふん。事もあろうに身分差を持ち出してマーリィを貶めたのだ」

 え。……身分差はしょうがないっしょ。あんただって王太子の身分振りかざして嫌々な俺を取り立てたし。そもそもマナーのなってない下の者を注意するのは普通だろ? あのマーリィ嬢は『行儀ってなに?』を地で行く女で、何のために王宮来てんだよ、って言いたくなる程無作法だ。取り澄ました貴族令嬢にちやほやされるだけじゃ飽きたらなくなったこいつらの目には随分と新鮮に映った様だが。結局あのあからさまな褒め言葉にいい気になってるだけなのだ。

「それから、紅茶をドレスにかけた!」

 それ、俺が聞いたの逆だなあ。シェリア嬢が王太子妃教育の一環で開いたお茶会に侍女としてお茶を供するときに、カップひっくり返して危うく火傷させるとこだったって聞いたぞ? 見習いだからって事で注意だけですんだのはシェリア嬢が取りなしたからだし。

「それに母の形見の品を取り上げて壊したとも聞いた」

 ん? マーリィ嬢が殿下の周りをうろちょろするようになった時に彼女の家庭環境も調べさせたけど、俺の記憶が正しければ、彼女の両親である男爵夫妻は二人とも健在だった筈だぞ? 夫人が後妻って話もなかった筈だし、マーリィ嬢が養子って話も無かったと思ったけどな。……となると殿下の気を引くための嘘か?

「挙げ句に階段の途中ですれ違いざま突き落とそうとしたと聞いたぞ!」

 いや、まずそれ前提としてマナー違反。身分が上の者と階段でかち合った時、身分が下の者は一旦踊り場まで戻って通りすぎるまで頭を下げないと駄目だろ。何せ侍女なんだから。その上王太子の婚約者が一人で王宮をうろつく訳がない。必ず専属侍女と護衛騎士が付いてんのこいつわかってねぇの? そもそも『落とした』じゃなく『落とそうとした』だけで罪になる訳ねぇし。
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