22 / 24
夜会の始まりです
しおりを挟む
結婚式の翌日。
元々冬が穏やかなエールデンでも、ここ最近まれにみる暖かな陽の中執り行われた結婚式は、魔道大国に相応しく様々な魔道具によって華々しい演出がされ、魔道を利用した通信網で国中に映像が届けられたという。
その翌日である今日は、皇家主催の披露宴を兼ねた夜会が開かれている。あまり派手な催しを好まない皇帝夫妻が国を挙げての行事のひとつとして開く夜会だ。国中の主だった貴族と友好国からの来賓が参加する大規模なものとなった。
通常社交シーズンではない冬に夜会が開かれる事はない。その為領地を持つ貴族は通年であれば皆それぞれの領地に帰るのだが、今年は準備の為に残っている者が殆どで、皇都はいつもとは違う賑わいをみせていた。
夜会が開かれている皇宮の大広間も、普段であれば寒々とした空間であるが、今宵は空調が隅々まで行き届き、女性が肌を出しても問題ない程度の気温に調節されている。エールデンでは一部屋くらいであれば庶民の家ですら冷暖房システムを利用している程一般的ではあるが、流石にここまで広いホールを、となるとどれ程の魔力と緻密な結界システムが必要なのだろう? 真似できるものならばしたいが……と他国の者は皆一様に嘆息していた。
そんな夜会は、皇帝夫妻が入場し開始の宣言により始まった。次々と夫妻の元へと来賓が挨拶に向かう。国内の貴族位を持つ者が全て挨拶に向かうとそれだけで夜会が終わってしまうため、今日の夜会は特別に開かれたという事もあって、皇帝夫妻も楽しみたいと皇帝が壇上から挨拶するだけとなっていた。
挨拶を終えると、皇帝は皇妃を伴い壇上から降りホール中央へと進む。その動きに合わせ、楽団が演奏し始める。ダンスの始まりは主催者からと決まっているため他に踊る者は居ない。軽やかに踏むステップは曲が進むにつれ次第に高度なものとなっていき、見る者達を魅了した。
一曲終わり、辺りが拍手に包まれると皇帝は皇妃を伴い壇上へと退いた。それを合図にホール中央へ何組もの男女が進み出る。美しいドレス姿の女性が曲に合わせて回りだすと、一気に華やかさが増し、参加者達の目を楽しませる。
しかし、そんな中央とはまるで正反対に戦々恐々としている人物がホールの一角に居た。元々こういった夜会では、自領の特産品であったり特定の技術などを売り込む商談の場になる事もある。彼らもまたある意味商談をするために集まっていたのだ。
もっとも、売り手と買い手、どちらも不本意ではあったが。
「殿下。こちらがお話のあった令嬢方です」
ヘンリックの声に、三人の令嬢が美しい礼をとる。流石皇妃候補として名が挙がっていた令嬢達だ。振る舞いはいたって上品で、いつぞやの男爵令嬢とは比べ物にならない洗練された仕草だ。エーベルハルトが名乗ると、彼女らも一人ずつ名を名乗り静かに頭を下げる。
「じゃ、紹介はしたのであとは皆でお話下さい」
「何っ!? ま、待てヘンリック!」
そそくさと逃げようとするヘンリックに、慌ててエーベルハルトが呼び止めると、ヘンリックはあからさまに嫌そうな顔を向けた。
「僕は部外者ですので。クルトに任せますよ」
「おい!こらヘンリック!! 僕だって部外者だろ!?」
「君はエーベルハルト殿下の側近だろ? じゃあ君にとって将来仕えるべき相手になるかもしれないじゃないか。君もしっかり話を聞いておいた方がいいと思うけどね」
「それはお前だって同じだろ!?」
「僕はまだ父の跡を継ぐとは決めてないからね」
「ず、ずるいぞっ!!」
友人とは聞いていたが予想以上に気の置けない関係の様で、エーベルハルトはクルトとヘンリックのやり取りに目を白黒させる。そんな三人に、令嬢の方三人といえば一人はぼんやりと、一人はイライラと、そして最後の一人は面白そうに視線を向けていた。
元々冬が穏やかなエールデンでも、ここ最近まれにみる暖かな陽の中執り行われた結婚式は、魔道大国に相応しく様々な魔道具によって華々しい演出がされ、魔道を利用した通信網で国中に映像が届けられたという。
その翌日である今日は、皇家主催の披露宴を兼ねた夜会が開かれている。あまり派手な催しを好まない皇帝夫妻が国を挙げての行事のひとつとして開く夜会だ。国中の主だった貴族と友好国からの来賓が参加する大規模なものとなった。
