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2.思わぬ登場
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まるで天王寺と初めて会った『あの日』の様だ。
いつもの様に家を出て、いつもの様に電車に乗り、いつもの様に出勤した私を待ち受けていた、いつもと違う課内。
『彼女』を見た瞬間、今度こそ心臓が止まるかと思った。あまりにも夢の中の自分にそっくりで。
「鵜堂かりんです! よろしくお願いします!!」
新規のプロジェクト立ち上げのための人員不足を補うために急遽派遣してもらった臨時社員の挨拶。天王寺の隣で頭を下げる女の髪は流石にブロンドでは無かったが、やや薄い茶髪、瞳はカラコンなのか夢で見ていたのと同じ薄紫だった。御姉様方の厳しい視線が突き刺さっているが、図太いのか無神経なのか全く気にした様子もなくニコニコ笑っている。
内心の動揺を押さえつつ成り行きを見守っていると、天王寺に呼ばれた。
「今藤。鵜堂の指導を頼む。暫く付いて仕事を教えてやってくれ」
「お言葉ですが課長。私は課長を補佐すべく在籍しております。その間の業務に差し障る仕事は控えたいのですが」
正式な役職ではないが、私が総務から異動してきたのは、いずれこの社で要職に就く予定の天王寺を新人時代は指導、補佐するためだった。
正直本音を言うならどちらにも関わりたくないが、どちらかをとるなら業務に差し障る方は拒否したい。私がそう告げると、天王寺はやや苦虫を噛み潰した様な表情になる。
「……業務命令だ。プロジェクトに少しでも関わる人員は割けない。今動かせるのは君しか居ない」
私が抜ける事が不味いのか、私を彼女に付けるのが嫌なのか。内心で肩を竦める。面倒臭いことになりそうな予感しかしない。
「畏まりました。暫くとはどのくらいを?」
「暫くは暫くだ。ある程度仕事を覚えて周りのサポートが出来るようになるまででいい。あくまで臨時の派遣だからな」
「承知いたしました。……では鵜堂さんは私の席の隣に椅子を」
「えぇー? 私天王寺課長の近くがいいです」
…………ナニイッテンノ、コノコ?
いけない。つい、言語不良が。
「だって、今藤さんのお仕事は課長の補佐なんでしょ?だったら私が代わりに補佐します!!」
…………いや、意味不明なんだけど。
「そういう事を希望するのはある程度仕事を覚えてからです。それともあなたは我が社で取り扱っている商品と、取引先を全て把握できているのですか?」
勿論私も全て頭に入っている訳ではないが、主要な商品と大手は当然把握している。というか、出来るものなら今すぐに代わって欲しいけど。
「……課長、今藤さんの顔が怖いです」
何一つ間違った事は言っていないつもりだが、彼女は天王寺の影に隠れてさらりと人を貶めた。今の私は漫画的な表現でいうならぴしり、とこめかみに怒りマークが浮かんでる状態だ。『こんなの』は絶対にカレンディラじゃない。さっきはあんなにパニック状態だったのに、今では他人の空似にしか見えなくなっている。未だに夢を見ては怯えている天王寺に対してとは大違いだ。
「今藤。鵜堂は臨時社員だ。多少の事は目を瞑ってやってくれ」
いつか何処かで見たような彼の表情に、心の中でいろんな感情が渦巻く。
「目を瞑れ、とおっしゃると言うことは、今後は彼女が課長の補佐を行うという事でよろしいですね? では、私は総務へ戻るための異動願いを出させていただきます」
「なっ!? そういう事じゃないだろう!?」
「そういう事でなければどういう事で? 鵜堂さんの発言に目を瞑れとは鵜堂さんの発言を採用するという事でしょう?」
「!? ち、違う……そうじゃなくて……と、とりあえず鵜堂の事は任せたぞ」
「あっ!!天王寺課長~!!」
……面倒臭くなって逃げたな。そういえばハルト様も自分がしたくない事だったり、都合が悪いと思うような事があると、あんな感じで逃げ出してたっけ。
