2 / 5
1.纏い付く悪夢
しおりを挟む
『カレンディラ・コンウォールド! 貴様の悪行もこれまでだ! 皆の前、白日の元に晒してやる!』
『えっ!?』
ああ、まただ。
幼い頃から何度も繰り返し見た夢。
昨日も見たのに、また今夜も見てしまったのは昼間会話をしたせいだろうか?
童話のお姫様の様な格好で舞踏会の会場らしき場所に立ち、数人のイケメンから恐ろしい形相で糾弾される夢。
中心に立つ俺様キラキライケメンは、どうやら本物の王子らしく、全く見に覚えのない罪を並べあげた挙げ句、婚約破棄と極刑を宣告するのだ。
最初に見た時は訳がわからなかった。まだ幼児といえる年頃だったから。親に上手く説明も出来ず、それ以来何度も泣いて飛び起きるので、医者に連れて行かれもした。最もストレスだろうで片付けられ、そのせいで次第に親に疎まれる様になるのだが。
内容が何となく理解出来るようになるにつれ飛び起きる事は無くなり、今ではびっしょりと寝汗をかいて目覚める程度になったが、不快であることには代わりない。
夢の中、最後は断頭台の前に立ち、民衆の罵声を浴びながら思うのだ。
ーー来世がもしあるのなら、その時は生涯を平穏無事に生き天寿を全うしたい、……と。
「はぁ……」
いつもより早く目が覚めてしまったので、ぐったりとした身体を無理矢理起こし、部屋着を脱いで熱いシャワーを浴びる。若干気分は浮上したが、また会社で『アレ』と顔を合わせると思うと、気が重い。正直出社拒否したい。だが、この程度で休んで、後日御嬢様方にまた嫌味を言われるよりはマシだ。なので心の中で『アレ』呼ばわりするぐらいは許して欲しい。
今日もバスルームの鏡を覗き込み確認する。鏡の中からこちらを見つめる顔が、夢の中での自分と違う事を。
「転職出来るならしたいけど、……暫くは無理かなぁ」
夢の中の自分……カレンディラは流れる様な長く美しい金の髪に、薄紫の瞳。今、鏡に映る平凡な何処にでも居そうな典型的な黒目黒髪の日本人顔とは全く違う。小さく安堵の溜息を吐き、タオルで身体を拭き、身支度を整える。今日もまた、昨日と変わらない一日。その日が始まると無意識に信じていた。いや、思い込んでいた。
あの『婚約破棄』の日までの様に。
『今藤夏蓮』が『天王寺悠仁』と初めて会ったのは、夏蓮がこの会社に就職して三年目の事だった。配置替えで総務部から転属した営業企画課に、新入社員として配属されてきたのが天王寺だった。
初めて見た瞬間、息が止まるかと思った。瞳の色こそ違うが、クセのある柔らかそうな栗色の髪も、ほんの少し垂れた目も、キリッとした口元も、自信に溢れたキラキラオーラも、夢で見る『彼』とそっくりで。
きちんと自分が挨拶出来ていたか全く覚えていないが、自分は彼の直属の部下になるべく配置替えされたのだ。仕事に私情は挟むまい、そう考えていたような記憶はなんとなくある。
あの夢はもしかしたら自分の前世なのかもしれないと考えていたが、彼が夢の中の王子が転生した姿なのか、それとも他人の空似なのか、それとも自分の単なる妄想なのかわからなかったせいもある。
ーーあなたは、ハルト様ですか?
夢の中の王子『リーゲルハルト・ファンダリア』の記憶があるのか? ……なんて聞けるはずもない。もしも記憶があったとしたら、冤罪で極刑を言い渡す様な人物と関わるのはもう御免だ。
彼と出会って何度目になるかわからない溜息を吐き、立ち上げていたノートパソコンの電源を落とし、鍵と鞄を持ち、静かに家を出た。
『えっ!?』
ああ、まただ。
幼い頃から何度も繰り返し見た夢。
昨日も見たのに、また今夜も見てしまったのは昼間会話をしたせいだろうか?
