1 / 24
サインは慎重に行いましょう
しおりを挟む
バン!と乱暴に部屋の扉が開く。机に齧りつくように書類を片付けていたクラウディアは、面倒臭そうに顔を上げ、意気揚々と入ってきた一団の姿を見て、その美しい眉を顰めた。
「クラウディア! 貴様が生徒会を私物化しているという噂はやはり本当だったのだな‼ これ以上貴様の思う通りにはさせん‼」
集団の先頭に居たふてぶてしい態度の男ーー公爵令嬢クラウディアの婚約者であり、学園の生徒会長の任に着く王太子エーベルハルトが指差しながら叫ぶのを黙ったまま冷たい目で見ると、クラウディアは席についていた机の引き出しを開け、中から数枚の白紙を取り出した。
「その上、私の愛する可憐なラウラに嫌がらせを重ねた挙げ句、金銭で雇った暴漢に襲わせようとしたというではないか‼ たまたま私達が駆け付けたからよかったものの、遅れていたら一体どうなっていた事か……っ!!」
「…………」
「ラウラは泣いていたのですよ! 普段は気丈に明るく振舞っている彼女が! ああラウラ……可哀想に……」
「…………」
「そうだ! 貴様が全て指示したのはわかってるんだ!観念しやがれ!」
「…………」
「他人を使ってあんなに可愛いラウラを害そうとするなんてサーイテー」
「…………」
「貴様の様な……おい!聞いてるのかっ!?」
「お言葉ですが、わたくしが生徒会を私物化しているという事実はありません」
好き勝手言い連ねる四人の話を戯れ言と聞き流す様に、無言で手元の白紙に何かを書き付け始めたクラウディアに、無視されたと思い憤るエーベルハルトが怒鳴るが、クラウディアは手を止めることなく端的に反論した。
半年ほど前に珍しく学園に中途入学してきた男爵令嬢が、生徒会の面々に擦り寄り虜にし始めたのが四ヶ月前頃か。それまでは個別に会って密かに交流していたらしい四人が、人目を憚ることなくまるで傅く様に男爵令嬢に侍り始め、生徒会の仕事どころか、学生の本分である勉学すら放棄して、周囲から冷たい視線を浴び始めたのが三ヶ月前。
「嘘をつくな!! 現に今ここで貴様一人で居たではないか!!」
「一人で居るのは当たり前です。他の役員の皆様……つまり貴方方はこの三ヶ月間一度も生徒会室においでになっておりませんので」
最初は生徒会の副会長であるクラウディアも何度か苦言を呈していたが、聞く耳を持たない彼らを諦め、それ以来ずっと一人で仕事をこなしていた。
「だ、だからと言って貴様一人で生徒会を運営することなどあってはならぬ!! 会長権限の決裁を勝手にしたと聞いたぞ!」
会長だけではなく、生徒会に承認される書類には例えば予算があれば会計の承認も必要だ。だが、今ここで副会長であるクラウディアを追及する会長、会計、書記、庶務の四人はここしばらくサインを求められた覚えが無かった。
「勝手に決裁などするはずありません。当然許可はいただいております。……どうやらお忘れの様ですけど!」
いつの間に取り出したのか、クラウディアの手には書類があった。机の上に置き、手でバン!と叩く。一体どんな根拠だと覗いてみると。
「……『委任状』?」
「そうです。三ヶ月前、生徒会の仕事が滞り、皆様のサインが必要であるにも関わらず一向にこちらにいらっしゃらない。仕方なしにわたくしが書類を持って皆様の元へ訪れた時、殿下がおっしゃったじゃありませんか。『そんな些末な仕事はお前が代わりにやっておけ』と。いくら生徒会長のご命令でも権限を越えて仕事は出来ませんし、するつもりもありません。ですので、その委任状に皆様のサインをいただきました。……思い出していただけましたかしら?」
委任状には確かに『生徒会の業務を副会長:クラウディアに一任する』とあり、しっかり彼ら4人のサインがある。そして、確かに四人にはクラウディアから求められ、面倒な書類仕事を押し付けられると喜んでサインをした記憶があった。今の今まで忘れていたが。
「こちらの書類は正式なものとして学園長に提出して許可を頂いております。ですので、わたくしがここで行った業務は全て殿下方の委任の元に行っております。つまりわたくしの行いに問題があると言われるのでしたら、当然わたくしに委任した殿下方にも責任があるのですが」
ーーおわかりですか?
そう無言で問いかけられてエーベルハルトは言葉に詰まる。そんなものは無効だ、と言いたいが、サインをしたのは昼食時の学園のサロン。衆目の中で行った事を誤魔化すのは無理だろう。
「クラウディア! 貴様が生徒会を私物化しているという噂はやはり本当だったのだな‼ これ以上貴様の思う通りにはさせん‼」
集団の先頭に居たふてぶてしい態度の男ーー公爵令嬢クラウディアの婚約者であり、学園の生徒会長の任に着く王太子エーベルハルトが指差しながら叫ぶのを黙ったまま冷たい目で見ると、クラウディアは席についていた机の引き出しを開け、中から数枚の白紙を取り出した。
