同じ過ちは繰り返さない

瀬織董李

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4.お局様にからまれた

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 鵜堂がやって来て、一番の変化は私の気持ちだろうか。子供の頃からずっと怯えていたのだ。いつかまた夢と同じ目に遭う日が来るのではないかと。

 大人になった今ならわかるが、法治国家である現代日本で、殺人未遂……しかも被害者が軽い怪我だけでぴんぴんしてるのに極刑になる訳がない。如何にあの世界が無茶苦茶だったかがよくわかる。

 それでも天王寺に会った事で彼にも記憶があって、私がカレンディラだと知られたら……と思うと怖くて仕方なかったのだが、天王寺の鵜堂に対する言動を見る限り、記憶がない事がわかる。この三年間ずっと心に重くのし掛かっていたものが消え、自分では気付いてなかったがちょっと浮かれていたんだろう。

「ちょっと聞いてるの!?」

ーーいえ、聞いてません。聞く価値ないですし。

「なんなのあの娘は!? あなたがちゃんと指導しないと駄目じゃない!!」

ーーあなたにはアレが指導すればなんとかなるように見えるんですか?なら自分でやってくださいな。

「しかも天王寺課長やら藤山君や瀬戸君達に擦り寄って媚を売るなんてはしたない!」

ーー廊下で同僚捕まえて大声で説教してるあなたも十分はしたないです。

 いつもなら目につかないように気を付けていたのに、鵜堂を探してうろうろしているうちに営業本部のお局様に捕まってしまった。うっかり口を挟もうなら更に怒り狂うので、黙って聞いてるのが一番早く逃げられる方法だ。

 神妙に聞いているフリをして心の中で色々と反論する。それくらいは許して欲しい。彼女は、私が高卒で入社したせいで自分が男性社員から年寄り扱いされていると思っているのだ。同姓からはお局様扱いされているんだけどね。

 ある程度捲し立てて気がすめば解放される。意見じゃなくて単に一方的に言いたいことを言っているだけだし。

 なのに。

「そんなっ……そんなこと言うなんて今藤さんが可哀想です!!」

「なっ!? なんなのあなたは!? 急に出しゃばってきて!!」

 ……マジか。

 実に素晴らしいタイミングで鵜堂が口を挟む。この子の無駄な正義感と博愛精神のヒロイン症候群はどうにかならないものかしら。

「今藤さんはしっかり真面目にお仕事してて堅物で融通利かなくて冷たくて、そのせいで課のみんなからは敬遠されてるから、媚を売ってるなんてあり得ないです!」

……然り気無くディスったわね。というか、お局様が自分の事を話してたとは微塵も思ってないわね。流石の彼女も呆気に取られているわ。

「何をしている」

「あっ、天王寺課長!今、今藤さんが……」

 あー……。更にややこしくなる原因が登場したわ。しかも、お局様じゃなくて私の名前出すし。

 私の名前を鵜堂が出したせいで天王寺の視線が私の方を向く。その間にお局様はそそくさと逃げ出した。

「今藤。俺は鵜堂の指導をしろと言った筈だがどうしてこんなところで油を売っているんだ」

「お言葉ですが、私は指導の途中で居なくなった鵜堂さんを探していただけでサボっていたつもりはありません。私が指導者として問題あるとお考えでしたら今すぐ任を解いて頂いて結構です」

 お局様のお小言は聞き流すに限るが、天王寺には三年間の凍オーラが癖になっているのかつい反撃してしまう。理不尽な言いがかりだし。

 私が無表情でそう告げると、ここ最近良く見るようになった苦々しい顔で私を睨み付けてくる。以前の私なら内心ではかなりビビってたが、これぐらい今ではなんとも思わなくなった。その点は非常に喜ばしい事だ。

「鵜堂はきちんと仕事をしている。俺や周りのサポートもしっかりとしている。それに対して、お前はキツく言い過ぎだ。それでは教わる方も萎縮するだろう。そのうえお前はこんなところでふらふらとほっつき歩いて。少しは鵜堂を見習ったらどうだ」

 私がサボっている鵜堂を探してたっていう事実はスルーなのね。それに萎縮どころか、のびのびとイケメン漁りしているようにしか見えないけど。本当に見た目がカレンディラな分余計に腹立たしい。

 ……それにしても、天王寺はこんな性格だっただろうか?確かに坊っちゃん育ちで世間知らずっぽいところはあったが、ここまで視野が狭かっただろうか?これが鵜堂の影響だとしたら、ハルト様が変わってしまった理由もこんな風だったのかな。

「つまり私の指導に問題があると認識した訳ですね。わかりました。やはり私は異動願いを出させていただきます。このまま鵜堂さんと一緒にお仕事は出来ませんので」

「っ!? そ、それは出来ない!」

「何故ですか? 鵜堂さんは私が見習わなければならないほど優秀なのでしょう?課長の補佐を任せても問題ないのでは?」

 多分、本当はわかっているのだ。鵜堂の仕事ぶりではとてもではないが課長の補佐など出来ないことを。なにせ教えられた事しか出来ないのだ。自分から覚えようという気がさらさら無い様に見える。だったらきちんと本人に言わないといけないないのに、恋に目が眩んだのか、良いところしか見えないらしい。

「えっ!? ホントですか?私、課長の補佐頑張ります!!」

「本人もこう言ってますし、やる気はあるようなので。……では、後程異動願いを提出致しますので、了承願います」

「お、おいっ!?」

 天王寺の返事は聞かず、私は自分のデスクへと戻るために踵を返した。
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