童話のお姫様の様な格好で舞踏会の会場らしき場所に立ち、数人のイケメンから恐ろしい形相で糾弾される夢。
中心に立つ俺様キラキライケメンは、どうやら本物の王子らしく、全く見に覚えのない罪を並べあげた挙げ句、婚約破棄と極刑を宣告するのだ。
最初に見た時は訳がわからなかった。まだ幼児といえる年頃だったから。親に上手く説明も出来ず、それ以来何度も泣いて飛び起きるので、医者に連れて行かれもした。最もストレスだろうで片付けられ、そのせいで次第に親に疎まれる様になるのだが。
内容が何となく理解出来るようになるにつれ飛び起きる事は無くなり、今ではびっしょりと寝汗をかいて目覚める程度になったが、不快であることには代わりない。
夢の中、最後は断頭台の前に立ち、民衆の罵声を浴びながら思うのだ。
ーー来世がもしあるのなら、その時は生涯を平穏無事に生き天寿を全うしたい、……と。
「はぁ……」
いつもより早く目が覚めてしまったので、ぐったりとした身体を無理矢理起こし、部屋着を脱いで熱いシャワーを浴びる。若干気分は浮上したが、また会社で『アレ』と顔を合わせると思うと、気が重い。正直出社拒否したい。だが、この程度で休んで、後日御嬢様方にまた嫌味を言われるよりはマシだ。なので心の中で『アレ』呼ばわりするぐらいは許して欲しい。
今日もバスルームの鏡を覗き込み確認する。鏡の中からこちらを見つめる顔が、夢の中での自分と違う事を。
「転職出来るならしたいけど、……暫くは無理かなぁ」
夢の中の自分……カレンディラは流れる様な長く美しい金の髪に、薄紫の瞳。今、鏡に映る平凡な何処にでも居そうな典型的な黒目黒髪の日本人顔とは全く違う。小さく安堵の溜息を吐き、タオルで身体を拭き、身支度を整える。今日もまた、昨日と変わらない一日。その日が始まると無意識に信じていた。いや、思い込んでいた。
あの『婚約破棄』の日までの様に。
『今藤夏蓮』が『天王寺悠仁』と初めて会ったのは、夏蓮がこの会社に就職して三年目の事だった。配置替えで総務部から転属した営業企画課に、新入社員として配属されてきたのが天王寺だった。
初めて見た瞬間、息が止まるかと思った。瞳の色こそ違うが、クセのある柔らかそうな栗色の髪も、ほんの少し垂れた目も、キリッとした口元も、自信に溢れたキラキラオーラも、夢で見る『彼』とそっくりで。
きちんと自分が挨拶出来ていたか全く覚えていないが、自分は彼の直属の部下になるべく配置替えされたのだ。仕事に私情は挟むまい、そう考えていたような記憶はなんとなくある。
あの夢はもしかしたら自分の前世なのかもしれないと考えていたが、彼が夢の中の王子が転生した姿なのか、それとも他人の空似なのか、それとも自分の単なる妄想なのかわからなかったせいもある。
ーーあなたは、ハルト様ですか?
夢の中の王子『リーゲルハルト・ファンダリア』の記憶があるのか? ……なんて聞けるはずもない。もしも記憶があったとしたら、冤罪で極刑を言い渡す様な人物と関わるのはもう御免だ。
彼と出会って何度目になるかわからない溜息を吐き、立ち上げていたノートパソコンの電源を落とし、鍵と鞄を持ち、静かに家を出た。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの裏ルートの百合エンドなんて絶対にお断りします。
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
王太子であるリオンに突き飛ばされ、その痛みからルーシエは前世の記憶を取り戻す。
電車の事故に巻き込まれ、先ほどまでやっていた『転生令嬢は華やかに愛される』というゲームの世界に悪役令嬢として生まれ変わったのだ。
ゲームをしていた時には気づかなかった、悪役令嬢としてのルーシエのあまりに悲惨な立場に、思わずどうしようもない怒りが込み上げる。
悪役令嬢から脱出を試みると、ヒロインがなぜか助けようとしてくれて?
え、その前に私を転生させたのはヒロイン?
ちょっと待って、最推しって……。
ヤンデレ百合エンドまっしぐらの展開から、絶対に逃げ切ってみせます!
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった
岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】
「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」
シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。
そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。
アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。
それだけではない。
アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。
だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。
そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。
なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。
「チャリできた!」学園の広場で断罪された上に婚約破棄までされた絶体絶命の私。その時、騎士団四天王が駆け付けた!
ねお
恋愛
伯爵令嬢のシエルは、婚約者である伯爵令息のグエンに学園内の広場に呼び出される。
そこには既に多くの人だかりができていた。
そして、大勢の人間が見守る中で、グエンはシエルを断罪し始めたのだった。
身に覚えのない罪に戸惑うシエルにグエンは婚約破棄を告げ、新たな婚約者をお披露目する。
周りからの非難の声の数々に、精神的にどんどん追い詰められていくシエル。
自分はハメられた・・・そう気づいて涙を必死に堪えるシエルの耳に、馬の鳴き声が聞こえてきたのだった。
精霊の守り子
瀬織董李
ファンタジー
森で母と二人きりで過ごしていた少女時代は、母の死で幕を閉じた。
父とは呼びたくもない男の家で貴族令嬢として教育を受けていたある日、名ばかりの婚約者から婚約破棄を告げられる。
もういいよね?家族ごっこは飽きたし。
ルーチェは己だけに許されたある名前を呼ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる