世界樹の下で

瀬織董李

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前日①

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「今日の収穫は……と、キュウリ美味しそう……!昨夜の雨でいい感じに育ったわねー。ナスも瑞々しいわ。あと、このカボチャは花が咲いてそろそろ一ヶ月だからもうちょっとかな。あー……夏野菜ならトマト欲しいなー。何処かで栽培しているところないかしら」

 今日はまだ日差しの薄い早朝から既に暑い。肩にかけた布で軽く汗を拭い、抱えた籠を持ち直す。

 だだっ広い畑の一角に区切られた専用の畑で収穫を楽しみながら、ゆっくりと野菜達を見て回る。広い方の畑でも、数人の男女がせっせと畑の世話をしている。夏は日差しが強くなる日中は畑仕事が出来ないため、中には日が昇る前から働いている者もいるくらいだ。ここで収穫されたものは王宮で働く人達の口に入るものだから、手が抜けないのだろう。

 もっとも私が専任で世話をしている畑の野菜達は、王宮で働く人どころか王族に提供される料理専用食材なので、本来なら彼ら以上に神経を使って世話をするべきなのだが、私には特別なスキルがあるのでごく気楽に見て回れる。カボチャなんて本来は花が咲いたらプレートつけて開花日を書き込んでおかないと忘れちゃいそうだけど、私は食べ頃が一目見るだけでわかるので非常に楽をさせてもらっている。

 両手に持った大きな籠の中身が転がって傷つかない様にゆっくりと畑から離れ、王宮の横へと向かう。外から厨房の出入りが出来る通用門をすっかり顔見知りになった門番に軽く頭を下げながら通り抜ける。本来なら例え毎日通るとしても一々照会されるべきなのだろうが、すっかり平和ボケしているこの国では、兵士の態度はだらけていて色々とザルだ。いいのかな?とは思うけれど、ただの一平民では思うだけだ。どうしようもない。

 この世界には魔王も邪神も邪竜も居ない。

 王宮の一番高い塔に登ればうっすらと見えるらしい遠くの世界樹と呼ばれる大きな樹が、この世界を支え、そして守っている、と言われている。

 見たことが無いのでにわかには信じられないのだが、それだけ大きな樹であるにも関わらず、一時として太陽の光を遮る事なく大地へと恵みをもたらしているという。その世界樹の根には、神の使いである竜が眠っているとも言われている……らしい。正直生まれた村と、連れてこられたこの王宮以外、隣の村さえ出掛けたことがなかった私にはお伽噺にしか思えなかったけれど。
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