同じ過ちは繰り返さない

瀬織董李

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1.纏い付く悪夢

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『カレンディラ・コンウォールド! 貴様の悪行もこれまでだ! 皆の前、白日の元に晒してやる!』

『えっ!?』

 ああ、まただ。

 幼い頃から何度も繰り返し見た夢。

 昨日も見たのに、また今夜も見てしまったのは昼間会話をしたせいだろうか?

 童話のお姫様の様な格好で舞踏会の会場らしき場所に立ち、数人のイケメンから恐ろしい形相で糾弾される夢。

 中心に立つ俺様キラキライケメンは、どうやら本物の王子らしく、全く見に覚えのない罪を並べあげた挙げ句、婚約破棄と極刑を宣告するのだ。

 最初に見た時は訳がわからなかった。まだ幼児といえる年頃だったから。親に上手く説明も出来ず、それ以来何度も泣いて飛び起きるので、医者に連れて行かれもした。最もストレスだろうで片付けられ、そのせいで次第に親に疎まれる様になるのだが。

 内容が何となく理解出来るようになるにつれ飛び起きる事は無くなり、今ではびっしょりと寝汗をかいて目覚める程度になったが、不快であることには代わりない。

 夢の中、最後は断頭台の前に立ち、民衆の罵声を浴びながら思うのだ。

 ーー来世がもしあるのなら、その時は生涯を平穏無事に生き天寿を全うしたい、……と。



「はぁ……」

 いつもより早く目が覚めてしまったので、ぐったりとした身体を無理矢理起こし、部屋着を脱いで熱いシャワーを浴びる。若干気分は浮上したが、また会社で『アレ』と顔を合わせると思うと、気が重い。正直出社拒否したい。だが、この程度で休んで、後日御嬢様方にまた嫌味を言われるよりはマシだ。なので心の中で『アレ』呼ばわりするぐらいは許して欲しい。

 今日もバスルームの鏡を覗き込み確認する。鏡の中からこちらを見つめる顔が、夢の中での自分と違う事を。

「転職出来るならしたいけど、……暫くは無理かなぁ」

 夢の中の自分……カレンディラは流れる様な長く美しい金の髪に、薄紫の瞳。今、鏡に映る平凡な何処にでも居そうな典型的な黒目黒髪の日本人顔とは全く違う。小さく安堵の溜息を吐き、タオルで身体を拭き、身支度を整える。今日もまた、昨日と変わらない一日。その日が始まると無意識に信じていた。いや、思い込んでいた。

 あの『婚約破棄』の日までの様に。

今藤夏蓮こんどうかれん』が『天王寺悠仁てんのうじはると』と初めて会ったのは、夏蓮がこの会社に就職して三年目の事だった。配置替えで総務部から転属した営業企画課に、新入社員として配属されてきたのが天王寺だった。

 初めて見た瞬間、息が止まるかと思った。瞳の色こそ違うが、クセのある柔らかそうな栗色の髪も、ほんの少し垂れた目も、キリッとした口元も、自信に溢れたキラキラオーラも、夢で見る『彼』とそっくりで。

 きちんと自分が挨拶出来ていたか全く覚えていないが、自分は彼の直属の部下になるべく配置替えされたのだ。仕事に私情は挟むまい、そう考えていたような記憶はなんとなくある。

 あの夢はもしかしたら自分の前世なのかもしれないと考えていたが、彼が夢の中の王子が転生した姿なのか、それとも他人の空似なのか、それとも自分の単なる妄想なのかわからなかったせいもある。

 ーーあなたは、ハルト様ですか?

 夢の中の王子『リーゲルハルト・ファンダリア』の記憶があるのか? ……なんて聞けるはずもない。もしも記憶があったとしたら、冤罪で極刑を言い渡す様な人物と関わるのはもう御免だ。

 彼と出会って何度目になるかわからない溜息を吐き、立ち上げていたノートパソコンの電源を落とし、鍵と鞄を持ち、静かに家を出た。
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