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9.危なかった
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「大丈夫ですか!?」
まず目に入ったのが、ボアの後ろ姿だ。メスの様だが成体らしく巨体だ。そしてその巨体の向こうにちらり、と男性が立っているのが見えた。
子供では無かったのか? と一瞬思ったが、今はそんなことを詮索している暇はない。後ろからエルヴィに声をかけられたワイルドボアは、驚きにパニックを起こしたのだろう。鳴き声をあげると突然男の方へ走り出した。
「あ、しまった!」
慌ててエルヴィは睡眠の魔法をかける。ボアは普通の獣なので魔法抵抗力は高くない。突然ビクリ、と痙攣した様に動きを止めると、地響きをたてながら倒れ込んだ。
「危なかった……」
直ぐに目を覚まされても困るので、念のため睡眠の魔法を重ねがけしておく。その上でボアの向こうを見ると、血だらけの片腕を押さえながら呆然とする男と、その後ろに座り込む少年の姿が目に入った。
二人とも小ざっぱりした庶民の服を着ているが、立っている男は腰に剣を佩いている。庶民が剣を持っている筈がない。噂に聴く冒険者というやつだろうか。
そんな事を考えつつ、もう一度エルヴィは問いかけた。
「大丈夫ですか?」
正直、大丈夫には見えない。立っている男はボロボロだ。押さえられている腕もだらりと垂れ下がっている。これだけ出血しているところをみるともしかしたら骨が折れたどころか、腱も切れているかもしれない。簡単に言えば『腕がちぎれかけている』状態だ。
ボアの驚異が去ったのをやっと理解したのだろう。男は突然どさり、と座り込んだ。
「ニルス‼」
慌てて子供が駆け寄ってくる。大きな怪我はしていない様だが、何処かで転んだのだろうか。手足が擦り傷だらけだ。
「えーと、腰を下ろしちゃったところでごめんなさい。ワイルドボアが目を覚ましちゃうといけないので、移動したいのですけど、……大丈夫ですか? ヒールしますか?」
近くに寄って男の状態を見る。多分一度はボアに撥ね飛ばされたのだろう。腕以外に足や腰にもダメージがあるのかもしれない。それが少年を守る為に気力でだけで立っていたのだろう。三回目の大丈夫かを聞いた後、ついにエルヴィはヒールが必要かも聞いてみた。
ーーうわー。知らない人に聞いてみちゃった!
「……ヒール? 君が使えるのか?」
内心ドキドキしていると、不審そうに返された。恐らく先程の睡眠の魔法から使える系統を推測したのだろう。魔法を使える人は多いが、大抵同じ系統の魔法を一つか二つだ。補助系の魔法と回復系魔法を同時に使える者は居ない、という事になっている。エルヴィの様に何事にも例外があるが。
「はい。すぐに移動したいので取り敢えずかけますね」
これまでは領都で知り合いに頼まれた時は快く魔法をかけていたが、見知らぬ人にかけるのは初めてだ。
そっと男に近付き、頭に触れる。さらさらとした 栗色の髪が予想したより柔らかくて、ちょっと驚いたが、『そういえば家族に頭を撫でられた事無かったな』と思いつつ、『ヒール』と呟き魔力を放った。
まず目に入ったのが、ボアの後ろ姿だ。メスの様だが成体らしく巨体だ。そしてその巨体の向こうにちらり、と男性が立っているのが見えた。
子供では無かったのか? と一瞬思ったが、今はそんなことを詮索している暇はない。後ろからエルヴィに声をかけられたワイルドボアは、驚きにパニックを起こしたのだろう。鳴き声をあげると突然男の方へ走り出した。
「あ、しまった!」
慌ててエルヴィは睡眠の魔法をかける。ボアは普通の獣なので魔法抵抗力は高くない。突然ビクリ、と痙攣した様に動きを止めると、地響きをたてながら倒れ込んだ。
「危なかった……」
直ぐに目を覚まされても困るので、念のため睡眠の魔法を重ねがけしておく。その上でボアの向こうを見ると、血だらけの片腕を押さえながら呆然とする男と、その後ろに座り込む少年の姿が目に入った。
二人とも小ざっぱりした庶民の服を着ているが、立っている男は腰に剣を佩いている。庶民が剣を持っている筈がない。噂に聴く冒険者というやつだろうか。
そんな事を考えつつ、もう一度エルヴィは問いかけた。
「大丈夫ですか?」
正直、大丈夫には見えない。立っている男はボロボロだ。押さえられている腕もだらりと垂れ下がっている。これだけ出血しているところをみるともしかしたら骨が折れたどころか、腱も切れているかもしれない。簡単に言えば『腕がちぎれかけている』状態だ。
ボアの驚異が去ったのをやっと理解したのだろう。男は突然どさり、と座り込んだ。
「ニルス‼」
慌てて子供が駆け寄ってくる。大きな怪我はしていない様だが、何処かで転んだのだろうか。手足が擦り傷だらけだ。
「えーと、腰を下ろしちゃったところでごめんなさい。ワイルドボアが目を覚ましちゃうといけないので、移動したいのですけど、……大丈夫ですか? ヒールしますか?」
近くに寄って男の状態を見る。多分一度はボアに撥ね飛ばされたのだろう。腕以外に足や腰にもダメージがあるのかもしれない。それが少年を守る為に気力でだけで立っていたのだろう。三回目の大丈夫かを聞いた後、ついにエルヴィはヒールが必要かも聞いてみた。
ーーうわー。知らない人に聞いてみちゃった!
「……ヒール? 君が使えるのか?」
内心ドキドキしていると、不審そうに返された。恐らく先程の睡眠の魔法から使える系統を推測したのだろう。魔法を使える人は多いが、大抵同じ系統の魔法を一つか二つだ。補助系の魔法と回復系魔法を同時に使える者は居ない、という事になっている。エルヴィの様に何事にも例外があるが。
「はい。すぐに移動したいので取り敢えずかけますね」
これまでは領都で知り合いに頼まれた時は快く魔法をかけていたが、見知らぬ人にかけるのは初めてだ。
そっと男に近付き、頭に触れる。さらさらとした 栗色の髪が予想したより柔らかくて、ちょっと驚いたが、『そういえば家族に頭を撫でられた事無かったな』と思いつつ、『ヒール』と呟き魔力を放った。
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