7 / 11
7
しおりを挟む
「そ、そもそも何故お前がそれを知っている!?魔導契約で侯爵は誰にも言えなかった筈だ!」
契約では侯爵に対し契約内容を誰かに話すことはおろか、文章として残すことも禁じていた。つくづく王家に有利のある内容だった。
「抜け道があるのですよ」
「抜け道だと!?」
セレネは一瞬話すか迷った。これは魔導契約の意義を覆す事だからだ。しかしもう権力にものを言わせ一方にだけ不利な契約を無理矢理結ばせる様なことはあって欲しくない。
「父が亡くなった後、私は父が残した日記を見つけました。それは書斎の机に作られた隠し抽斗のそのさらに奥に仕舞われていた。その日記に書かれていたのですよ『文字』が」
日記に文字が書かれている事など当たり前ではないか。セレネの告白に耳を澄ませていた周囲が首を傾げる。
「そう、『文字』です。父が魔導契約を結ばされてから約一年後から始まっていた日記には、毎日日付と『一文字』だけが記されていました」
「い、一文字だと!?」
「文章で残すのは出来ない。契約に関わりそうな単語も無理だった。試行錯誤した父がたどり着いたのは一文字ずつ毎日記す事だった。日付を挟むことによって契約の強制力はそれを文章と認識しなかったのです。私も最初それが何を意味するのかわかりませんでしたが、すぐに文字を繋ぐと文章になることに気付き、解読し……納得したのです」
セレネはそこまで話すと一旦口を閉じ、国王と王太子二人をそれぞれ睨み付けた。視線にのせられた魔力の威圧を感じ、二人がビクッと竦み上がる。
「父は私の幼少から亡くなる寸前までずっと事あるごとに『すまなかった』『申し訳ない』『私のせいで』、……そうわたくしに言い続けました。何故父がそこまでわたくしに負い目を感じるのか、ずっと疑問でした。何度聞いても何故かは言えない、と言われていたので」
病で生涯を閉じる寸前までうわ言のように呟いていたその言葉。目を閉じると思い浮かぶ父の思い出は、自分を見る後悔に満ちた眼差しばかりだ。セレネが生まれてすぐに妻を亡くした彼は、もしかしたら自分一人で秘密を抱える事に疲れ果ててしまったのかもしれない。
「先程殿下は仰いました。私と殿下の婚約は父が平和的に王位を簒奪するためのものだ、と。父は本当なら断りたかった。ですが、代々王家に使えてきた先祖、そしてなにより今を生きる領民の為、娘を犠牲にする道を選んだのですよ。ずっと後悔する羽目になったとしても。それは、偏に王家に対する忠誠故……その思いを殿下の発言は汚したのです」
父が隠していた『もの』が何かはわからなかったが、王家に対する深い忠誠心は感じ取れていた。だから王宮でも、学園でも堪えたのだ。自分がどれ程蔑みの視線に晒されたとしてもだ。何度逃げ出したいと思ったか、何度自由になりたいと思ったか。それでも王家の為に……王太子の婚約者として恥じぬ様に……
そんなセレナの思いを、王太子は簡単に裏切った。率先してセレネを貶め、他の女を侍らし、ついには婚約破棄に踏み切ったのだ。
契約では侯爵に対し契約内容を誰かに話すことはおろか、文章として残すことも禁じていた。つくづく王家に有利のある内容だった。
「抜け道があるのですよ」
「抜け道だと!?」
セレネは一瞬話すか迷った。これは魔導契約の意義を覆す事だからだ。しかしもう権力にものを言わせ一方にだけ不利な契約を無理矢理結ばせる様なことはあって欲しくない。
「父が亡くなった後、私は父が残した日記を見つけました。それは書斎の机に作られた隠し抽斗のそのさらに奥に仕舞われていた。その日記に書かれていたのですよ『文字』が」
日記に文字が書かれている事など当たり前ではないか。セレネの告白に耳を澄ませていた周囲が首を傾げる。
「そう、『文字』です。父が魔導契約を結ばされてから約一年後から始まっていた日記には、毎日日付と『一文字』だけが記されていました」
「い、一文字だと!?」
「文章で残すのは出来ない。契約に関わりそうな単語も無理だった。試行錯誤した父がたどり着いたのは一文字ずつ毎日記す事だった。日付を挟むことによって契約の強制力はそれを文章と認識しなかったのです。私も最初それが何を意味するのかわかりませんでしたが、すぐに文字を繋ぐと文章になることに気付き、解読し……納得したのです」
セレネはそこまで話すと一旦口を閉じ、国王と王太子二人をそれぞれ睨み付けた。視線にのせられた魔力の威圧を感じ、二人がビクッと竦み上がる。
「父は私の幼少から亡くなる寸前までずっと事あるごとに『すまなかった』『申し訳ない』『私のせいで』、……そうわたくしに言い続けました。何故父がそこまでわたくしに負い目を感じるのか、ずっと疑問でした。何度聞いても何故かは言えない、と言われていたので」
病で生涯を閉じる寸前までうわ言のように呟いていたその言葉。目を閉じると思い浮かぶ父の思い出は、自分を見る後悔に満ちた眼差しばかりだ。セレネが生まれてすぐに妻を亡くした彼は、もしかしたら自分一人で秘密を抱える事に疲れ果ててしまったのかもしれない。
「先程殿下は仰いました。私と殿下の婚約は父が平和的に王位を簒奪するためのものだ、と。父は本当なら断りたかった。ですが、代々王家に使えてきた先祖、そしてなにより今を生きる領民の為、娘を犠牲にする道を選んだのですよ。ずっと後悔する羽目になったとしても。それは、偏に王家に対する忠誠故……その思いを殿下の発言は汚したのです」
父が隠していた『もの』が何かはわからなかったが、王家に対する深い忠誠心は感じ取れていた。だから王宮でも、学園でも堪えたのだ。自分がどれ程蔑みの視線に晒されたとしてもだ。何度逃げ出したいと思ったか、何度自由になりたいと思ったか。それでも王家の為に……王太子の婚約者として恥じぬ様に……
そんなセレナの思いを、王太子は簡単に裏切った。率先してセレネを貶め、他の女を侍らし、ついには婚約破棄に踏み切ったのだ。
181
お気に入りに追加
3,549
あなたにおすすめの小説