通常社交シーズンではない冬に夜会が開かれる事はない。その為領地を持つ貴族は通年であれば皆それぞれの領地に帰るのだが、今年は準備の為に残っている者が殆どで、皇都はいつもとは違う賑わいをみせていた。
夜会が開かれている皇宮の大広間も、普段であれば寒々とした空間であるが、今宵は空調が隅々まで行き届き、女性が肌を出しても問題ない程度の気温に調節されている。エールデンでは一部屋くらいであれば庶民の家ですら冷暖房システムを利用している程一般的ではあるが、流石にここまで広いホールを、となるとどれ程の魔力と緻密な結界システムが必要なのだろう? 真似できるものならばしたいが……と他国の者は皆一様に嘆息していた。
そんな夜会は、皇帝夫妻が入場し開始の宣言により始まった。次々と夫妻の元へと来賓が挨拶に向かう。国内の貴族位を持つ者が全て挨拶に向かうとそれだけで夜会が終わってしまうため、今日の夜会は特別に開かれたという事もあって、皇帝夫妻も楽しみたいと皇帝が壇上から挨拶するだけとなっていた。
挨拶を終えると、皇帝は皇妃を伴い壇上から降りホール中央へと進む。その動きに合わせ、楽団が演奏し始める。ダンスの始まりは主催者からと決まっているため他に踊る者は居ない。軽やかに踏むステップは曲が進むにつれ次第に高度なものとなっていき、見る者達を魅了した。
一曲終わり、辺りが拍手に包まれると皇帝は皇妃を伴い壇上へと退いた。それを合図にホール中央へ何組もの男女が進み出る。美しいドレス姿の女性が曲に合わせて回りだすと、一気に華やかさが増し、参加者達の目を楽しませる。
しかし、そんな中央とはまるで正反対に戦々恐々としている人物がホールの一角に居た。元々こういった夜会では、自領の特産品であったり特定の技術などを売り込む商談の場になる事もある。彼らもまたある意味商談をするために集まっていたのだ。
もっとも、売り手と買い手、どちらも不本意ではあったが。
「殿下。こちらがお話のあった令嬢方です」
ヘンリックの声に、三人の令嬢が美しい礼をとる。流石皇妃候補として名が挙がっていた令嬢達だ。振る舞いはいたって上品で、いつぞやの男爵令嬢とは比べ物にならない洗練された仕草だ。エーベルハルトが名乗ると、彼女らも一人ずつ名を名乗り静かに頭を下げる。
「じゃ、紹介はしたのであとは皆でお話下さい」
「何っ!? ま、待てヘンリック!」
そそくさと逃げようとするヘンリックに、慌ててエーベルハルトが呼び止めると、ヘンリックはあからさまに嫌そうな顔を向けた。
「僕は部外者ですので。クルトに任せますよ」
「おい!こらヘンリック!! 僕だって部外者だろ!?」
「君はエーベルハルト殿下の側近だろ? じゃあ君にとって将来仕えるべき相手になるかもしれないじゃないか。君もしっかり話を聞いておいた方がいいと思うけどね」
「それはお前だって同じだろ!?」
「僕はまだ父の跡を継ぐとは決めてないからね」
「ず、ずるいぞっ!!」
友人とは聞いていたが予想以上に気の置けない関係の様で、エーベルハルトはクルトとヘンリックのやり取りに目を白黒させる。そんな三人に、令嬢の方三人といえば一人はぼんやりと、一人はイライラと、そして最後の一人は面白そうに視線を向けていた。
141
お気に入りに追加
7,674
あなたにおすすめの小説

【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。
「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。
私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」
「……フフフ」
王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!
しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?
ルカリファスは楽しそうに笑う。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。

婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす


転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる