同じ過ちは繰り返さない

3.煽て上手

　お手洗いからの帰り。

「そうなんですね。課長、凄いです!!」

「いや、そんなことはないよ。偶然だ」

　給湯室でイチャつく二人がチラッと視界に入り、思わず頭に手をやる。仕事中でしょ。

　あれから気付いた事がある。鵜堂はカレンディラじゃないと直感で思ったが多分間違いない。似ているのだ。鵜堂の言動は『彼女』に。



『ハルト様を解放してあげて下さい!!』

　突然見ず知らずの女性に言われて驚くカレンディラ。後日、友人、というか未来の王子妃の地位目当ての取巻き達に、最近リーゲルハルト殿下とその側近達に纏わりつく女が居ると聞いた。なんでも、何処かの田舎男爵の養女で、最近まで下町に住んでいた元平民だという。

　身分をとやかく言うつもりは無いが、解放とはどういう意味なんだろうとか呑気に思っているうちに、あれやあれやと夜会での断罪となるのだ。

　鵜堂は似ている。あの男爵令嬢『マリン・ウィード』に。



　仕事はそれなりに出来る。教えた事は一応覚えている。だが、そこそこ顔立ちが整っている男性社員のサポートには積極的につくが、女子社員及びいわゆるフツメンのサポートはなんだかんだと理由をつけて拒否する。

　おまけにちょっと目を離すと居なくなり、大抵天王寺か、社で特にイケメンと言われている男の所に行って業務に関係のないおしゃべりをしている。

　一度探しにいった時にチラッと話の内容を聞いたが、『辛かったら逃げちゃえばいいんですよ！』とか『こんなに頑張ってるのに認めてくれない周りが悪いんです！ でも私はちゃんと見てますよ!!』とか随分とあまっちょろい事を捲し立てていた。それを聞いてお前は場末のホステスかと思ったのは秘密だ。

　七海に聞いたが、それに絆された男共が取り巻きの様な感じになっているという。まるっきり一人のホステスに他の男の存在を知らず貢ぐキープ君だ。

　なんでも七海曰くあの手の女の『さしすせそ』というのがあるらしい。『流石です!!』『知らなかったー！』『スゴいです!!』『世間知らずでごめんなさい』『そうなんだ!!』。この五つだけを組み合わせて話してれば、ちょっとお馬鹿な男が勝手にいい気分になってくれるんだとか。確かに言ってたわね。

　『まるで乙女ゲームみたい』と七海が言うので乙女ゲームとはなんぞや？と思い調べたけど、確かにそんな感じかもしれない。というか、七海に勧められたゲームのあらすじや、設定を題材にした小説なんかをネットでちょっと読んだが、もしかしてカレンディラは『悪役令嬢』というやつなのだろうか。

　あの断罪の時、ハルト様達に囲まれて怯えていた……ように見えるけれどこっそり嫌らしい笑みを浮かべていた男爵令嬢。いわゆる悪役令嬢モノと呼ばれるジャンルで見た内容とそっくりだ。侯爵令嬢自身はちょっとした嫌みを言うくらいだったのに、周りの取り巻きが勝手に令嬢の名前を使ってヒロインに苛めを行い、結果何も知らない令嬢が断罪される……心当たりが有りすぎる。もっともざまぁというのを出来ずそのまま処刑されてしまったけど。

　とはいえ、それはそれ、これはこれ。今は就労時間中だ。また庇う天王寺に睨まれるんだろうなー、と思いながら、鵜堂を連れ戻すため声をかけた。