何故恋愛結婚だけが幸せだと思うのか理解できませんわ
章槻雅希
ファンタジー
公爵令嬢のファラーシャは男爵家庶子のラーケサに婚約者カティーブとの婚約を解消するように迫られる。
理由はカティーブとラーケサは愛し合っており、愛し合っている二人が結ばれるのは当然で、カティーブとラーケサが結婚しラーケサが侯爵夫人となるのが正しいことだからとのこと。
しかし、ファラーシャにはその主張が全く理解できなかった。ついでにカティーブもラーケサの主張が理解できなかった。
結婚とは一種の事業であると考える高位貴族と、結婚は恋愛の終着点と考える平民との認識の相違のお話。
拙作『法律の多い魔導王国』と同じカヌーン魔導王国の話。法律関係何でもアリなカヌーン王国便利で使い勝手がいい(笑)。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。


婚約破棄していただきます
章槻雅希
ファンタジー
貴族たちの通う王立学院の模擬夜会(授業の一環)で第二王子ザームエルは婚約破棄を宣言する。それを婚約者であるトルデリーゼは嬉々として受け入れた。10年に及ぶ一族の計画が実を結んだのだ。
『小説家になろう』・『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

思わず呆れる婚約破棄
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。
だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。
余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。
……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。
よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

ある愚かな婚約破棄の結末
オレンジ方解石
恋愛
セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。
王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。
※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。

高慢な王族なんてごめんです! 自分の道は自分で切り開きますからお気遣いなく。
柊
恋愛
よくある断罪に「婚約でしたら、一週間程前にそちらの有責で破棄されている筈ですが……」と返した公爵令嬢ヴィクトワール・シエル。
婚約者「だった」シレンス国の第一王子であるアルベール・コルニアックは困惑するが……。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる