隣の芝は青く見える、というけれど

瀬織董李

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一年後-終幕-(王太子視点)

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「そういえば、大公閣下はどうなさってますの?もうずっとお姿を見てませんけれど」

「ああ、叔父上か」

 叔父はあのあと一応可愛がっていたアルフレードが子爵家へと追いやられるように婿に行かされたのがショックだったらしく、暫くは放心状態だったのだが、何故か突然アルフレードが産まれてから全く無関心だった夫人の存在を思いだしたらしく、離れへと向かった。しかし其処はもぬけの殻。何故ならこれ以上は王宮では世話を続けるのは難しく、実家に返すことも出来ない夫人を、父達は離宮へ住まわせることにしたからだ。王宮内をあちこち探し回ったらしいが、わかるはずもない。うちの優秀な使用人達は誰一人口を滑らす事はないからだ。

 息子も妻も居なくなってしまった叔父は、今は覇気無く操り人形の様に大して重要でもない書類にサインするだけの日々を送っている。父はそんな叔父に対して、もう情のかけらも無いらしく、『逆に奮起して簒奪を企てるくらいの気概があったのなら、もう少し楽しめたんだがな』と言っていた。……私が王位を継承するのはまだまだ先のようだ。

「母が亡くなり、父が再婚し、アルフレード様と婚約させられた。もう私には何も残っていないと諦めそうになったこともありました。だけれど、クラウディオ様が居てくださったから乗り越えられましたのよ?ほとんど手紙だけのやり取りでも絆を感じられたお陰です。諦めなくて本当に良かった……」

 ほう、と頬に手を当て微笑むカルラ。それを見た私の中の、何かが切れる音がした。

「……よし。今夜は一緒に寝よう」

「は?えっ!?あ、あの?」

 一年近くお預けされた上に、ここ暫くは結婚式と式後のスケジュール調整でカルラとなかなか会えず、カルラ成分が不足している。どうせあと一月、そしてまだ一月だ。もし妊娠してしまったとしても一月先ならまだ腹は大きくならないから衣装に差し障りは無いし、まだ一月あるなら二、三日動けなくなっても構わない筈だ。

「いいえ、差し障りしかありませんね」

 突然現れた宰相にガシッと肩を掴まれる。痛い。めちゃくちゃ痛い。

「あ、お義父様」

「可愛いカルラ。さあそろそろ帰ろうか。今日は皆で一緒に晩餐をしよう。フランカが待っているよ。エリオもジュストも喜ぶ」

 厳つい顔でにこにこ笑うというのがこれ程恐ろしいとは思いもよらなかった。この男、文官の癖になんでこんなに力が強いんだ。その上夫人と孫息子達の名前を出されたら勝てないじゃないか。

「は、はいお義父様。でも、クラウディオ様は……?」

「ああ、大丈夫。殿下は今日は徹夜でなさるお仕事があるのだよ。お前が心配しなくても問題ないよ。殿下は非常に仕事熱心かつ要領が良いお方だからねえ。きっとそつなく明日の朝までには終わらせられるよ。そうですよねえ、殿下。頑張って仕事で発散させて下さい」

 ああ、クソっ。わかったよ。愛妻家の宰相に見つかったのが運の尽きだったな。

 ……一月後が待ち遠しすぎる。宰相とカルラが立ち去った後テラスから見える空にボソリと呟いた私の心からの声は、控えの騎士や侍女にサラリと無視された。



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これにて完結です。ありがとうございました(ぺこり)
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