どちらにしろ、この先の事を考えると新たな憂鬱の種に気が滅入るのだった。
いつもの様に家を出て、いつもの様に電車に乗り、いつもの様に出勤した私を待ち受けていた、いつもと違う課内。
『彼女』を見た瞬間、今度こそ心臓が止まるかと思った。あまりにも夢の中の自分にそっくりで。
「鵜堂かりんです! よろしくお願いします!!」
新規のプロジェクト立ち上げのための人員不足を補うために急遽派遣してもらった臨時社員の挨拶。天王寺の隣で頭を下げる女の髪は流石にブロンドでは無かったが、やや薄い茶髪、瞳はカラコンなのか夢で見ていたのと同じ薄紫だった。御姉様方の厳しい視線が突き刺さっているが、図太いのか無神経なのか全く気にした様子もなくニコニコ笑っている。
内心の動揺を押さえつつ成り行きを見守っていると、天王寺に呼ばれた。
「今藤。鵜堂の指導を頼む。暫く付いて仕事を教えてやってくれ」
「お言葉ですが課長。私は課長を補佐すべく在籍しております。その間の業務に差し障る仕事は控えたいのですが」
正式な役職ではないが、私が総務から異動してきたのは、いずれこの社で要職に就く予定の天王寺を新人時代は指導、補佐するためだった。
正直本音を言うならどちらにも関わりたくないが、どちらかをとるなら業務に差し障る方は拒否したい。私がそう告げると、天王寺はやや苦虫を噛み潰した様な表情になる。
「……業務命令だ。プロジェクトに少しでも関わる人員は割けない。今動かせるのは君しか居ない」
私が抜ける事が不味いのか、私を彼女に付けるのが嫌なのか。内心で肩を竦める。面倒臭いことになりそうな予感しかしない。
「畏まりました。暫くとはどのくらいを?」
「暫くは暫くだ。ある程度仕事を覚えて周りのサポートが出来るようになるまででいい。あくまで臨時の派遣だからな」
「承知いたしました。……では鵜堂さんは私の席の隣に椅子を」
「えぇー? 私天王寺課長の近くがいいです」
…………ナニイッテンノ、コノコ?
いけない。つい、言語不良が。
「だって、今藤さんのお仕事は課長の補佐なんでしょ?だったら私が代わりに補佐します!!」
…………いや、意味不明なんだけど。
「そういう事を希望するのはある程度仕事を覚えてからです。それともあなたは我が社で取り扱っている商品と、取引先を全て把握できているのですか?」
勿論私も全て頭に入っている訳ではないが、主要な商品と大手は当然把握している。というか、出来るものなら今すぐに代わって欲しいけど。
「……課長、今藤さんの顔が怖いです」
何一つ間違った事は言っていないつもりだが、彼女は天王寺の影に隠れてさらりと人を貶めた。今の私は漫画的な表現でいうならぴしり、とこめかみに怒りマークが浮かんでる状態だ。『こんなの』は絶対にカレンディラじゃない。さっきはあんなにパニック状態だったのに、今では他人の空似にしか見えなくなっている。未だに夢を見ては怯えている天王寺に対してとは大違いだ。
「今藤。鵜堂は臨時社員だ。多少の事は目を瞑ってやってくれ」
いつか何処かで見たような彼の表情に、心の中でいろんな感情が渦巻く。
「目を瞑れ、とおっしゃると言うことは、今後は彼女が課長の補佐を行うという事でよろしいですね? では、私は総務へ戻るための異動願いを出させていただきます」
「なっ!? そういう事じゃないだろう!?」
「そういう事でなければどういう事で? 鵜堂さんの発言に目を瞑れとは鵜堂さんの発言を採用するという事でしょう?」
「!? ち、違う……そうじゃなくて……と、とりあえず鵜堂の事は任せたぞ」
「あっ!!天王寺課長~!!」
……面倒臭くなって逃げたな。そういえばハルト様も自分がしたくない事だったり、都合が悪いと思うような事があると、あんな感じで逃げ出してたっけ。
どちらにしろ、この先の事を考えると新たな憂鬱の種に気が滅入るのだった。
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