「その上、私の愛する可憐なラウラに嫌がらせを重ねた挙げ句、金銭で雇った暴漢に襲わせようとしたというではないか‼ たまたま私達が駆け付けたからよかったものの、遅れていたら一体どうなっていた事か……っ!!」
「…………」
「ラウラは泣いていたのですよ! 普段は気丈に明るく振舞っている彼女が! ああラウラ……可哀想に……」
「…………」
「そうだ! 貴様が全て指示したのはわかってるんだ!観念しやがれ!」
「…………」
「他人を使ってあんなに可愛いラウラを害そうとするなんてサーイテー」
「…………」
「貴様の様な……おい!聞いてるのかっ!?」
「お言葉ですが、わたくしが生徒会を私物化しているという事実はありません」
好き勝手言い連ねる四人の話を戯れ言と聞き流す様に、無言で手元の白紙に何かを書き付け始めたクラウディアに、無視されたと思い憤るエーベルハルトが怒鳴るが、クラウディアは手を止めることなく端的に反論した。
半年ほど前に珍しく学園に中途入学してきた男爵令嬢が、生徒会の面々に擦り寄り虜にし始めたのが四ヶ月前頃か。それまでは個別に会って密かに交流していたらしい四人が、人目を憚ることなくまるで傅く様に男爵令嬢に侍り始め、生徒会の仕事どころか、学生の本分である勉学すら放棄して、周囲から冷たい視線を浴び始めたのが三ヶ月前。
「嘘をつくな!! 現に今ここで貴様一人で居たではないか!!」
「一人で居るのは当たり前です。他の役員の皆様……つまり貴方方はこの三ヶ月間一度も生徒会室においでになっておりませんので」
最初は生徒会の副会長であるクラウディアも何度か苦言を呈していたが、聞く耳を持たない彼らを諦め、それ以来ずっと一人で仕事をこなしていた。
「だ、だからと言って貴様一人で生徒会を運営することなどあってはならぬ!! 会長権限の決裁を勝手にしたと聞いたぞ!」
会長だけではなく、生徒会に承認される書類には例えば予算があれば会計の承認も必要だ。だが、今ここで副会長であるクラウディアを追及する会長、会計、書記、庶務の四人はここしばらくサインを求められた覚えが無かった。
「勝手に決裁などするはずありません。当然許可はいただいております。……どうやらお忘れの様ですけど!」
いつの間に取り出したのか、クラウディアの手には書類があった。机の上に置き、手でバン!と叩く。一体どんな根拠だと覗いてみると。
「……『委任状』?」
「そうです。三ヶ月前、生徒会の仕事が滞り、皆様のサインが必要であるにも関わらず一向にこちらにいらっしゃらない。仕方なしにわたくしが書類を持って皆様の元へ訪れた時、殿下がおっしゃったじゃありませんか。『そんな些末な仕事はお前が代わりにやっておけ』と。いくら生徒会長のご命令でも権限を越えて仕事は出来ませんし、するつもりもありません。ですので、その委任状に皆様のサインをいただきました。……思い出していただけましたかしら?」
委任状には確かに『生徒会の業務を副会長:クラウディアに一任する』とあり、しっかり彼ら4人のサインがある。そして、確かに四人にはクラウディアから求められ、面倒な書類仕事を押し付けられると喜んでサインをした記憶があった。今の今まで忘れていたが。
「こちらの書類は正式なものとして学園長に提出して許可を頂いております。ですので、わたくしがここで行った業務は全て殿下方の委任の元に行っております。つまりわたくしの行いに問題があると言われるのでしたら、当然わたくしに委任した殿下方にも責任があるのですが」
ーーおわかりですか?
そう無言で問いかけられてエーベルハルトは言葉に詰まる。そんなものは無効だ、と言いたいが、サインをしたのは昼食時の学園のサロン。衆目の中で行った事を誤魔化すのは無理だろう。
121
お気に入りに追加
7,674
あなたにおすすめの小説

【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。
「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。
私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」
「……フフフ」
王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!
しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?
ルカリファスは楽しそうに笑う。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。

婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす


転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる